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敗戦処理のむずかしさ

 「そこまで!」

 

 うつ伏せに倒れ込む里菜の元に坂林先生が向かう。僕と姫野さんと隼人は顔を見合わせ、コクリと一度頷き里菜の元へと駆け寄った。

 

 坂林先生は左膝をつき右足をたて、ゴロリと里菜の体を仰向けにし、口元に耳を近づける。

 

 「呼吸はあるな。至急保健室につれて行け」

 

 冷静な判断を下す先生。僕たちはホッと胸を撫で下ろす。髪は静電気のせいでハチャメチャになっていて、服は所々が焦げているものの、他には目立った外傷(初めの腕の傷以外)はなく大丈夫そうだ。恐らく、里菜は水球が液体に変わり、電流の膜を通り過ぎる手前で水魔を放出し威力を弱めたのだろう。……もしくは力を使い過ぎて水魔切れを引き起こしたのかも。その可能性の方が高いな。運のいい奴だ。

 

 「わ、私が一緒に行きますね。えっと」

 

 オロオロとしゃがみ込み、里菜の腕を掴もうとする姫野さん。

 

 「僕が行くから姫野さんは試合に集中して。隼人が勝てば姫野さんの番なんだから」

 「それが妥当だな。俺と姫野はまだ試合がある。それに姫野の力で里菜を運ぶのは不可能だ」

 

 どこまでも冷静沈着な男だ。でも、実際のところは優しいんだろうな。こうやって里菜のところに駆けつけて、安全を確認しているわけだし。心なしか表情も緩んでいるし。

 

 「おぉ、任せろ」

 「……よろしくお願いします」

 

 姫野さんが自分のことのように恭しく頭を下げる。そんな心優しい姿を見てだろうか、更に隼人の表情が緩む。……ニヤついてる?

 

 「二人は試合を頑張ってイタっ!」

 

 里菜の腕を掴んだと同時に文字通り電流が走った。というか火花が散った。

 

 「あっはははははは。そりゃあんだけの高電流の中にいたんだぞ。あはっははは」

 

 腹を抱えて笑う隼人。……表情の緩みはこの為だったか。ほんと、くだらないことには頭が回るやつだ。こうなれば巻き添えにしてやる。

 

 「なぁ隼人。保健室に連れて行くためにおんぶしてやりたいんだけどさ、一人じゃ難しいから里菜の体を起こすのを手伝ってくれ」

 

 ふふふ、断れまい。実際、寝ている人を一人でおんぶまで持っていくのは厳しい。だからといって放置しておくこともできまい。誰かがやらなければならないこと。相手小隊の手伝いはありえないし、先生はやらん。そういう人だ。それに力を考えれば男であり隼人以外はありえないのさ。

 

 「お姫様抱っこでいけよ」

 「ぐっ……それは……」

 

 恥ずかしすぎる。まさか、この展開から更に追い打ちをかけてくるとは……。

 

 「……峰人君に抱っこなんてずるい……」

 

 姫野さんが顔を赤らめ何か呟いた。

 

 「どうかしたの?」

 「いえ何でもありません何でも」

 

 両の掌を胸の前まで上げ左右にふり否定してきた。

 

 「何でもいいからお前ら早くしろ! 時間がもったいない」と少し怒り気味の先生

 「分かりました。私がお手伝いします」

 「え、姫野さん!? それは駄目だよ。火花が散るレベルだよ!? 超痛いから!」

 「そうだぞ姫野。痛いのは全て峰人に任せておけ!」

 

 隼人ですら突然の言動に驚きを隠せない。

 

 「て、何で僕が痛いの専門なんだよ!」

 「そりゃ、言動とか色々痛いし慣れっこだろ?」

 

 痛みを感じなくなるほどの恐怖を教えてやろうか! 

 

 「もう二人とも!? いつまでも里菜ちゃんを放っておいてはだめですよ。さ、峰人君」

 

 プンプンとしつつも、里菜の頭元に移動した。やる気満々みたいだ。

 

 「いや、本当に危ないから。いいよ僕がお姫さま抱っこでいくから!」

 「それは駄目です!!」

 

 全力で否定された。恥ずかしいのは僕だけのはずなのに……。

 

 「お姫様抱っこは女の子の夢なんですよ! それを知らない内に、寝ている間にやるなんてあんまりです。……里菜ちゃんずるい」

 

 尻すぼみの言葉に最後はよく聞き取れなかったが、姫野さんの優しさは強く通じた。

 

 「……わかったよ。姫野はどいてろ。俺が手伝う」

 

 後ろ髪を掻きつつ隼人が仕方ないと言った感じで呟いた。

 それから男二人の悲鳴が5分に渡って響き、里菜が電池切れになって、ようやく背中に乗せることに成功した。隼人が試合前に満身創痍だったのは言うまでもない。……プスプスと湯気がでて、髪が少し焦げていたなぁ。……僕みたいに。



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