学園入学編ⅩⅧ
18話目です。
いつも遅くなって申し訳ありません。
今回からバトルです。
女の子2人の話し合いは、秋が2人との時間を平等に取るという事で一応の収束を向かえた。
このクラス決めが終わったら蓮と、次の休日の半日は沙理と過ごすことになった。
始めは万年モテナイの俺が!なんて思っていた自分の浅はかさを呪いたい。
なぜかって?簡単さ。彼女なんていたことないから女性の扱いも知らんし、どっちかを彼女にすんならどっちかを断るってことだろ?俺に出来ると思う?
と、まぁこんな感じでぐるぐると頭の中でいろいろな思考が駆け回っている状態だ。
だが今は一応クラス決めと言う大事なイベント中だ。
もやもやする頭の中に少しだけスペースを空けて次の試合に出場したいグループの呼びかけををする。
今のメンタルがこんな感じだから、出来れば次は仁が行けばいいのになんて思いながら。
「はいはーい!次の試合をしたい人達はいるか?居ないならここでおしまいだぞー」
秋の呼びかけに対し誰も前に進み出て来ない。
それもそのはず。
蓮の戦闘もそうだし、さっきの久人の戦闘もそうだが、周りで見ていた連中は関わりたくないと思ってしまったらしい。
始めの宣言通り1人で4人を相手にして、自身は両腕を失っているのに笑みを浮かべながらもっともっとと戦闘を楽しむ変態野郎のグループメンバーにまともな奴が残っているはずがないと思われても不思議はない。
残っているのは秋と仁。
仁はデフォルトでデカい体をしてるし、遠くから見ていても変な威圧感を感じるのか、得体のしれないものを見るような目で見られている。
一方、秋はと言うと、これも同じく瀕死の人間を元に戻したり、能力を無効化されたりするほど異常な人物という認定をされてしまったようである。
残り物には何とやらとは言うが、残った奴らも明らかにどこか異質だと感じるのはおかしいことではないのかもしれない。
終始にやけ顔の久人を一睨みしてやるが、本人は嬉しそうに手を振っているだけ。
このまま終わりでもいい。だが、さすがに出番ナシは気が引ける。
そんな俺の心の声が聞こえたのか、俺の呼びかけの後に周囲に集まっているグループに仁が提案をする。
「次の試合は俺が相手をさせてもらう」
周囲の生徒達はどよめく。
今まで腕を組んで目を閉じ、じっと自分の指名を待っていた仁が自らが相手をすると言い出したからだ。
ただでさえ恐怖感を与える風貌や雰囲気なのに自分でやる気を出してきたのだから、相手をすると考えただけで周囲の生徒達は更に萎縮して間を取っていく。
だが仁はそんなことは織り込み済みだった。
「だが、すこし提案がある。今この場に居る、俺と戦いたいと思う者達全員でかかってくるといい。全員でとなると誰が倒したのかという事になるだろうが、そこは最後に止めを刺したものとしよう。だから強い奴らが弱らせてそこを狙うでも一向に構わん」
一歩引く形になっていた周囲の生徒達はこの話を聞き、再度どよめく。
隣の奴と話をするもの、なにか準備を始めるもの、グループ間で結託するもの達。
と様々な様相を呈しているが、皆目的は一つになっていた。
卑怯でもなんでもとにかく最後に止めを刺せば勝ち!
