学園入学編ⅩⅩⅠ
21話目になります!!
なんだかサブタイトルの数字標記がいまいちな様な・・・
影、自らの中に入り外の世界より色あせた空間をゆっくりと歩く。
「化け物め…まずは我が主を前に跪きもせぬ足を頂こうか」
声は外には届かないが感情が高ぶっている所為か独り言が口をついて出てきてしまう。
目の前の忌々しい龍人を弄る口実を再確認する様に。
「脚の前にまずは一度!!」
影の中で足元に移動し、背中に刺した刀を抜きざまに仁の頭に切りかかる。
影から突然、刀の刃だけが降りかかってくるが仁は動じず手の甲で軽く弾く。
強度と柔軟性に優れる鱗に弾かれ傷一つつくことはなかった。
「こそこそと狙ってきているが、その程度では防がなくとも俺の体を貫くことはできない。もうやめておけ」
銀蒼は答えず刀を影の中に引き戻す。
やはりと言うべきかこの程度では毛ほどの傷もつかない様だ。
灼華の能力をもってしても大きなダメージは与えられなかったが今の自分は影そのもの。やりようはいくらでもある。
だがまずは外からの攻撃の耐性をみる必要がある。
そこまで瞬時に考えると再度、影の中から切りかかる。今度は各部の間接に対し刀を突き入れていくがみな同じ結果に終わる。
関節部にはその動きを妨げない様になっているためか他より鱗が小さい。
小さい分、他の腕や胸とは違い脆い。だがその分再生速度が尋常ではなかった。
一度かするほどの傷でも付こうものならすぐさま剥がれ落ち、それが剥がれきる前には元通りに生えそろっている。
この光景にやまり化け物めと言葉が漏れ出てきてしまう。人類には無い異常な再生速度。
弱点など無いように思えてくる。だがそれは外からの攻撃に対しての話。
銀蒼は今いる空間より、一層深い所に刀を突き刺す。
すると同時に仁の腕が跳ね上がる。その腕からは大量の血と手の甲の内側から刃が生えていた。
「なに!?」
手の甲から生えた刃は仁が掴み取るより早く内側に吸い込まれるように消えていく。
鱗は貫かれているわけではないし、外側からの傷は見受けられない。
能力を使って鱗の内側から、いや体の内側から切り裂いたのだろう。
そう当たりを付けた仁だがいかんせん視認できない場所からの攻撃。しかも自分の体の内側からの攻撃は防ぎようがない。
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存在している空間が違うだけでそこにはたしかに居る。
しかし攻撃の兆候、視認、気配のどれをとっても感知できない。正直言って反則級の能力である。
この力の使い方は本来、影との性質変換である。
実体がある肉体の性質を、実体のない影と入れ替える。
肉体はそこにあるが、影の性質を持つため触れることが出来ない。
それでは、影と入れ替わった実体はどこへいくのかという事になるが、もともと銀蒼の能力は影の中を自在に移動できるというもの。
その移動の際は影の中に実体のある肉体を一時的に入れることで移動できるようにしている。
すなわち唯一の弱点となりえる肉体を影の中に入れてしまう事で無効化しているのだ。
では影の性質のままでは攻撃できないのではないかと考えてしまうがそこは応用でカバーされている。
影の中にいる肉体は決して意識が無い訳ではない。
よって、影から外に対し一部もしくは一時的に実体を移動させることで攻撃をしているのだ。
厳密にいえば攻撃と言うよりも、移動の過程で先にある障害物を通過しその対象物を押しのけた際に実体側に移動軌跡が傷として残ると言ったところだろうか。
そして視力を失った銀蒼にとって、余りあるほど魅力的で強力な能力だった。
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実体と影の性質を組合せ多彩な攻撃を繰り出す銀蒼に対し、仁は全く対抗することが出来なかった。
影から出てくるのは刀や投擲物のようなものばかりで徹底して弱点となりえる身体は姿を現さない。
そして外側からの攻撃は意味のないものだという事を理解している様で、外からの攻撃は主に搖動のために使い、内側からの攻撃による絶対攻撃を主軸に置いた確実な方法をとっている。
いくら再生力が人間を超えているとはいえそれも無限には続かない。
徐々にだが傷の塞がる速度が遅くなってきていることを仁は感じ取っていた。
(これはまずいことになったな。このままでは押し切られる、なにか打開の策は…)
ガードをしても体の内側からの攻撃を防ぎようもなく、ただひたすら仁王立ちのまま黙考する。
だが思案の甲斐は無く、時間と肉体へのダメージだけが残っていく。
最終手段は確かにある。ただし使えば銀蒼のみならずここに居るすべての者達を犠牲にする可能性もある。
そうなると人類との共存など一瞬のうちに泡と消え、また罪のない一族が命を狙われる事になる。
だからこのカードだけは切る事は出来ない。
他の手を考えるがいい案が無い。ならばもう動くほかない。
まだ体に余力はあるがこれ以上は無視できない。
仁は翼を広げ空へと飛びあがる。
「今からこの一帯を吹き飛ばす。そこで見ている者等よ、その場も無事では済まんぞ!さっさと退くがいい」
仁の呼びかけに見物していた生徒の塊散り散りになって離れていく。秋達を残して。
そんな秋は気にするなとばかりに仁に向かってヒラヒラと手を振っている。
始めから分かっていたことだが改めて秋の底がしれないと思う仁。
未知の攻撃に対し、無傷で防ぎきれると言う絶対とも言える自信は一体どこからくるのか。
気にはなるがまずは目の前の銀蒼だ。意識を再度元に戻すと足から突然血が噴き出す。
(空中にまで攻撃できる術があるのか)
鎖鎌を投擲し仁の脚を貫いた銀蒼は大したダメージを与えられない結果に舌打ちをする。
やはり投擲だと大きな物体を飛ばさなければ有効なダメージは見込めない。
影の性質上どうしても地面から離れることが出来ない。
もちろん飛ぶこともできるのだが影としての性質を無くし、実体での行使が必要となる。
基本的に人間相手だったら能力などで飛ぶ以外は脅威にはなりえないのだが、いかんせん相手は空を自在に飛ぶことが出来る龍人。
思わぬ形で不利な形になってしまった。
大きなダメージは与えられないとはいえ、能力さえ解除しなければ攻撃を受けないという事は変わらない。
時間はかかるがジリジリと削っていくしかないと自らを納得させる。
だが仁は違っていた。
空中に移動した後から攻撃の手数が減りダメージが減っていることに気が付いていた。
銀蒼には飛行するまたは空中への攻撃手段が少ないのではないかと。
(俺の想像が正しければ地からの攻撃は投擲または射撃しか方法は無いはず…ならば!!)
