学園入学編ⅩⅦ
ようやく更新です。お待たせして申し訳ありません・・・
今回は戦闘ナシ回です。
その黒い羽根は意思があるのか、久人の手の上でフワリと浮いては落ちるといった事を繰り返している。
この羽根の反応に一も二もなく飛び付いたのは夏輪だった。
「ガムルジン!!そうだよね?そうなんでしょ!」
「たぶんそうだと思うよ。最後の攻撃で僕が消したと思ったんだけど羽根が一枚だけ残ってたんだ。そしたらそれが動いたり光ったりするから気になってね。君が言うならやっぱりさっきの黒馬なんだねそれは」
口もないただの羽根だから当然だが、夏輪の呼びかけにもいまいち反応している様子がみられない。
すると久人はそのはねを見ながら初めに言っていた、「お願い」を言ってきた。
「さっき言ってたお願いなんだけど、秋ならこの羽根から黒馬を元に戻せるでしょ?やってくれないかな?」
「それ出してきたあたりから予想はしてたよ。それは大丈夫だが魂が無いとただの抜け殻になっちまうぞ?」
「それは大丈夫だと思うよ?ねぇ夏輪くん?」
羽根が気になるのかずっと見つめ続けていた夏輪に久人は呼びかけた。
「うん。たぶん。呼んだ僕だからわかるけど、この羽根からはガムルジンの魂を感じる」
「ってことだから大丈夫だよ。だから元に戻してくれるかな?」
「わかった。っと言いたいところだが、なんでこいつを元に戻すんだ?まさか夏輪のためだとか言い出すわけじゃないよな?お前に限ってそれは無いと思うけど」
そこまで言われても腹が立たないのか、久人はにこにこして秋の言葉を肯定する。
「さすが秋!確かに夏輪くんの為ではないね。目的はこの黒馬を元に戻せばもっと強くなって僕に挑んでくるかもしれないでしょ?壊れたまま放っておくよりも絶対いいって思ったからね」
「やっぱそんなことだろうと思ったよ。お前はわかりやすいんだかにくいんだか。んで、夏輪くんはいいのか?戻しても」
「当たり前だよ!こんなチャンスはもうないかもしれない。君にしか戻せないなら尚更お願いするよ!」
「聞くまでも無かったけど、それでいいなら戻してやるか。久人、その羽根よこせ」
俺の言葉に満足したのか、それともこれから強い奴が再度産まれてくるのが嬉しいのか、満面の笑みでその黒い羽根を俺に渡した。
羽根を受け取ると力を注ぎ、宙に放り投げる。
宙に漂う羽根から黒と青が混じった光がにじみ出てくる。
やがてそれは元の黒馬の形を成し地面にしっかりと降り立った。
黒馬は元に戻った体を確かめ、二度三度と蹄を打ち鳴らすと辺りを見回す。
いまにも泣き出しそうな夏輪に一度目を止めると優しい顔で頷き、秋に視線を固定する。
「お主が元に戻したのか?」
「そうだけど、なんか不満でもあったか?それともどこか元に戻りきらなかったか?」
「いや、完全な状態じゃよ。むしろ前より調子はいい方じゃ。感謝する」
「それは何よりだ。久人に礼でも言っとけ」
よかったよかったと頷く秋。
だがガムルジンは久人に険しい目つきで視線を向ける。
「小僧、どういう風の吹き回しかは知らんが今回は感謝する」
「どういたしまして。君に戻ってもらったのはまた戦いたかったからだよ。あれだけ傷ついたのは久しぶりだったしもっと楽しみたかったしね」
「小僧の戦闘狂ぶりには限度はないのかの。まぁまたその機会にじゃの」
「さて礼もそこそこじゃが…夏輪よ」
不意に呼ばれた夏輪だがその気配を感じとっていた。言いたいことは山ほどあったが、ガムルジンの次の言葉をじっと待つ。
「今しがたこの小僧がまた戦いたいと言っておったが、主はどう思った?」
やはり思った通りの事を聞かれてしまった。夏輪は嘘偽りない本音をこぼす。
「正直、僕はもう二度と戦いたくない。あんな思いをするのもさせるのも、もうたくさんだ。だからもう戦いたくない」
「そうじゃったか…儂の不甲斐なさから辛い思いをさせたのぉ。すまんかった」
「大丈夫だよ。ガムルジンは悪くないんだ。でもそのお蔭で分かったことがあるんだ」
ガムルジンは口を挟まずじっと待つ。
「怖いし戦いたくはないけど、このまま…弱いままでいるのはもっと嫌だって思った。それに久人くんに、僕とガムルジンが負けたことが悔しかった」
「夏輪…お主…」
「言いたいことはわかってると思うけど、あえて言わせて。また僕と一緒に戦ってくれないかな?」
「ありがとう夏輪よ。これからはお主一人を主と認め、すべてを尽くさせてもらおう。それが儂からの答えじゃ」
一人の人間と、一体の悪魔は互いに認め合いこれからともに歩んでいくこと決意した。
自分の大切な仲間と共にいられる事に安堵し、ようやく落ち着きを見せたところにふと夏輪が大事な事を思い出す。
「そういえば、ガムルジンは最後の一撃で召喚陣を壊してその契約の力を利用してたでしょ?それって大丈夫だったの?」
「そこなんじゃが…」
そこまで言うと何故か歯切れが悪くなるガムルジン。
いつまでももごもごと口ごもっていると、じれったくなったのか阿國が横から口をはさむ。
