占い師の記憶③
やあ、君ならまた来てくれると思っていたよ。何て言ったって、ボクが見初めた相手だからね。
...そんなに嫌がることないじゃないか。いくらボクでも傷付いちゃうよ。
さて、この前の続きを話そうか。
ん?質問?いいよいいよ、君になら何でも答えてあげよう。ボクの全てを晒しても構わないさ。
...えっ、あ、いや、それはちょっと私的過ぎないかな...?うん、別にボクは答えてもいいけど...もう、仕方ないなあ。
ボクだって、何とかしようとしなかった訳じゃないんだよ。
ボクの目的は我が子を日の下で拝むことだし、その為に筋書きより早く結婚して子作りしてしまえば良かったのにっていう君の疑問も、当然のものだろう。
でもね、人ってそんなに簡単には変わらないんだよ。
植え付けられた記憶というか、植え付けられた人格で生きてるから。毎回同じ環境なら毎回同じように人は育つのさ。
ボクが精霊と同化した時には、既に夫の人格は形成されていたから、ボクにはどうしようもなかったのさ。
なんたって、旦那様はとっても恥ずかしがり屋で、手を繋ぐのに半年もかけるような初心な人なんだから。
ボクも我が子の為にと頑張って、若い頃に夜這い紛いのことをしたけど、真っ赤になって拒否されちゃったんだ。あれはちょっと悲しかったなあ。その後に、ごめんねって接吻してもらえて嬉しかったけどさ。
加えて、何故なのかは分からないけどボクの体って妊娠しにくいみたいなんだよね。そのせいで二十歳で結婚したのに子供が出来るまで六年もかかっちゃって!
子供が出来なくて泣きながら謝るボクに、旦那様は優しく「大丈夫だ」と言ってくれた。最高の夫だよね。
え?惚気?
ああ、ごめんごめん。ちょっと余計なことを喋り過ぎたね。
そんな訳で、ボクにはやっぱり、筋書きから外れさせて我が子を見ることは出来なかったのさ。
それじゃあ、この前の続きを話そうか。
水晶玉を得たボクは、まずルナ、レックス、イリス、クラルスの動向を伺うことから始めた。
とはいえ彼等は幼い頃から精霊に洗脳されているから、行動は筋書き通りのものだったけどね。
この四人以外は精霊が取り憑けるから、やっぱりこの四人をどうにかしてボクの味方にしなきゃならない。
まずは準備をしなければならない。
四人が精霊の完全な操り人形にされる前、つまり幼児期にボクと接触をしてもらわなければならない。
その為に、試行錯誤を始めたのさ。
ボクの声を届けようと、この空間と外を繋ぐ扉の近くを通りがかった人の心に、ボクの魂を削って呼び掛けてみたりしたんだ。
やっと成功してここに初めて入ってきたのは、四人と同級生のラミアだったなあ。彼女、周りをよく観察しているからね。ボクの声にも気付いてくれたんだ。
ただ、ボクの話は一切信じてくれなかったし、この空間から出た瞬間にボクのこと忘れちゃったけど。
彼女がボクを忘れていると悟った時は、流石に落ち込んだよ。こんなの...そう、無理ゲーじゃないかってね。
それでも諦めず、何とかしようと誰かれ構わずここに招いた。誰かボクのことを覚えていてくれる人はいないかと探し続けて...見つけたのさ。
彼は一見普通の人だった。
ルナともイリスともレックスともクラルスとも特に関わりはなく、重要な役割もない。
けれど彼は、ボクのことを忘れなかったんだ。ボクの話は信じてくれなかったけど、時折ここに足を運んでくれた。
何故、彼なのだと思う?
彼はね、異世界から迷い込んできた魂の持ち主だったんだ。
所謂、転生者ってやつなんだよ。
ボクはこれだと思った。
転生者を四人の近くに配置し、ボクの指示に従って四人に影響を与えてもらえれば、ここに四人を連れて来てもらえれば、筋書きを壊せるかもしれない。
ボクはその時から、魂を少しずつ削って、異世界から魂が迷い込むように誘導をしていったのさ。
文字通り身を削ったんだ、おかげでボクは常日頃倦怠感に苛まれるようになってしまったんだ。
転生者は色々いたよ。
ボクは目の前にいるならその人の魂に刻まれた記憶を見ることが出来る。
それによると、この世界に流れ着いてくるのは大抵ろくでなしだったね。
そりゃあ元の世界からも見放されるなあと納得出来るような奴等ばっかりで、ちょっとがっかりしたものさ。
中でも許せなかったのは、あの女だ。
あの女は子爵家の令嬢だけれど、前世の記憶と、この世界のことを、筋書きを知っていた。その時初めてボクはこの世界が別の世界にある小説の中のものだと知ったよ。
...それだけなら絶好の協力者だったけどね。
あの女は性格が最悪だった。
クラルスがほしいクー様クー様と喚き、ボクがそんなことは不可能だろうと言うと、むっとして帰っていった。
そして外にいるボク、ボクでないボクを、ボクと同じ外見だからと探して見つけ出し、十七歳の彼女の愛しい幼馴染みを...旦那様を誘惑し、彼女から奪った!そして彼を連れてここにやって来て彼にしなだれかかり、「取っちゃった、ごめんねー?」とほざき、ボクを嘲笑した!!
許せない、許せる訳がない!!
その場であの女は魂を砕いてやったよ。ここはボクの小さな王国。ここでは誰もボクに逆らえない。ボクの思いのままになる。
ボクは旦那様の記憶から女の記憶を消し、村に帰した。
その後女は魂が壊れたことで廃人になったよ。誰も彼女を愛することはなかった!良い気味さ!
...ごめん。ちょっと興奮しちゃった。
でもボクだって辛かったんだ。察してくれると嬉しい。
...あ。
今、結構大きな発見したかも。
あの女の魂は砕いたけど、もしかしたら時間が経つことによって少しは修復していたのかもしれない...。
ああ、つまりね、もしかすると、あの女...
今回の世界で、イリスの侍女になっていたのかもしれない。
ほら、君も知っているだろう?メルって名前の、イリスを殺しかけた侍女。
彼女は本来なら、すごく気立てが良くて優しくて、イリスを愛して甘やかすんだけど...今回の世界では違った。
イリスに、お前のせいでクー様が死んだと喚いていたし、昼間、皆がいる屋敷で叫びながら首を絞めて殺そうなんて、明らかに常人の思考ではなかったし、考えれば考える程、あれはあの女だ。
ということは...イリスが変わったのはあの女のせいで...今こうして成功しているのはイリスが変わったおかげで...そうか!
つまり全部ボクのおかげだったんだ!
イリスが変わったのは侍女のせいで、侍女の、あの女の魂を砕いたのはボクだ、ボクがいたからこうして世界は変わったんだ!
うわあ、ちょっと今ボクの運の良さに感激しているよ。流石はボク。
ああ、ああごめん。拗ねないで。勿論君のおかげでもあるさ。ただ一番の功績者はボクってだけで...。
あはは、うん。ボクもびっくりしてるよ。こんな巡り合わせがあるなんてね。
っと、話が逸れまくっちゃったね。
話を戻すと、ボクは転生者を招いて四人をどうにかしようと画策して...何度も経験を積んでいたのさ。