この一点の目的の為に、前に踏み出してくる。
秋はこの光景にため息をついた。
理由は二つ。
一つは、簡単に口車に乗せられる周りの奴らの残念具合へのもの。
もう一つは、この一見無茶な試合内容を明らかに楽しみにしている戦闘狂がここにも一人居たという事実に対してのもの。
たぶん久人の試合に触発されたのだろう。
強者が辺りに居ない事をわかっていて、物量で戦闘欲を満たそうとした結果がこれ。シンプルな事である。
結局集まった人数は総勢32名。グループでいうと8グループにもなる。
いくらなんでもさすがにに多すぎじゃ…ないみたいだ。
仁は満足そうに頷いている。
その様子を横から見ていた久人が少し譲ってくれと交渉しているが、自分の番は終わりだと簡単に突っぱねられる。
諦めろ久人。お前は十分にやった。だからおとなしくそっちに座ってろ。
あからさまに気落ちしている久人は置いとくとして、仁はすでに戦闘モードに入っていた。
「やる気十分は構わないけど、あまり被害出すなよ。意味わかるよな?」
「わかっている。蓮に嫌なものは見せんさ。それに燐にもガード役として強さの程を見せておかねばならんしな」
「仁…燐が頑張ってって。でも…程々にって」
「承知した!燐はそこで安心して見ていろと伝えてくれ。と言っても聞こえているだろうがな」
こくんと頷く蓮を確認すると、後ろ手を上げる仁。
大勢の挑戦者が集まる前まで進み出ていく。
その後ろから付いていき大勢の相手と対峙する仁との間に立ち、試合の宣言とルールの確認をする。
「じゃあ始めるけど、ルールは負けを認めるか戦闘不能になった時点で終了。それと今回は人数が多いから、最後に倒した奴が所属するグループを勝ちとする。勝てるなら何でもOKなんだよな?それが卑怯な手でも」
「それで構わん。ここにいる秋が試合の終わりを宣言するまでにであればな」
「ってことだから大丈夫か?質問とかない?」
仁と秋以外の生徒は、仁を中心に囲む様にまばらに散っていく。
仁はその様子に気づくものの微動だにしない。
取り囲むような陣形が完成すると同時に、仁が合図を求める様に視線を向けてくる。
人の言葉聞いてんのか!質問無いかって言ってるのに勝手にはじめやがって!
無視されたこともそうだが、仁の急かすような目にも少しの苛立ちと諦めをもよおした。
うん。もう、さっさとはじめるか…
「はぁ、そんじゃあ……はじめ!」
秋のやる気のない合図で前衛に居た10人が四方からそれぞれの能力を使い襲い掛かる。
仁はざっと見回すと、右手側に走り出す。
「悪く思うな。今俺の前に居る4人はリタイアだ」
「ッチ!なめるなよ!」
「おい、お前!陣形を乱すな!」
「黙れ!奴は俺がやる!」
仁の宣言に4人のうち1人が最前に飛び出す。
共闘している他グループの奴が止めにかかるが、もうすでに動きだしている為間に合わなかった。
飛び出した奴は左右の腕を前に突き出し叫ぶ。
「チェンジウェポンズ!ライト・ランス!レフト・ソード!くたばれ!」
体の一部を自分の望む武器に変える力だろう。右腕が長槍、左腕が片手剣に変化している。
長槍を突き出し剣を振り上げる。
仁は槍が迫っているにも関わらず走るスピードを一向に落とさない。それどころか槍に向け左の掌を突き出す。
槍は仁の左手に吸い込まれてはいかなかった。
硬質な何かに当たったかのように、槍の先端は止まっている。驚愕に染まる表情のまま訳も分からずといった感じで左腕の剣で肩に切りかかるが、その刃先も皮膚一枚きれずに止まってしまった。
「なんだ、なんで切れないんだ!」
「先にも言ったが…お前はリタイアだ」
何故切れないのかの問いには答えずに、結果だけを告げ懐に飛び込む。
決して早くはないが、呆然としている相手には消えた様に映っただろう。したから突き上げるように繰り出した右腕が顎をとらえ1人目の意識を刈り取った。
「残り31。さて、どれほど持つか楽しみだな」
一人目がやられたことで動きが鈍くなる一同を気にも留めず再び前へと走り出す。
目の前にいる残り3人に向かって。
