コミュ障令嬢は助けない
今日は何だか疲れた...。
拷問サロンの後にルナに呼び出され、敵にならないと安心したら嫌われ、占さんに報告して...少しくらい休んでもいい筈。
私は庭園のベンチにぐだーっともたれ、ぼんやりと雲の流れを目で追う。
日がもうすぐ暮れそうだ。後少ししたら寮に戻ろう。
春風が吹いてくる。ちょっと冷たい。でも不快ではない。
「イリス?」
ふぉっ!!
見られた?私がぐだぐたしてたとこ!
見たなら仕方あるまい、生きては帰さんぞ!
ミーターナー!
慌てて姿勢を正すと、そこにいたのは...
「もう夕方だ。そろそろ中に入ったらどうだ?風邪をひいてしまうぞ」
キラキラの塊!違う、レックス殿下だった。
あうっ直視したら、目が、目がアアアッ!
不意打ちにも程がある。あなたの容姿は目に毒よ!
レックス殿下は端正な顔を心配そうに私に近付けてくる。
あひん。
「どうした、大丈夫か?」
「...はい」
私はレックス殿下が少し苦手だ。
理想の王子様は遠くから眺めるのがいいと思う。
それに、この人...。
「イリスが風邪をひいたらクラルスが悲しむし、私も心配になる。それに皆も。イリスは人気者だから」
コミュ力お化けなんだよなあ...!
それと、残念ながら皆が好きなのは私の容姿だけなんだよねえ。中身がこれだから仕方ないんだよ。むしろ中身これなのに好かれる外見パネェ。お父様お母様、こんな可愛く生んでくれてありがとう。
「お気遣い、ありがとうございます...」
「それじゃあ私と一緒に中に戻ろうか」
「は、はい」
レックス殿下に手を引かれて立ち上がった時、「あっ」という小さな声が耳に届く。
見ると、遠くからこちらをガン見しているルナの姿が!
やばい察してしまった。きっと彼女はしばらく前からここでレックス殿下を探していたんだ。でも見つからなくて邪魔者(私)が話しかけてきたからあの時怒ったんだ!
で、今ようやくレックス殿下を見つけたのにそこには邪魔者(私)が!しかも手を繋いで!
あわわわわわわ...。
「ん?彼女は...?」
レックス殿下が私の視線を辿り、ルナに気付く。
「確か、ルナ・ルークス嬢かな?知り合いなのか?」
「あ、はい」
えっルナのこと知ってるんです?
レックス殿下は大きく手を振る。
ルナが物凄い勢いでこちらに寄ってきた。しかし走ってはいない。まるで競歩の選手!
「やあ。初めまして、私はレックス・ファートゥム。君は?」
「はい!私、ルナ・ルークスと申します!よろしくお願いいたします!」
何だ、初対面なのね。
いやよくない。これって私がレックス殿下とルナの出会いをぶっ潰したってことだ。
シナリオを破壊したのは良いけどそれでルナにますます嫌われるのはあまりよろしくない!
でも一体どうすればルナの好感度は上がるんだい。
「さて、君も一緒に中に戻らないか?もうすぐここも暗くなって冷えてくるから」
わお流石レックス殿下!
両手に花ね!
レックス殿下の後に続こうとしたら、ぐいっと裾を引っ張られた。
「ふざけんなよ、折角のイベントを滅茶苦茶にしやがって。後で覚えとけよブス」
ひえっ。
昨日のことで、更にルナに嫌われた。
そう思って朝からびくびくしていた。そう、していたんだけど...。
「イリス様は少食ですわね!」
何であなたは私と一緒にご飯を食べているんだろう...?
「ちゃんと食べないと大きくなりませんわよ、わたくしみたいに!」
それは余計なお世話です。
「背が低いと不便なことも多いでしょう」
あ、そっち?
ルナは周りの目など一切気にしないでぱくぱくと食べ進めていく。
彼女につられて私も食事を続ける。
どうしてルナが私と昼食をとっているのか?
私もよく分かってないけど、食堂で颯爽と現れたルナに「一緒に食べて差し上げますわ!」と押し掛けられ、同じテーブルにいる。
いつも一緒にいるフロースさんが急用でいないので、ぼっちがばれなくて助かったといえば助かったけど、どういう風の吹き回しなのか...?
「どうしたんですのイリス様!風邪ですの?」
ガタッ!!
...何だ今の音?
不審になりながらも否定すると、そこかしこからガタガタと椅子をひく音がした。何なの...。
「そういえばイリス様。もうすぐですわね!」
「はあ」
「本当に分かってますの?ダンスパーティーですわよ!わたくし、絶対にあの方と踊ってみせますわ!」
ああ、あったなそんなの。
レックス殿下を誘うのかな。頑張ってください。
私は多分クラルス殿下と壁の方にいるので。
「ドレスって普通は高いんですわよね?作ってるんですけど間に合うかしら」
あ?今変なの聞こえた。
作ってる?ルナが?何それシンデレラ?ネズミに手伝ってもらってるの?
「ないんだから仕方ないですわよね!」
違うよ、それ嫌がらせだよ!
きっと正室と異母姉が意地悪してんだろう。
だってシナリオでは、ルナは少ないけど確かにドレスを持ってたもの。
何てこったい...。
でも、私は言葉を飲み込んだ。
ルナがあまりにも呑気だったから。こんなところで言うなんて、もしかしたら同情でも誘ってるんじゃないかと勘繰ってしまったから。
「楽しみですわね!」
私は答えずに、蒸された野菜を口に押し込んだ。