コミュ障令嬢は困惑する
「あの女、今頃めそめそ泣いているのではなくて?」
「ふふっ、いい気味だわ。身分違いなのにレックス様に近付くからこうなるのよ」
「明日のパーティーでは一人だけ制服で来るのかしら?それとも来ないかしら」
「どちらにしてもとても愉快ね!」
「おほほほほほ!!」
聞こえない。
申し訳ないが私は事なかれ主義なんだ。余計な波風は立てたくないんだ。
ルナには悪いが、そもそもルナに私は貸しをつくってるんだ。これ以上肩入れしたらルナが返済出来なくなるんだ。だからあえて動かないんだ、うん。
わいわいと盛り上がっている女の子達の後ろをすたたたたと駆け抜ける。
いいぞ私、間諜の素質あるんじゃないか。
「あらイリス様、ごきげんよう」
誰だ間諜の素質あるとか言った奴は!!
ダンスの練習をする為にホールを訪れた私は、ルナのドレスを破ったであろう女の子達にうっかり見つかってしまった。
「...ごきげんよう」
顔!表情に気を付けろ!片鱗も見せるな!
わわわ私がさっきルナにドレスを貸したなんて、そそんなのあありませんことよ!
出来るだけ感情を消して挨拶すると、何故か女の子達の顔が強張った。
な、何で...!?
「え...イ、イリス様。わ、私共、何か粗相をいたしましたか?」
「...いいえ?」
ん?そっちが粗相?何で?
「そ、そう、ですの...?」
「はい。それでは」
挨拶して少しずつゆっくりと距離を取る。
よし、切り抜けた!私偉い!
無事に離れられてほっとしてると、あっちの方(私がいた方)で騒ぎが起こったんだって、という他の人の会話が耳に入ってきた。
...私は何も知らない!
「何が悲しくて男同士でダンスをしなきゃいけないのだ...」
「はは、いいじゃないか。私もクラルスも相手がいないのだから」
「俺には相手はいる!イリスがいる!ただイリスはあまり積極的でないから、仕方なくこうして兄上に付き合っているだけだ!」
「はっはっはー、本当かな?」
「不安になるようなことを言わないでくれ!」
クラルス殿下が頭を抱えたところで、レックス殿下は笑いながら私の方を指差した。
いつものことだけど兄弟仲良いですね。
「ほら、姫君が来てくれたみたいだ」
「な!?イリス...!?」
殿下は瞠目した後、喜び勇んで走り寄ってきた。
「どうしたのだイリス。何かあったのか?」
「私も、ダンスの練習をしたいと思いまして」
「そっ...そうか!そうかぁ...!」
うわぁ、めっちゃ良い笑顔するなあ。擬音で表現すると、ぱああああ、みたいな。
冷たいように見られる顔が一気に崩れましたね。
ギャップ萌えってやつですか?私には通用しませんけど。
「...イリス?何故目を逸らす?」
「...いえ、別に」
言えない。
この前殿下が変なことキメ顔で言い出してたのを思い出して何か恥ずかしくなったなんて言える訳がない。
「まあいいか。さあ、やるぞ!」
殿下が私の手を取り、優雅に、艶やかに微笑む。
何だこの美人。
ぱしんっ。
「むっ?」
あかん、思わず手を払いのけてしまった。
「イ、イリス...?どうした、本当に、何かあったのか?話を聞くぞ」
「...殿下」
「ああ」
「何か空気を壊すようなことを仰ってください」
「...イリスは甘いものが好きだからそれをあげたらいくら怒っていても何とかなる?」
何とかならないよ!私はそんな単純じゃないぞ!
ふう、ちょっと落ち着いた。
「さて、練習しましょうか」
「そうだな」
殿下はその後特に詮索してこなかった。
いい人だなあ、本当に。
一通りの動作の確認を終え、殿下と共に少々休憩していると、「イリス様!」と、何やら切羽詰まったような声が。
目線を向ければそこにはさっき挨拶した女の子達が、青ざめた顔でガクガクブルブルと震えていた。どうした。
「...何か?」
「あ、あの...本当に、申し訳ございませんでした。まさか、彼女がイリス様の...ああ!どうか!どうかご容赦くださいませ!」
「はあ...」
何かよく分からないけど取りあえず頷いておくと、「ありがたき幸せ!」と盛大に、涙ながらに礼を言われた。
彼女達の後ろには、フロースさん率いる、よく私のそばにいてくれる人達の姿があり、彼らは満足そうに彼女達の謝罪を見守っていた。あなた達何したんですか。
「イリス、お前は一体どこまで大きくなるつもりなのだ?」
知らないよ!
彼女達の謝罪には驚いた。
そもそも何で私に謝ったのか分からないけど、おそらく彼女達はルナのドレスを滅茶苦茶にしたことを反省したのだろう。何で私に謝ったのか分からないけど!
練習を終え寮に戻った後一応ルナに伝えてみたら、「は?何ワケ分かんないこと言ってんの?つか、話しかけてこないでくれる?」と嫌そうな返事がきた。
そんな反応していいのか?私には貸しがあるんだぞー?と、脅してみたところ、
「はあ?あんたに貸し?捏造して楽しいの?」
何言ってんだこの人。
「いや、借りは必ず返すって言ってました、よね?」
「意味分かんないこと言ってんじゃねえよ!あんたに借りなんかある訳ないし!」
キレられた。怖い。泣きそう。
「でも、現に、ドレス、貸しましたよ?」
「は?ドレス?私が、あんたのを?はっ、ないない。そもそも私、ドレス持ってるし」
いやいやいやいや。
その後、持っているというドレスを渋々ながら見せてもらうと、それは紛れもなく私ので、そう指摘すると「何意味分かんないこと言ってんの!?」とキレられた。もうやだ怖い。
ルナは時々記憶喪失になるようだ。私はそう思うことにした。




