水 VS 炎 越えられない壁
「両者の先方は前へ」
坂林先生の立つ武闘場の真ん中へと向かう。
真ん中で向かい合う僕と坊主頭。くッ、超ニヤついているし!
負けじと睨みつける僕を余所に先生が説明を始めた。
「相手を殺すこと、再起不能にさせた場合は退学になるからな。後、申請のない武器の無断使用は禁止。これを破った場合は、その試合及び残りの試合も不戦敗となる。ルールは守れよ」
僕とニヤつき坊主が一度頷くと、先生は坊主に黒い大きな鞄(武器である水)を手渡した。鞄からペットボトルを取り出し、蓋をあけてから床に全て置いた。
「それでは第3Eランク小隊と第一ランクなし小隊の水魔ポイント戦第一試合を始める。はじめ!」
掛け声と同時に、僕と坊主は後ろに跳び、互いに距離を取る。そしてまたしても同時に合掌し、水魔を練る。
するとペットボトルから水が飛び出し、彼の頭上高くで10リットルの水が一つの大きな塊に(残ったペットボトルには白い粉のような物がついている。それを先生が勝負の邪魔にならぬよう急いで回収する)。
その内の3割程度が彼の前に移動し、彼の体の形に姿を変えていく。それが彼の全身を覆う。水の鎧とでも言っておけばよいだろう。水魔をごまんと含んだ水の鎧は、鉄よりも、ダイヤモンドよりも固い優れた防具である。しかも軽い。
「へッへッへッ。お前はもう勝てねぇよ」
「悪役笑いは負けフラグだぞ! ま、見とけって。こっちも負けてらんねぇよ!」
僕は全神経を集中し強く合掌する。
そしてゆっくりとその手を左右に開き、赤々と燃え上がる炎の剣を精製していく。
「悪いな。僕は君達と違って水魔量が桁違いなもんでな。武器なんかなくたってこのくらい作れるのさ」
より強い剣を作るために水魔を籠めながらゆっくりと、じっくりと両手を開いていく。熱くなると持てないので柄の部分を30度(僕の生成できる最低温度の炎)に、剣先を1000度にし、右手でその柄をギュッと掴む。
「ばぁか、火が水に勝てるわけねぇだろ。へッへッへっ。お前は黙って俺にポイントを計上すればいいんだよぉ。0.01%の異端児君」
巻きつくような滑り声を出す坊主。その後ろでは壁に寄りかかりニヤニヤと僕を見る3人の第三Eのメンバーたち。
そう僕らは常に異端児として好奇の目線に晒され迫害を受けてきた。原因は解明されていないが、水魔量が極めて多い(通常を1とすると100以上の人間を指す)場合、水は操れず、その他のエネルギーを操れる。僕の場合はそれが火であった。水中心の社会では水を操れない僕たちは異端児なのは確かかもしれない。が、生まれもったこの力を蔑まれるのは、母から受け継いだこの力を馬鹿にされるのだけは許せない。
「火が水を燃やして何が悪い!」
笑いたきゃ笑え! 僕は水を切り裂き、燃やす男になってみせる。
「ぶッ、ぎゃはははっはは。水を燃やすって……あはははは馬鹿だぁ!」
……できればそんなに笑わないで欲しいかも。
「はぁ、そろそろお喋りは終わりだ。スグに決着をつけてやるよ!」
そういうと彼は右手の人さし指を天高く上げ、振り下ろす。すると、塊だった水はドリル状に変形し僕へと一直線へ向かってくる。
僕はそれをギリギリまで引きつけ、衝突の直前に横っ跳びで避け、そのまま剣を片手に相手の元へと駆け寄る。
「甘いな坊主頭! こちとら日々体を鍛えているんだ! そんな単調な攻撃があたるか……よっと!」
勢いそのままに彼の胴体めがけて炎の剣を振り抜く。相手は避ける動作をみせず、
ぎぃんと金属同士が衝突したかのような音が響いた。
胴体どころか防具に小さな傷がつくのがやっとだった。バックステップで後退し体勢を立て直す。
「くッくッくッ! それがどうした? 水魔たっぷり練りこんだ剣がその威力か? もったいないなぁ。もしそれが水の剣だったら防具どころか体が真っ二つだったろうに。火でなければねぇ」
甲高い笑い声。人を蔑む時の人間の表情は本当に醜い。これ以上に気持ち悪い笑顔はないくらいだ。
ただ彼の言葉は正しい。水武器自体の強さは練り込んだ水魔量で決まる。一般の100倍以上の水魔量を持つ僕が水の武器を操れば最強だ。ただ、火と水では明らかな優劣関係があり、その優劣は水魔量の優位をいとも容易く打ち消してしまう。
「今そんなこと言ってどうする。勝つための手段を考えるんだ」
といっても狙いどころは一つだ。彼の体が水の鎧を着ている以上、今の僕にはそれを破壊するだけの技量はない。でも、水の鎧がないところが一か所だけある。そこを閉じてしまえば闘いどころではなくなってしまうだろう。
隙をついてそこを狙い撃つ!