すると仁は今いる位置から更にはるか上空に飛んでいく。
この様子に銀蒼は再度、舌打ちをする。
自分の能力の欠点にここまで早く気が付かれるとは思ってもみなかった。
影の性質は攻撃を受けることに対してはほぼ無敵だが、いざ攻撃をするとなるとそれが足枷となり弱点となってまう。
一時的に実体を出す必要もあるし、地面から離れられない。
誰かのアシストで地面を隆起させたりできれば攻撃範囲も広がるのだが、この場では自分一人しかいない。
やはりここは一度、表の世界に出て地形に変化を与え有利なフィールドに変えるほかないと決断する。
何とか下に居る人影が視認できる程、遥か上空に舞い上がった仁は先ほどまでそこには居なかった銀蒼の姿を見止める。
「こそこそ隠れる事をやめたか…。この状態では奴は手出しできんか。ならばこちらの番と行こうか!!」
一人つぶやくと天高く右腕を突き上げる。
突き上げた拳にあらん限りの力を籠め、おもいきり地上に居る銀蒼めがけ振り下ろす。
拳に押しつぶされた空気の塊が勢いを緩めぬまま地上に降り注ぐ。
風の動きを敏感に察知した銀蒼は大きく後ろへ跳躍する。すると先ほどまでいた場所に空気の塊が当たり大きく陥没する。
衝撃で飛び散る土埃を全身に浴びた銀蒼は驚愕する。
「遥か上空からこれほどまでに強力な攻撃ができるのか!おのれ化け物め…この私が先遅れをとるとは!」
見えない目で上空に居る仁の気配を感じ取り忌々しげに睨む。
仁もその表情までは見えないが銀蒼が避けたことに驚きを感じていた。
「うむ、あれを避けるとは…だが同じ攻撃とはいえ何度も避けられるかな?」
そういって仁は両腕で何度も衝撃波を打ち出す。
銀蒼は影に隠れず風の気配を感じ次々に避けていく。
周囲は土煙がもうもうと立ち込め上空へと昇って行く。仁は銀蒼の姿が見えなくなってしまいっているが、気配でそこにいることを感じ取っていた。
すべての攻撃を避け続けたにもかかわらず息一つ乱していない様だった。
仁の攻撃を避け切った銀蒼は反撃を開始する。
じっと動かず上空の仁を見上げる銀蒼。マスクの裏で口元が三日月に裂ける。
次の瞬間、仁の腹部から刀が生えていた。
刺さったままの刀がある腹部の痛みが引かず、声も満足に出すことが出来ない。
やっと絞り出す様に声が出たが、それは口から吐き出される血を出すためのものだった。
いまだ刀を握り傷口をえぐっていく銀蒼の顔には初めて喜色が浮かぶ。
「ようやくまともに痛がってくれたな。さすがの化け物も内側からの刺し傷をえぐられたらひとたまりもないな」
「ぐっがぁ。貴様…いつの間の背後に…」
「わざわざ教えるほど優しくはない。それに人類の言葉が化け物如きに通じる訳もないのでな」
痛みに動けず呻く仁の傷口を更にえぐりながら、銀蒼は醜悪な笑みをマスクの奥で浮かべ問う。
「痛いか?ならば答えろ。だれが我が主を殺した者なのだ。さもなくばここで貴様は終いだ」
「がぁぁ…。言っただろう。灼華の為にもここでは言えんと!!」
「そうか。化け物とはつくづく愚かしい生き物だな」
銀蒼は腕に力を込め刀を引き抜いた。
吹き出す鮮血を浴びる前に影の中へと消え地上に降り立つ。
その後出血の所為か、仁は頭から地面に振ってきた。
もうすでに龍人化した体は人間のものに戻っている。
意識はあるが立つこともままならない仁の前に銀蒼が現れ、首元に刀を添えた。
「最後に問う。主の仇は誰だ」
「…言わぬ」
仁の返答が分かっていたのか、言いきる前に銀蒼はその刀を首に突き立てていた。
今度は避けようともせずに、歓喜の声を上げながら赤く吹き出す血の雨を浴びていた。
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