占い師の記憶①
やあ、いらっしゃい。よく来たね。
ちゃんとイリスからペンダントを回収してきたみたいだね。ありがとう、君には助けられてばかりだよ。
ん?ふふ、そうだね。ボクは今、とっても機嫌が良いよ。
何といっても、悲願まであと少しなんだから、当然だろう?
イリスは生きてる。クラルスも生きてる。
ルナはレックスと結ばれたとしても王妃にはなれないし、レックスは王にはならない。
そしてボクの邪魔をする精霊はみーんな封じ込められた!
これが最高と言わずに何を最高と言うんだい?
ああ、駄目だ駄目だ。まだボクの願いは叶ってない。それまで気を抜いては駄目だよ。ふふふ。
でも、もう誰にも、どうにも出来ないさ。
精霊は封じ込められ、魔獣は精霊の操作から解放され、塵芥同然。
精霊の意志を継いだ人間はこの世に存在しない!
ボクの完全勝利だよ、あははははは!!
っと、ごめんごめん。調子に乗るのは良くないよね。
でも、仕方ないとは思わないかい?
ボクがどれだけ、何度、何回繰り返してきたと思う?
主人公が生まれてから、愛する人との幸せを噛み締めるまでが二十六年...それを、ボクは861回、体験してきたんだ。本当に、本当に、辛かったんだよ。
誰もボクを信用してくれない道もあった。
誰もボクに協力してくれない道もあった。
誰もボクに気付いてくれない道もあった!
人間とはこうも身勝手なものかと、何度も何度も思い知らされてきたんだ!
それを簡単に理解出来るなんて言われたら、流石のボクも怒るさ!当然だ!
...ああ、ごめんね。君は違うよ。君は本当によくやってくれた。ボクの呼び掛けに応えて、ボクを信じて、ボクに協力してくれた。うっかり惚れちゃうくらいだよ。
はは、冗談だって。君には愛する奥さんがいるもんね。
本気なのは半分くらいだよ。
ああ、そういえば、そんな約束もしていたね。
ボクのことを隅々まで知りたいなんて、なんて大胆な人なんだろう!
あは、冗談だよ。
うん、君になら話してあげてもいいよ。
ボクがどうして、世界を変える気になったのか。
ちょっと長くて、分かりづらくなるかもしれないけど、それくらいは我慢してね。
ボクだって、こうして誰かに話すのは初めてなんだから、さ。
ボクは元々、イリスを筋書きに従わせるために存在する、精霊だったんだ。
闇の精霊だの光の精霊だの、本質は全く同じものなんだよ。ただ、イリスのそばにいるのは闇、ルナのそばにいるのは光だと、便宜上そう呼んでいるだけさ。
ボクは、イリスを洗脳する役割だった。
幼いイリスのそばで、君は誰よりも可愛いから何をしても許され肯定されると、頭の中に直接囁く。四六時中、イリスと一緒にいたんだ。
精霊には感情がない。感情があるフリをしているだけ。だって精霊とは、世界を、筋書きを守るためだけに存在するものだからね。実体もないし。人に取り憑き、操ることは出来るけどね。
とはいえ、操れない人間もいる。たったの四人だけど。
そう、ルナとレックス、イリスとクラルスだよ。
彼等が紡ぐ物語こそ、この世界そのものなのだから、その体を直接操れる訳がないんだ。か弱いボクらが出来るのは、彼等を洗脳することくらいなのさ。
と、まあ、そんな感じでボクは何の疑問を持つことなく、ただただ筋書きに従わせるために生きていたのさ。
ボクが生まれた時のこと?覚えていないなあ。気付いたら存在していて、役割を果たしていたんだ。精霊なんて皆そんなものだよ。
世界は、主人公が愛する人と口づけたら、そこで一旦終了する。そして新たな世界が構築される。
始まりは主人公がこの世に誕生し、産声を上げた瞬間。
それまでの過程、所謂歴史は存在しない。主人公が生まれた、そこが世界の始まりなんだから。
つまり、新しい世界の人々は、ありもしないこれまでの記憶を植え付けられ、何事もなかったかのように、「いつも通り」生活し始めるんだ。昨日がないなんて思いもせずにね。
人々の魂も、使い回されてるんだよ。
例え話をするなら...前世ではレックスの友達だった人の魂が、今度はレックスの父親になる、みたいにね。
それは皆同じで、動物だって魔獣だって、そうなのさ。
ただし、精霊だけは当てはまらない。
精霊は世界が作り直される間、皆で縮こまってそれを凌いで、世界が新しくなったらまた活動を始める。記憶も、魂も、自分だけのものとして生きられるのさ。
まあ感情も実体もないから、それを喜んだりはしないんだけどね。
それで、えっと、どこまでいったっけかな。
ボクはイリスとずっと一緒にいて、何回もイリスを見殺しにした。だってイリスを破滅まで導くのが役目だから。
ずっとそうやって生きてきたんだけど...ある時、予想外の出来事が起きた。
イリスがとても幼い頃、とある村を通りがかるんだけど...そこで、ボクは気まぐれで、イリスと同じ年の女の子に取り憑き、操ろうとする。
どうしてそんなことをしたのかは分からない。もしかしたら変わらない日々に退屈していたのかもしれないね。感情はない筈なのに。
とにかく、その時ボクは、ヘマをしたのさ。
誤って、その女の子と深く同調してしまったんだ。
結果、女の子と精霊は交じり合い...このボクが生まれたのさ。