「今度はこっちも本気でいくぜ!」
クイッと手をやると地面と衝突し水溜りとなっていた水が浮き上がり、彼の頭上へと素早く移動する。人差し指を頭上の水に向け、切り裂くような動作をみせると水が半分割れた。
僕はもう一歩後退し相手の攻撃に備える。
「さぁ次は避けられるかな? 行け!」
挙がった手を勢いよく振り落すと、割れた水は二つのドリルへと形を変え左右同時に僕に向かってくる。
「そんな攻撃がきくかよ。ありきたりだ」
Eランク程度の力だとドリルのような比較的作りやすい形のもので攻撃してくる人間が多い。そして、それが二つになることもよくある。
僕が一歩右後ろへと移動すると、坊主はドリルの軌道を修正した。右へ移動したことにより、右の方が少し早く僕の体へと到達する。これを剣で受け流し軌道を変え、左からのドリルへ衝突させる。
「へぇ、やるじゃんか。ほんと水が使えたら最強だったな」
素直に感心しているらしい。でも、
「逆だよ。水が使えないから、火しか使えないからこそ僕は強くなれた。日々怠らず、たゆまぬ努力をしてこれたんだよ」
「かぁ、泣かせるぜ。なんたってそれは無駄な努力なんだからな。どんなに頑張っても火は水に勝てない。それが自然の摂理だ」
額に手を当て大袈裟な演技をする。僕の左前には水溜りが出来ており、僕はジリジリと水と坊主の動きに警戒しながら距離を取る。
「ではその努力がどこまで続くか試してやるよ。次は4つだ」
再び坊主頭の頭上に戻った水を次は一指し指で十字に切り裂き、更にそれぞれを半分に切り裂く。動作をみせる。それぞれドリルに変形する。初めに一つのドリルが僕をめがけて飛んできた……かと思ったら遥か頭上を行き、そしてUターンして後ろから。
「チッ、姑息な……!?」
後ろに気を取られている内に、正面そして左右から、そして真上から水ドリルが襲い掛かる。
「クソッ! はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
体中から水魔を放出し、左右前後、そして頭上に低温炎の盾を作る。
がきん
四方八方から鈍い音が響き、炎が消えかけてゆく
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
更に体内から水魔を放出し消えかけた炎を更に強く、強固にする。
「炎が水を止めるだと!? ふざけんなくそったれ!」
今日初めての焦りの声が聞こえてきた。だが、相手はドリルの操作はできても、遠距離から水魔を練り込むことはできない。遠くの水に練り込むためには相当の水魔が必要である上に、攻撃しつつ練り込むというのはかなりの手練れでも難しい。
「おらぁぁぁ!」
パシャぁん
ドリルは水魔を使い切り床へと落ちた。この水を再び操るためには、近寄り水魔を練り込む必要があるが、そんなことさせるはずがない。
「マジかよ。いくら何でもそんなことって……」
坊主頭が呆然と呟く。
「へ、火の盾が水に勝ったじゃねぇか」
強がりながら一歩一歩近づいていく。実を言うと水魔をほぼ使い切り体がガタガタだ。ま、炎の剣は残っているし後は確実にあの箇所に当てれば勝ちだ。
「へ、何だよ。そんな剣一本で俺に勝てると思ってるのか? お前の剣は俺の防具に小さな傷つけるのがやっとじゃねぇか。へへへ」
とか言いながらも後ずさっている。相手には水魔が残っているため警戒は怠れないが、水がなければ問題はない。落ちた水は10m以上離れている。近づけさせなければ、勝てる。
最後の力を振り絞り力強く地面を蹴る。死なないように剣から水魔を放出……つまり捨て、強度を下げる。
左右に素早くフェイントを入れ、相手の逃げる場を潰し、下から上へと、唯一防具がついていないであろう顔面へと振り上げる!
がきぃん
初めに聞いた時と同様の鈍い金属音が響き、二度の衝突をした僕の剣はポッきりと半分に折れ、ふっ、と姿を消した。
「何故だ!? 顔面まで被ってたら呼吸できないだろ!」
「ばぁか! 死ね!」
殺意に満ちた声と共に、坊主の体から鎧が剥がれ水の塊となり、僕に迫ってきた。
「しまった!」
必死に身を翻し逃げるも時すでに遅し。水はヘルメットの形に変わり僕の頭を包みこんだ。
「ごぼ(くそ!)」
あと一息で勝てたはずなのに。油断した。
「勝負ありだな。それだけの水魔があって水を扱える人間なら、その水のヘルメットを外すのは容易いんだけどな。幾分、火しか扱えない人間じゃあね」
僕の顔(水メット)に当たりそうなくらい顔を近づけ、気持ち悪いニタニタ笑うをみせてきた。
「ごぼごぼごぼごぼ(ちくしょうちくしょう)」
体から力が抜けていき、よろよろと膝をつく僕。一分、二分と時間が過ぎていく。相手から攻撃してくる気配はなく、僕の苦しむ様子を色々な角度から楽しんでいるみたいんだ。
僕が水を扱えたら、相手以上の水魔をこの水メットに練り込むことによって水の使用権を得ることができて助かったのに。いや、そもそも防御の時に全ての水魔を使うこともなかっただろうに。そしたら……、いや違う。弱気になるな。自分で自分を卑下するな。次はもっと努力して、もっともっと強くなればいい。
「そこまで!!!」
無情にも坂林先生が試合終了を宣告した。水メットは僕の頭から離れ、床へと零れ落ちたのだった。
戦闘シーンを書くのは初めてでお粗末な文章となってしまいました。少しでも良い作品を作れるよう全身全霊努力していきます。最後までお付き合いいただけたら幸いです。