コミュ障令嬢と悪役王子
「ふん...自業自得とはいえ、あんまりいい気分じゃないわね」
「ルナ、さっきの人は...?」
「さあ、分からないわ。ただ...もう、あたしの中にはいないわ」
「そうか...元いた場所に、戻っているといいな」
レックス殿下とルナが親しげに会話をしている。
親しげに、そう親しげに!
これには皆お口あんぐりですよ。
そもそもルナさん、あなた一体何なんですかその変わり身の早さは?
「あ、兄上!俺には何が何だかさっぱりなのだが...兄上はその女に騙されているのではないのか?」
「違う。そうだな...彼女は、今まで乗っとられていたんだよ。だから、本来の彼女は決して、悪人ではないんだ」
「あ...もしかして、ルナも精霊に...?」
私がぽろりとこぼしたことに、皆が一斉に注目してきて非常に狼狽える。
「さ、先程、皆さんは体の自由がきかず、操られていたでしょう?彼女も、そうなのではないか、と...」
しどろもどろにならないように必死で説明すると、皆は納得したような顔になった。
同時に私もちょっと納得していた。
ルナが時々記憶喪失になって、人が変わったようになっていたのは、おそらく精霊の仕業だったのだろう。
そして、精霊はもういない。
「諸悪の根源は消えました。もう、大丈夫です」
ルナと、皆に告げると、「イリス様のおかげだ」「流石イリス様」「イリス様の不思議なお力によって救われた」など、何故か私を持ち上げる流れになっていた。何でや。
けれど、もうこれで本当に、大丈夫だろう。
私を魔王にする闇の精霊は消えた。闇が消えたということは、闇に誘われていた魔獣は私に従うことはない。きっとこの王国近隣に縛られることもなくなるだろう。
光の精霊が消えて、ルナも解放された。本来の彼女は私を倒そうとすることはなく、光が消えたから聖女になることもない。何故かは知らないけど、仲良しなレックス殿下とどうなるのかは、本人達で決めてください。
クラルス殿下は、闇が消えたからもう死ぬことはない。
生きられる。生きてくれる。
「...殿下」
ルナとレックス殿下のやり取りと、皆の「異常事態だったけど何とか収まって良かった」というざわめきを静かに眺めていた殿下に、小さく声をかける。
「ん?」
「あの時...殿下の声、届いてきました」
「...そうか」
「ありがとう。私は、あなたに救われたんです」
殿下は少し笑って、答えた。
「当たり前だろう。お前は俺の、大切なものだからな」
「...そう、ですね。私も、殿下のことは大切に思っています」
「う、む...しかし、残念だが、俺のそれとお前のそれは、少し違うものだろうな」
「同じです」
断言した。
断言、出来た。
「...同じものです」
彼は大きく目を見開いた。
赤く優しい瞳。私が大好きな色。
私には、まだ恥ずかしくてはっきりは言えないけど。
「私は...あなたと、同じです、クラルス。ずっと気付いていなくて...でも、ずっと、そうだったんです」
「...そうか」
クラルスはまるで泣き出すかのように目を細め、震える手で私の頬を、壊れ物でも扱うようにそっと撫でた。
「俺もだよ」
やがて、二つの影が重なった。
この先何が起きても、私はもう、大丈夫。
クラルスが、そばにいてくれるから。
これで終わりとなります。
読んでいただきありがとうございました。
ただ、完結ではなく、今後は占さんのお話(蛇足)を不定期で更新させていただきます。




