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学園入学編ⅩⅣ

14話になります。

遅くなって申し訳ありません。

忠義馬神 悪魔ガムルジン。

その見た目は美しい壮年の馬に見えるが、声色やその風格は長い年月を生き抜いてきた者が持つ威厳を放っていた。


「ガムルジン、また君を呼んじゃったよ」

「構わんよ。それ程の相手という事じゃろう?」

「…うん」


ガムルジンの目の奥に黒い光が宿る。

久人から目を離し夏輪の目をじっと見つめる。


「じゃが、儂は腐っても悪魔。善意で動けん事は知っておろう。その覚悟があっての事か?相手があれでは相当な対価が必要じゃぞ」


決意に揺らぎは無く、夏輪はゆっくりと答える。


「分かってるよ。ハジも真理も沙理も苦しんでる。僕が助けないといけない。でも、それ以上にみんなの意地を…絆を護りたい!例え悪魔に魂を売ってでも」

「これは参ったのぉ。いかに悪魔といえど意地という言葉を出されては……儂も一人の男。意地はそれなりに持っているつもりじゃ。だからというわけでは無いが、奴を倒した後でその分対価を頂こうかの。本来は前出しじゃがな」


今までこの悪魔がこんなに甘かったことがあっただろうか。

少なくとも今まで何度か呼んだ時には一度も無かった事だ。

夏輪は目を丸くしてガムルジンを見返す。

だが、そこはやはり悪魔。

そんな夏輪の表情が気に入ったのかニヤリと笑うガムルジン。その笑顔は悪魔が作る邪悪なものだ。


「いつもは前出しでその分だけの仕事しかしなかったが、お前の覚悟に免じてそうするだけじゃ。なに、仕事がキツければその分奮発してもらうだけじゃ。ただ、あれ相手では命一つで足りるかどうかじゃが…」

「僕の命だけだけど、それなら好きにしてもらっていい。だから…彼に勝ってくれ」


自らの運命は悪魔を呼び出した時にもう決まっている。なにも恐れる事はない。


「…分かった。だが忘れるでないぞ。お主は殺せとは言わず、勝てと言ったのじゃからな。その言葉を後悔する事がないようにしておくのじゃぞ」


ただ黙って首を縦に振る夏輪。


無い腕の方をグルグルと回し体の動きを確認する久人。

その様子から身体的にはダメージを受けているようではあるが、精神的な疲労は無く、むしろさっきまで落ちていたテンションが嘘のように晴れた顔をしている。


「ねぇ始めようよ!ほら!夏輪くんも急がないとみんな間に合わなくなっちゃうよ?」

「まったく…彼奴もせっかちじゃのぉ。どれ、それではいこうかの」

「ガムルジン、お願いします」

「分かっておる。お主も忘れるでないぞ」


カツカツとゆっくり久人へと近付いていくガムルジン。

目の前までくると、体躯と威圧感が更に大きくなるように感じる。


(これはすごい…阿國くん以上のものを出して来て、しっかり人語まで理解し、顕現者から独立した状態で動けるまでのものとはね。やり甲斐はあるけど、もう少し力を出さないとだね)


「おい小僧。先程から見ておったが、力の半分も出さぬ状態で儂に勝てるとは思わぬ事じゃ。儂もあるじの本気を感じて些か頑張らねばと思っておるしのぉ」

「そうだね。僕ももう少し本気出そうかと思ってたところだよ。じゃあ始めようかな!」


目の前のガムルジンを地面ごと上空へ吹きとばす。

体勢を崩したところに飛散した礫を殺到させる。

ガムルジンは周囲360度からの攻撃を避けきれず、体を守るように丸める。丸めた体に一発一発と弾丸のような礫がヒットしていく。切り傷、打撲などの大小様々な傷が美しい黒の毛並みを汚していく。


