表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/26

コミュ障令嬢は悪役令嬢

 この世界はループしている。

 とはいっても、私はそれを体験した訳ではない。

 とある人によると、私が転生したのは今回の世界だけなのだそう。

 でももしかしたら次回から私も、記憶には残らなくてもループを体験することになるのかもとちょっと思ったけど、あの人は次回はないと自信満々だった。本当に大丈夫なのかな...。


 今までこの世界は、僅かな違いはあっても最終的な結末は同じであったらしい。

 だから、結末を変えたらループは終わるかもしれないのだ。

 その結末を語る為には「転生少女は聖女になる」についてを理解しなければならない。



 「転生少女は聖女になる」。

 主人公は異世界...私の前世の人がいた世界から転生してきた少女、ルナ。

 彼女は男爵家に生まれ、家族から疎まれる。

 というのも、彼女は庶子で、彼女の実の母親は彼女を産んで亡くなってしまうのだ。

 唯一の味方は父親だけど、仕事で忙しい為あまり彼女にかまってやれない。

 そして正室と異母姉は彼女をとことん苛め倒す。

 しかし彼女は持ち前のまっすぐさで、折れず曲がらず、強く生きていく。

 そうして成長した彼女は貴族の学園へと入学する。

 入学式が始まる直前、彼女は気分が悪くうずくまっていた一人の女の子を助ける。

 その子の名前はイリス。

 イリスは自分を助けてくれたルナに感謝し、おずおずと言う。


「友達に、なろう?」


 勿論ルナは承諾し、二人は行動を共にするようになる。

 さて、無事に友達を得たルナはしばらくして、学園の庭園で、運命的な出会いを果たす。

 そう、第一王子レックス殿下である。

 彼に一目惚れしてしまったルナは、悩んだ末イリスに相談する。

 イリスはレックスと面識があったため、ルナとレックスの仲介をする。

 学園での日々を過ごしつつ、ルナはイリスとレックスとの仲を深めていく。

 ところがそこに敵が現れた。

 第二王子クラルス殿下である。

 クラルスは身分違いにも関わらず兄に近付くルナを忌々しく思っているらしく、ルナに様々な嫌がらせをしてくる。

 周りに心配をかける訳にはいかないと、ルナは一人でそれを耐えていく。

 そのルナを、イリスは不安そうな目で見つめていた。


 これが上巻の内容。

 登場人物は、全員魅力的だった。


 強くたくましいルナに対しては、ルナさんカッコいい!、流石ルナさんぶれない、ルナさんが恋だと!?支援!、などのコメントがネット上に溢れ。


 理想の王子様のレックスは、とあるシーンでラッキースケベを発動させてしまうのだが、そのせいでレックスケベさん略してスケさんと呼ばれたり。


 謎めいたクラルスの悪役の魅力にやられ、クー様と崇め奉る人が出てきたり。


 しかし特にファンを作ったのはイリスだった。

 彼女はルナと対照的に、背が低く可愛らしいお姫様のような容姿で、ルナを裏で何度も助け献身的に尽くすのだ。

 その様子が実に健気で、イリスたんマジ天使、イリスたんを養いたい、イリスたんが悪い奴にひっかかる前に保護しなきゃ、などと若干気持ち悪く騒がれていた。


 ファン達が今後の展開を議論する中、ついに待望の下巻が発売された。


 その内容は、誰もが期待していた王道の恋愛ものではなかった。



 ルナを人気のない庭園の奥に呼び出したクラルスは、隠し持った短剣で彼女を殺そうとした。

 ルナは咄嗟に初撃を避けたが、クラルスは執拗に命を狙ってくる。

 とうとう追い詰められるルナ。

 しかし、そこにレックスが飛び出してきて、代わりに怪我を負ってしまう。

 クラルスは不本意に兄を傷付けたことで呆然とする。

 レックスは弟を見限りはせず、問い掛ける。何故そこまでルナを嫌うのかと。


 クラルスは答えた、それがイリスの望みだからと。


