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モブ女子生徒は見守る

前半だいぶ気持ち悪いかもしれません。

モブ女子生徒視点のお話です。

 この学園には絶対に機嫌を損ねてはいけない人物がいる。


 そう、イリス・テネブラエ様である。


 王弟にして前テネブラエ公爵家当主カエルム様を父に持ち、国一番の美姫と呼び声高かったアクア様を母に持ち、現公爵にしてカエルム様、ひいてはフィリウス陛下にそっくりであられるグラキエス様を兄に持ち、第二王子クラルス殿下の幼馴染みでもあり、という、正になるべくしてなった方である。


 この王国で誰が一番の美貌を持つか?


 側室腹だが太陽のような輝きを放ち皆を導く才を生まれ持った第一王子レックス様か?


 嫡男で夜の闇のような妖しい容姿ながらその性質は全く異なる第二王子クラルス様か?


 はたまた、レックス様、クラルス様のご兄弟か?


 確かに彼らはまるで絵画から抜け出たかのように美しい。


 だが、それでも。彼女には...イリス様には及ばないのだ。


 イリス様は見た者全てを虜にする。私の母によると、イリス様の御母堂アクア様の妙齢の頃と全く同じ現象らしい。


 一点の曇りもない金髪は天使のものと言われても違和感がないし、瞳は大きく澄んでいて、まるで薔薇水晶のよう。肌は女の私から見てもため息が出るほど美しく、白くて透明感がある。


 そんなイリス様に似合うのは綺麗、ではなく可憐の方だ。


 イリス様は小柄で、華奢だ。それとあまり感情を表さない。声も聞いたことはそんなにないが心地良く脳に響きまるで女神の天啓のよう!私落ち着け。

 つまるところ、イリス様は感情表現が少ないのだ。


 けれど例外はある。クラルス様と会話なさっている時だ。


 クラルス様とイリス様は至極幼い頃からの付き合いなので、当然といえば当然なのだが、イリス様信奉者の会の皆さんは時折密かにクラルス様に嫉妬するらしい。分かる。イリス様がクラルス様に稀に向ける控えめな笑顔を遠くから目撃してしまうとクラルス様へのどす黒い気持ちが沸き上がって...違う、落ち着け。


 クラルス様はともかく、イリス様が決まって感情を表すことがもう一つある。甘いものを食された時だ。

 イリス様は甘いものが好ましいらしく、贈ると目を輝かせて物凄く喜んでくださる。それを目の当たりにすると、可愛くて死ぬ。

 この間のサロンでも、一人一つお菓子を献上したら、いつも崩さない美貌を緩めきって至福な笑顔を与えてくださって、悶え死ぬかと思った。


 イリス様に敵対しようなんて輩はいないし、もしいても信奉者の会の皆さんが全力で叩き潰すが、イリス様の前で粗相をしてしまう者はいる。

 けれどイリス様は怒らない。謝罪を受け入れてくださる。しかし中には謝罪しない不届き者がいて、その場合は信奉者の会の皆さんが謝罪するようにそいつを「説得」する。そして丸く収まる。


 イリス様が怒ったところを私は見たことがないが、信奉者の会、会長のフロース様によると、「イリスさんの秘蔵の甘味をこの世から消してしまったなら、いくら謝ったところでイリスさんはそのことを一生忘れない」とのことだ。考えただけで恐ろしい。


 ちなみに、信奉者の会には裏会長がいて、彼はイリス様の行動や持ち物をほとんど把握しているそうだ。


 イリス様は、学園の偶像なのである。





 ところで。

 この春から入学した私は、身分が近い子と相部屋になっているのだが、その子の話をしよう。


 その子の名前はルナ・ルークス。銀髪と瑠璃色の瞳を持つ少女である。...まあ、姿形は綺麗だと思う。


 その子は、何だかよく分からない子だ。

 初日には「よろしくお願いいたしますわ!」とやけにはきはきと挨拶されたのだが、次の日に話しかけてみると「...何か用?」と不機嫌そうに返された。

 その後も「わたくし、絶対にあの方に気付かせてみせますわ!」と何やら張り切っていた時もあれば、「...で、私が庭園に行くとそこに...」などとぶつぶつ呟いている時もある。

 情緒不安定なのだろうか。


 そんな彼女は最近夜更かしをしている。

 何してるのか尋ねたら、「ドレスを縫っているのですわ」と返事がきてびっくりした。

 夜通し作業しているらしく、日中ふらふらしているところをよく見かけてちょっと心配になる。

 だが、ある日はすやすやと眠っていて、翌朝に完成したのか聞いてみたら、「...はあ?」と、何を言ってるのか分からない、という顔をされた。こっちも訳が分からない。


 しばらくして彼女のやつれ具合を見かねた私が、一応、手伝いを申し入れてみたら「い...いいの?お金とか、払えないわよ?あたし...違う、わたくし、手持ちがないもの」とおっかなびっくりといった様子だった。

 そんなのいらないからと断って手伝ってみたら、彼女の手際が良くてまたびっくりした。曰く、実家でも裁縫はしていたらしい。

 そして手伝って分かったのが、私が不器用だということ。ごめんなさい。


 彼女は不思議な人だ。

 いつでも自信に満ち溢れているかと思えば、唐突に嫉妬深くなったりもする。

 ただ、彼女が努力していることは確かなのだ。

 取りあえず今は、ドレスが無事に完成してくれることを祈る。

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