礫の集中砲火が止み、辺り一面が土煙で覆われた。

空中で停滞し辺りを見回す黒馬の脚を掴む悪魔の様な男の腕。

さした力も入れずにガムルジンを地面に投げつける。ガムルジンは脚を下に向け地面に体を叩きつけられるのを防ぐ。しかし勢いまでは殺すことが出来ずに衝撃を受けてしまう。


「やっぱり悪魔だけあってすぐ壊れないから楽しいね」

「そうじゃの。じゃがこの老体には、ちとキツすぎる遊びじゃ。準備もできたしそろそろ勢いを止めておこうかのぉ」

「準備?なにかしたのかな?さぁ、見せてみてよ。もっと楽しくなるね!」

「言われずとももうやっとるよ。ほれ。その残りの腕はもうお主の物ではないぞ?」


言われ久人は残った腕を見る。

するとそこには刺青のような模様が指先から肘にかけて浮き出だしてきていた。

刺青に覆われた腕は、突然拳を握り久人の顔面を殴ろうとするが斥力によって止められる。


「これは驚いたね。触れたもの?かな?たぶんそういった類の物を操るってところかな。どう?」

「こちらこそ驚いたわい。不意の一撃をも防ぐは。じゃがのぉ、いつまでも自らの腕からの攻撃を避けつつ儂の攻撃を避けることもできんじゃろうて」


カツッと音をたて消えるガムルジン。久人には全くと言っていいほど見えなかったが、斥力場が側面から来るガムルジンの攻撃を弾く。その衝撃が止む前に真逆から同様の攻撃が来る。

しかしまたしても斥力がそれを阻む。だが今度はそれと同時に久人の腕が動きだし自らの鳩尾を打つ。

肺の中の空気が勢いよく吐き出されその場に膝をつく。

その隙を逃さんとガムルジンは突撃するがまたしても斥力に防がれる。


「なんと忌々しい能力じゃて。全く近づけんのぉ。じゃがジリジリとは削れそうじゃの」

「そうだね。このままじゃジリ貧になっちゃいそうだね…」

「儂の主は負けを認めればそれでいいと言っておったのじゃが…どうじゃ?」

「それはダメかな。せっかく久しぶりに楽しいのに終わらせることもないでしょ?さぁ続きを始め…がはっ!」


会話の途中でまたしても腕が動きだし、今度は顔面をクリーンヒットした。


「能力の反応も遅れてきているようじゃが、それでも止めんのかの?そのままでは自らに喰われる事になるぞ?」

「喰われる?それは間違いだよ。もうとっくに喰われてるから心配いらないよ。こんな便利で強力な力がなんにも喰わせずにポンポン使えるわけないでしょ?」

「やはりそうか…お主の様子を見ておったが他にはない違和感を感じておった。お主…痛覚がないのじゃな?」

「ホント悪魔には驚かされっぱなしだよ。そう…半分正解かな?全問正解の答えは、すべての痛みと引き換えにしたって事。肉体の痛みはもちろん、精神的な痛みも分からないから他人の苦しみもわからないんだよね」



「痛みを感じんとは。どっちが悪魔か分からんものよのぉ」


久人はニコリと笑い、ガムルジンに答える。


「そうかもね。だからね、言うことを聞かないこの邪魔な腕もこうやって、」


残った片腕を覆う様に斥力と引力を同時に発生させる。それは空間に歪みを生み出しながら腕を飲み込み消滅する。残った腕は二の腕から肩のみ。

今の久人は両腕を失っている。だがその顔には痛みの色は無い。


「…取ってしまえばもう自由だよ。痛みが無いのはこういう時に役立つけど、脳が出すシグナルを全く受け付けなくなるからいきなり動けなくなっちゃうんだよね。そこが難点かな…でもお蔭でまだ楽しめるね。」