「もうやっちまったもんはしょうがないさ。言わないなら俺から言わせてもらうけど、結果から言うともう魔界には帰れないってことさ」
「なんで?…! まさか召喚陣が?」
「そうさ。召喚陣が魔界との扉になっていて、その扉自体が一体の悪魔につき一門持っている物らしい。自分の家に帰る扉を自分で壊したんだ。帰るのに人の家の扉をくぐって行けるはずもないからな。」
「…そういうことじゃ」
「帰れないのはまだいい。だがこっちの世界には悪魔を恐れたり憎んだりする人の方が多いさ。そんなところにこれから先いられるか?」
この阿國の問いに押し黙るガムルジン。
悪魔がこっちに居ることでそれを呼び出した人物がこの先、生き辛くなるがいいのかと言っているというのもわかっている。
たとえ夏輪の下から去り、人里離れたところへ行こうとしても、そういった場所は大概古くから住む神獣がいる。
そこへ自分が出向くことでいらぬ争いを引き起こすことは目に見えていた。
それに最悪、神獣と人と悪魔での三つ巴の泥沼のような戦に発展もしかねない。
そう思うと、悪魔として生まれ、呼び出され、今となっては復活をしたことさえ後悔でしかなかった。
こんな沈黙を破る為か、それとも好敵手となった相手が消えてしまうことを危惧してか久人が助け舟を出す。
「ガムルジンは人語を理解もしているし、召喚契約主からの制約から一時的に離れる程のレベルを有した存在だと言うのは戦ってる時から分かってたんだけど、人化は出来ないの?そのレベルだったら簡単にできそうだけど…それとも出来ない理由でもあるのかな?」
「…………あ!」
久人からの助け舟は果たして助けになったのだろうか。
根本的なところで解決策としては助けになったのだろう。
しかし今は冷めた目の面々がガムルジンを取り囲んでいた。
「あ!じゃねぇだろ!もっぺん塵にしてやろうか?」
「俺らのシリアスを返すさ!」
「心配して損した…」
「そうね。無駄に疲れたわ」
「これだから…ただ黒くて…大きいだけの駄馬は…」
上から順に秋、阿國、夏輪、沙理、蓮である。
散々な言い様に、さすがの悪魔も心身共にダメージを受けガックリとうなだれてしまった。
特に最後の駄馬は効いた…確かに忘れていた方も悪いが、これはこれで酷い気がしたのは否めない。
ともあれ解決策は見つかったのでまずは人化することをみんなに勧められる。
ガムルジンは黒い光を放出し変化していく。
「人化するのはいいけど、いきなり素っ裸とかやめろよな。ベタ過ぎる」
「そうさ。女の裸ならまだしも」
「さすがに老馬だからおじいちゃんになっちゃうだろうし」
「ハジ?他の女の子の裸がそんなに見たいの?後でお話ししましょうね」
「爺さん裸に、興味はない。そもそも…駄馬事態に興味もない」
またしても言いたい放題である。
上から順に秋、阿國、夏輪、真理、蓮である。
阿國、君の運命はこれからの返答次第だ。頑張れ!
蓮、さすがに言い過ぎ。
命がけで戦い、奮戦したガムルジンの立ち位置がさっきのミスで地に落ちてしまったらしい。
人間の恐ろしさを、黒い光の先で垣間見たガムルジンは、人化を終えてもなかなか出ていけないでいた。
わざわざ魔力を消費して自ら光を発するという面倒な事をしてまで出ていきたくなかった。
それもそのはず、裸でこそないものの爺さんと言うのは間違っていなかったからだ。
それでも精一杯つくろって、白髪で長身、ピシッと着こなした燕尾服が似合う執事風に仕立てたのだが、この先はガムルジンが気の毒になるので割愛させてもらう。
一つ上げるなら皆一様に、やっぱりなというような事を口々にしたという事は言っておこう。
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ここまで一悶着あったが、無事ガムルジンは夏輪の執事という立場も得て丸く収まった。
これでようやくこの試合も終わりを迎えることが出来た。
「そんじゃこれでようやくおしまいな。あ~疲れた」
「最後まで迷惑かけたさ。また今度機会があればやりあおうな!」
「わかったよ。また今度な」
軽いやりとりのあとに軽い握手を交わす。
そこに沙理がやってくる。
「秋くん。ありがとうね!お礼は気に入ってくれた?」
「それはだな、」
「秋は…気に入らなかったみたい。汚い女の口づけを洗い流したいから…あとで秋の部屋で…2人きりで会おうって言われた」
「いや、蓮さん。そこまで言ってないし、そもそも部屋に来るとかなんとかまでは初耳で…」
「そうなの秋くん?私とも2人きりで会えないかな?」
「だからそこまで話はしてな…」
「汚い女…横取りするしかできない」
「横取りも何も、まだあなた達は付き合ってすらいないわよね?」
「でもずっと護ってくれるって…秋は言ってくれた」
「それとこれとは話が違うでしょ!」
「違うのなら…あなたがここにいること自体…間違い」
と、女の子たちの激しい舌戦が繰り広げられている。
本当の終わりはもう少し先になりそうで、秋は2人に気付かれない様にため息を飲み込んだ。
読んで頂いてありがとうございます。
次回もお楽しみに!