「聞いていたか?再度言うが4人リタイアだと言った。残りはお前ら3人だ」
巨体から発せられる威圧に耐え切れず、1人は体を硬直させたまま気を失い倒れる。
その様子に横に居たもう一人がパニックを起こし悲鳴をあげ逃げ出す。
これで2人リタイア。その2人にはもう目もくれず最後の一人に向かっていく。
残る1人は目の前の恐怖から身を護ろうと能力を発動させる。
「く、くるな!ゾーン・マッドグラウンド!」
両腕を地面に叩きつけ能力を発動する。
自身の周囲360度、半径20M程の地面を底なしの泥沼に変化させる。
周囲を囲むことで安全を確保したと思い込み膝をつく。がしかし、それは間違いだったと思い知らされる。
仁は直前で跳躍すると泥沼には落ちずそのまま、まっすぐに空を飛んでくる。
その背中からは一対二枚の翼が服を突き破って出ていた。
泥沼をの中心であっと声を出す間もなく、文字通りすべてを飛び越えて、恐怖はやってきてしまった。
そしてそのまま鳩尾に一撃をもらい意識を失った。
「残り28人」
ばさりと翼を動かし元居た位置に戻ると、周囲を見回し次の獲物を探す。
仁と対峙していない第三者からみれば、多対一が有利なのはわかりきったこと。
だが目の前の1人は、得体のしれない何かである。多対一と言うハンデは全く意味をなしていなかった。
仁の品定めが終わらぬうちに、そのことにいち早く気が付いた20名の対戦相手はリタイアを宣言し対戦枠外から脱兎のごとく去っていく。
「残り8人。だが、今残ってるやつらはやる気があるのか?それとも動けないだけか?」
仁の問いにようやく緊張が解け地面へたり込むものが3人。
これで残り5人になってしまった。
あれだけ人数集めて煽ったのだが、すこし力を出しただけでこの有り様だ。
まだ能力も使っていないのにだ。
だが残りの5人は少なくともやる気はある様だ。戦闘態勢は解いていない。
(見たところ2人程いいものを持った奴がいるが、あとはよく踏ん張っていられるといったところか…)
仁が無言のまま残る5人を見ていると、うち1人が前に出てきている。赤色の長髪を頭の横で左右に縛り上げ、両手には手首から肘まで程の短刀が1本づつ握られている。
細見で華奢な印象を受けるが、衣服から露出した腕と脚はしなやかで柔軟そうな筋肉が付いているのが見て取れる。
一歩一歩と踏み出す足捌きもまったく音がしない。
相当長い年月を修練に割いたものの身のこなしや体つきをしている。
そしてそれが、女の子であるという事に少しの意外感を覚えた。
そして仁のその一瞬の挙動を突くようにそこから消えた。
次の瞬間には仁の真後ろに移動してきていた。
人が通った後のわずかな気流を感じ、能力ではなく己の脚力で移動したのだとわかるがあまりにもはやい。
だが仁は今の出来事が無かったかのようにゆっくりと振り向く。
「早いな…名前はなんだ?お前はなかなか見込みがある。しかしまだ足りないものがある」
「初対面に対していきなりですわね。失礼な物言いにはそれ相応の報いがありましてよ?」
仁の正面に立つ少女がサイドに結った赤い髪をさらりと一撫ですると、仁の右肩から突然血しぶきが舞う。
仁は痛みはさほど感じていなのか、切りつけられた肩を人差し指で一撫ですると不敵な笑みをつくる。
「初対面の相手をいきなり切りつけてくる輩が失礼だとは習わなかったのか?」
「そうですわね。わたくしの家系では先手必勝と言いまして、それが相手に対する作法なのですわ。ただ、今の一撃で眠らせてあげられなかったことが失礼に当たりましたわ」
「なかなか言ってくれる。それで?名はなんだ」
少女は不敵に笑い、先ほどとは逆の髪を撫でる。
また仁から血しぶきが舞う。今度は左の太腿。
血を流す仁の姿ににこりと笑みをこぼすと少女は名乗った。
「赤銅灼華ですわ。あなたには覚えて貰う必要はありませんわ」
少しの溜めを作り、赤い髪を揺らしながら灼華は続ける。
「人ではないあなたに通じる言葉などないのですから」
如何でしたか?
今回は仁の回でした。
次回もお楽しみに!!