「お主…悪魔の儂でさえも今の姿には少しの恐怖と憐みをもってしまうのぉ」

「憐みなんていらないよ。さてと、僕の時間もそんなになさそうだし、ここからは僕の一方的な快楽の為に楽死たのしんでもらうよ!」


その言動・意思とは裏腹に、体の状態は悪いのかフラフラと歩きだす。動きが悪い体に苛立ちを感じ,すぐさま空中へ飛び立つ。

ガムルジンはその様子を黙って見ているはずもなく、再度消える様に高速移動して接近する。移動しながら、始めに自身に受けた大量の礫を操り四方から攻め立てる。

まるで先の戦闘の逆を再現しているか光景。

礫の雨の後には視界を塞ぐ土煙がもうもうと立ち込めていた。その煙に紛れ一撃を入れようと回り込むが、突然土煙が消えた。

いきなりの現象に一瞬気を取られ動きが鈍くなるガムルジン。


「見つけた!」


久人の笑顔の呟きと同時に歪みが生じ、一瞬でガムルジンの右前足を消し飛ばす。


「ぐっ!!おのれ!儂の大事な脚をよくも!」

「悪魔なんだからいつか元に戻るでしょ?それよりいいのかな?そのままそこに居ても」


言われるまでもなくガムルジンは再び動き出していた。だがその速度は五体満足の時程の速さは生み出せなかった。

またしても久人に捕捉され、今度は後ろ脚の大腿部の一部をごっそりと持っていかれる。

その姿に夏輪が飛び出し叫ぶ。


「ガムルジン!戻って!もういいから!」

「ダメだよ夏輪くん。君が呼んだんだ。最後まできっちり見届けないとだよ。それに何より僕が冷めちゃうじゃないか」


無い腕を上に向け呆れたようにする素振りを見せる久人。

しかし夏輪はガムルジンを気遣い納得できないでいる。


「だからって!そんなことで消えてい訳じゃないだろ」

「主よ、呼び出されたからには奴の言う通りよ。最後までやってみるよのぉ。それに契約の半分も叶えておらん。このままおめおめと帰るわけにはいかんのじゃ」

「こうなったら強制的に戻すよ!主の命により盟約者を戻し契約を破棄したまえ!夏輪が命じる。ガムルジンよ元来た次元に戻れ!」


黒い魔法陣が夏輪を囲みガムルジンを戻そうとする。が、魔方陣は徐々に光を失い砕け散る。


「なん…で…。なんで戻らないんだ!」

「主よ。儂はその心意気を買ったのじゃ。まだそれに答えとらんと言ったはずじゃ。それにそれ相応の対価ももらっておらんからのぉ。始めから分かっておったが儂では奴の相手にならん。これも良い経験じゃ。次に生かすがよい」

「…だからいつもと違う対価の求め方をしたっていうの?そんな…むちゃくちゃだよ!」


「そうじゃ。それが悪魔というものじゃ。どれ、最後に悪足掻きでもさせてもらうかのぉ」

「ガムルジン!ダメだ!戻れって言ってるだろ!」

「へぇ。まだなにかあるんだね。もう終わりかと思ってたよ。夏輪くん、君は少し遠くで見ててもらえるかな?」


そう言って顎をクイっと夏輪に向けた。夏輪は胸に巨大なハンマーの一撃のような衝撃受け遥か後方に吹き飛んでいく。不意の一撃に意識は朦朧として視界が歪んでいる。

遠くで夏輪が呼び出したときと同じ召喚陣が見える。

それが跡形もなく砕け散り、黒い光の粒子に変わる。その粒子がガムルジンの周囲を回り体に取り込まれていく。


(召喚陣を自ら壊した…もうガムルジンは戻れない。僕がそうさせてしまったんだ。せめて、せめて無事に終わってくれれば何とかなるかもしれないのに)


夏輪の心の内の言葉は、その悪魔の黒馬に届くことはなく最後の瞬間までをも燃やし尽くす様にその戦闘力を上昇させ、黒い輝きがガムルジンを覆っていく。


「もう次で最後じゃよ。お主も次こそは全力で来んと死んでしまうぞ」

「そっか…次でおしまいか。ならまた今度を楽しみにさせてもらうよ」

「わかった。ではいくぞ!」


ガムルジンから吹き出す黒い粒子はその背に集まり漆黒の翼を、その額に集まり一角を形成する。

その初めて見るその姿に夏輪の目から涙が溢れ、嗚咽がこぼれる。


「ガムルジン。漆黒の一角獣…それが本当の姿なのかい?悪魔なんて嘘じゃないか…とても綺麗な姿じゃないか」


命の最後の輝きを体現した姿に誰もが目を奪われ呆然とする。

漆黒の一角獣は大きく一鳴きすると翼を広げ空へと飛び立つ。そしてその額の角にすべての力を宿し急降下してくる。


「さぁ!これが儂の最後の一撃!【漆黒の一角撃ブラック・スピア】!」

「最後の一撃か…これで僕の出番もおしまいかぁ。まぁでもそこそこ楽しめたしこれはこれでいいかな」


黒い槍と化したガムルジンの死力を尽くした最後の一撃を前にしても、久人の飄々とした態度は変わる事が無かった。


「僕の出番はココまでだけど、その前に君の出番をおしまいにしないとね。じゃあね。バイバイ」


久人は空から急降下するガムルジンに背を向けるとスタスタと自陣に帰っていく。

すると黒い槍と化したガムルジンは漆黒の軌跡だけを残して、巨大な歪みに飲み込まれ消滅した。

その最後の姿すら見ずに久人はゆっくりと帰っていく。


友人と遊び、帰るのを渋る小学生のような遅々とした歩みで。

読んで頂きありがとうございます。

また次回もお楽しみに!!

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