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コミュ障令嬢はシナリオ通りにしたくない

「...イリス」


 何てこった、呼び出しくらっちゃったよ。


「イリス」


 だからサロンに行きたくなかったんだ。ルナに会う可能性が高いから。


「おーい、聞こえないのか?」


 もし彼女が転生者だったらどうしよう。というかほぼほぼそうだよね。だって私を呼び出すんだもの。


「イーリスー!」


 私は死にたくないし、あの人の頼みもあってシナリオ通りに事を進めたくない。ぶち壊したい。でもルナにとっては、シナリオ通りに進めるのが安全策なのだ。その通りにしていれば幸せになれるのだから。


「イリス...まさか、耳が聞こえないのか。大変だ!」

「ちょっと待ちましょう殿下、私今考えごとしてるんです」

「何だ、聞こえていたのか。驚いたぞ。それでだなイリス」


 だからちょっと待ってって言ってるじゃないですかね。


 にっこにっこしているのは、私のいとこ、クラルス殿下である。

 本来ならイリスに依存している彼だけど、私はそんなことさせません。ちゃんと自立させました。というか私コミュ障なのでこの人、シナリオよりたくましくなりました。私偉い私すごい。


 呼び出しをくらって内心やべえことになっていた私から何かを察したのか、あの後すぐにフロースさんによってサロンはお開きになった。フロースさんマジ有能。


 皆が名残惜しげに退室していくのを眺めてから私も談話室を出たら、そこには待ち伏せしていた殿下がいた。ストーカーか?まさかぁ。


 そうしてルナに指示された庭園に向かう道中、少しだけ殿下の相手をしている。


「イリス、顔色が悪いのではないか?少し休んだらどうだ」

「お気遣いありがとうございます。ですがこれは私の普通の顔です」

「そうか...?」


 そうだよ。


 ぽつぽつ会話していたら庭園に着いたので殿下に別れを告げる。


 庭園は緑がいっぱいで癒される。おや、あの花はゼラニウムか?綺麗だなあ、うちにもほしい。

 ああ、こんな穏やかなところで寝たらさぞ気持ち良さそうだけど、誰かに見られたらと思うと実行する気にはなれないなあ。


「来たわね!」


 おびゃっ!!


 慌てて顔を向けると、そこには堂々と佇む主人公の姿が!

 いきなり声をかけないでくれよぅ、びっくりするよぅ。

 いや私が警戒してなかったのが悪いんですけど。


「あんた、転生者よね?」

「...はい」

「そ。だったらいいわ!」


 え?

 それだけ?


 くるりと背を向けて今にも立ち去りそうな少女を必死で呼び止める。


「あ、あの、他には...」

「何?」

「その、私は、どうしたら」


 彼女は振り返るとじっと顎に手をあて考え込む。

 あらやだ絵になる。流石主人公。

 むむむ、と思いっきり眉を寄せた後、ばっと顔を上げ、


「あんたがどうすればいいかなんてあたしは知らないわ!自分で考えなさいよ!」


 正論!

 いやそうじゃなくて。


「その、邪魔するな、とか、シナリオ通りにしろ、とか」

「ふん、あたしはシナリオなんてどうでもいいわ!」


 え、マジ?

 もしかしてこの人いい人?

 いやいや、いかんいかん。すぐ信じるのいくない。


「でも、シナリオ通りなら順風満帆です、よ?」

「そんなものに頼る必要なんてないわ!運命は切り開くものなのよ!」


 ドヤ顔!

 流石主人公さんだ、眩しいぜ!


「言っとくけど、あたしはクラルスなんてどうでもいいわ!大事なのはレックスだもの!だからレックスに変なこと吹き込むのは止めなさいよね!まああたしは美少女だし、あんたも可愛いけどあたしには及ばないから大丈夫ね!」


 えっ可愛い?

 こんなプライド高そうな人が、私を可愛い?

 いやいや、落ち着け。この人は容姿を評価してるだけ。中身があれな私は調子に乗ってはいけない。うん...うふふ!

 いかんいかん、確かに外見は良くても中身はこれだから。平常心平常心。


 自信満々な主人公さんはフフンと笑って、今度こそカッコよくその場を去っていった。


 すごい、何であんなに自信に満ち溢れてるんだろう。意味が分からない。


 でももしかしなくても主人公さん、敵ではない?

 シナリオなんかどうでもいいってことは、その通りにする気がないってことでいいのかい?

 私、魔王にならなくていい?

 死ななくて済む?


 私は、しばらく風に吹かれながらそこで立ち尽くしていた。





 時間を置くことでようやく実感出来た。


 主人公は、ルナは敵じゃなかった、敵にならなかった!

 むしろ同士って感じじゃないのかな?

 運命は自分で切り開く、だって!カッコいい!流石主人公!

 これは早くあの人に伝えてあげないと!きっと、いや絶対あの人も喜ぶ!


 晴れやかな気分で庭園を周回していると、前方にルナ発見。

 何か探しているかのようにきょろきょろしている。


 まさか、私と友達になる為に戻ってきたのでは!?

 うふふ、仲良くしましょう!


「ルナさん!」


 駆け寄って肩を思いっきり叩く。ちょっと馴れ馴れし過ぎたかな?

 でも大丈夫!だってあなたと私は同士...


「っ触んな!」


 ひっ!? 


 彼女は乱暴に手を払いのけ、敵意をにじませて睨みつけてくる。


「何、気持ち悪いんだけど!?...ていうかあんた、イリス?さっき言ったこと覚えてないのかよ!さっさと消えろよブス!!」


 ...え?何?何なの?

 もしかして、そちらは別に私と親しくするつもりはなかった?

 私が下手に絡んだから怒ってしまった?

 何てこった...。


 彼女は眉を吊り上げ肩を怒らせながらどんどん遠ざかっていく...。


 ああ、折角同士になれるかもしれなかった人が、私の不用意な行動のせいで...。

 ...これだからコミュ障は...。

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