 それを聞いたルナはぽかんとした後、激怒する。

 イリスを、私の親友を悪者に仕立てるつもりなのかとクラルスに詰め寄る。


 クラルスは語った。イリスは自分の全てだと。幼い頃から、レックスより劣る自分を庇い、一緒にいてくれたのだと。イリスの願いは自分が全て叶えてやるのだと。


 ルナは、クラルスが嘘を吐いていると信じて疑わない。


 その時、澄んだ声がその場に響いた。


「クラルスは嘘なんか吐いてないよ、全部本当のことだもの」


 現れたのは、侮蔑をはっきりと顔に浮かべたイリスだった。


 戸惑いを隠せないルナを、イリスは嘲笑する。

 何故こんなことをしたのか問うレックスに、彼女は淡々と答えた。


「だって、私を一番に考えない人なんて、必要ないよね?」


 イリスは、極めて愛らしい容姿故に、誰からも嫌われたことがなかった。

 イリスがちょっと微笑めば皆が幸せになったし、何でも願いを叶えてくれた。

 世界は自分を中心に回っていると、思い込んでいた。実際彼女の周囲はそうだった。

 いや、彼女の兄だけは、彼女の勝手気ままな振る舞いに眉をひそめ、たしなめていたが、彼はイリスが幼い頃、自身の向上の為、魔獣討伐隊に志願し、そのまま帰らぬ人となった。

 唯一の兄を失ったイリスは、荒れた。更に我儘になり、外面を偽り純粋な子供を演じることを覚えた。

 悪かったのは、周りがそんなイリスを止めなかったことだ。

 兄がいないせいで誰にも咎められなくなったイリスは、増長した。


 誰も本当のイリスを理解しなかった。

 クラルスも、イリスに従うだけで彼女に苦言を呈しはしなかった。


 だがルナは違った。

 イリスを助けるのは当たり前のことで、むしろ助けさせてもらったことに感謝するべきなのに、あろうことかルナはイリスと対等であろうとしたのだ。決して許せるものではなかった。

 ルナの友達のふりをしていたのは、彼女の行動を監視するため。

 ルナの行動を把握し、クラルスに情報を流し、嫌がらせをするため。


 丁寧に全てを説明したイリスは、不意にため息を吐いた。


 するとどうしたことか、彼女の体が闇に包まれていく。


 イリスは宣言した。


 自分が魔王になり、魔獣を束ねる存在となる。世界は自分のものだと。


 イリスは、くずおれたルナと傷付いた体で構えるレックス、固まるクラルスを順に見つめた後、綺麗な笑みを浮かべて姿を消した。




 そして旅が始まる―――!


 ルナとレックス、クラルスは魔獣の襲撃を受けながらも生き延び、歩き続ける!イリス討伐の為に!世界を救う為に!


 やがてイリスの元に辿り着く三人!イリスは容赦なく闇の衝撃波を浴びせる!

 危ない!狙いはルナだ!

 ザシューーー!


「ぐわああああーーーッ!!」

「ク、クラルス~~!!」


 ルナを庇いクラルスは死んでしまった!


 ルナが怒った!その手から放たれたのは、何と光だ!彼女は聖なる力を持っていたのだ!


 光に包まれ消滅したイリス!

 世界の平和は守られた!


「好きだ!」

「私もです!」


 ルナはレックスの求婚を受け入れ、二人は結ばれる!


 そして十年後!王城のバルコニーには成長した二人の姿が!


 二人は幸せなキスをして終了!




 ...最後大分駆け足だったけど下巻はこんな感じである。


 無論、ネットは荒れた。荒れに荒れまくった。

 私の前世の人も、こんな結末はないだろうと憤慨していたようだ。


 そして私も、こんな最期を迎えたくない。

 だから私は、入学式には体調を万全に整えていった。

 おかげでルナと出会うこともなく、平穏に生活してきたのだ。


 だが、今そこに彼女はいる。

 私の目の前に堂々と立ち、私の口にお菓子を投げつけてから彼女は小声で言った。


「後で話がありますわ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