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コミュ障令嬢は慌てふためく

「身の程をわきまえなさい!貴女が気軽に対話していい相手だとでも思っているの!?勘違いも甚だしいわ!」

「......」


 うぅ、怒鳴り声は苦手だな...。早く離れたいけど、


「イリス様の優しさにつけ込もうだなんて...!無礼者!」

「......」


 論点が私のことだからなあ...。この感じだとないとは思うけど、ひょっとして私の悪口が出てくるかもしれないんじゃないかと気が気でないんだよ...。


「聞いているの!?」

「...う、うぅっ...」


 え、まさか、泣いた?

 そぉっと葉っぱの間から覗き見ると、ルナは女の子達に囲まれて、目を覆っていた。

 うわ、ルナが泣いてるの、すごく似合わないと思ってしまう。


「ひっ...ひどいです...私、イリス様に呼ばれただけなのに...」


 私がルナを呼び出したことなんてない筈なのですが!?


 嗚咽するルナに、女の子達は気勢を削がれて互いに顔を見合わせる。



 今、何をしているのかって?

 あれは数分前。私は全ての授業を終えて庭園でぼんやりしていたところ、女の子達と、彼女らに連れられたルナが、こそこそとやって来たのだ。

 そして近くに誰もいないことを確認すると、女の子達はやいのやいのとルナを責め立て始めた。


 私?勿論身を隠しましたよ。生け垣の影に。見つかりたくないから。事なかれ主義なもので。


 それにしても、私に近付くな、とは。何かちょっと嬉しい。こういうリンチみたいなのは駄目だとは思うけど。


「えと...泣かせるつもりは、なかったのよ...ただ、貴女が自覚してないのではないかと思って、注意するつもりで...」


 女の子達は揃って困り顔だ。根が優しいんだ。


「その...大きな声を出してしまって、はしたなかったわね。ごめんなさい」

「ひっく、ぐすっ...」


 ルナは女の子の謝罪を受け入れる様子もなく、変わらず啜り泣いている。


 その時だ。


「イリスー!おーいイリ...何をやっているのだ?」


 クラルス殿下が空気を読まずに乱入した!

 そもそも殿下、あなた何故私が庭園にいると知っているのです!?


 幸いなことに現段階では殿下も女の子達も私に気付いていない。

 だが殿下は妙なところで聡い。いつ私に気付くとも分からない!


 よし、退散。


 静かに方向転換したのと、「クラルス様ぁ!」とやけに甘い声がしたのは同時だった。


 咄嗟に振り向いて覗き見ると、ルナが殿下にしがみついていた。


 ...あの、ルナサン?あなた前に「クラルスなんてどうでもいい」って...。


 私は予想外過ぎて固まってしまった。


「うっ...ぐすっ」

「な、何だお前は?」

「なっ...!?貴女!クラルス様から離れなさいな!」


 ルナは殿下にひっしと抱きついている。なのに顔は上向きにしている。


 ああ、ありゃあ伝家の宝刀、上目遣いだべえ。


 ...何か訛ってしまった。どうやら私は相当混乱しているらしい。ぴよぴよ。


「わ...私、怖くて...」


 傍目から見てもルナが震えているのが分かる。

 普通なら庇護欲が湧いて出そうだけど。

 でも、やっぱり彼女には似合わない。


「...どうでもいいが、離れてくれ」

「クラルス様、私っ...」

「は、な、れ、ろ」


 べりっ、と殿下はルナを引き剥がす。

 そしてキメ顔で告げる。


「俺はイリス以外に肩を貸す気はないのだ」


 何言っちゃってんですか。


「...クラルス様、何故それをイリス様に直接仰らないのですか...」

「うぐっ」


 女の子達の発言で、痛いところを突かれた!と殿下が悶える。

 馬鹿め!悶えたいのは私の方だ。


「...ひどいっ」


 やり取りをしゃくりあげながら見ていたルナは、一目散に駆け去っていった。


「何なのだ、あの女は」


 主人公さんをあの女呼ばわりとは...殿下、貴様さてはやり手だな?


「彼女は、ルナ・ルークス。男爵令嬢です。最近、イリス様との距離が近いので注意しようと呼び出したのです」

「ほう、そうか。それは大義だった」


 何だ偉そうに!実際偉いけど!偉そうにー!


 いかん、私何か変なことになってる。


 私はそっと背を向け、その場を脱出した。





 最近の癒しスポット、庭園には殿下がいる。

 なので入学初日から癒しスポット認定している図書室に行くことにした。

 あの静かな場所はコミュ障御用達だと思う。人もあんまりいないし。


 他と比べて古びたドアを開くと、司書のおじいさんがいたのでこんにちは。


 おじいさんの脇を頭を軽く下げながら通り抜け、本棚に行き着く。

 私が好きなのは英雄譚だ。だって明るい気持ちになれるもの。

 未読の本を適当に選んで手に取り、席について読みふける。


 キリのいいところで止めるとかなり時間が経っていたので、ぱたんと閉じて本を戻そうと椅子から立ち上がる。


「終わったか?」


 ぎぃやああああああ!!


 隣の席に何故か頬杖をついた殿下の姿が!


「いっ、いつからここに」

「うーむ、一時間くらい前からか」


 悪びれず答える殿下の近くには本の一冊も見当たらない。


 一時間も何してたんだあなたは!ずっと私を見てたとか言わないでくださいよ!?


「よし、では行くぞ」


 返本した私に殿下は言うと、すたすたと図書室を出て行った。

 私も慌てて後を追う。


 ...ストーカー...。いやいや、まさかね。

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