『EP-00:07』-『かまってちゃんの夜の試練』
結局、学校はサボった。
ウェンが動けないのをいいことに、勝利宣言をしつつ逃亡した。
あのまま戦っていたら、確実に負けていたからだ。
そして、場所は変わって自宅。
包帯など必要ないぐらい、戦いの傷跡は快復した。ちょっと前から特異体質になったおかげで、重症を負っても半日で元通りになる。
だから、家に帰ってからはずっとゴロゴロしていた。
そして、自業自得とはいえ、試練が訪れた。
ウェンとの戦闘の時よりも緊張しているかもしれない。
それは、
「おねぇーちゃんと、ベッドインだぁああ~~~!!」
嬉々としていらっしゃる。
姉と反比例して、こちらのテンションはだだ下がりだ。
『何度も言うようですけど、この人、本当にレンと血の繋がりのあるお姉さんなんですよね?』
「多分、きっと、そうだよ?」
『それにしては、愛が深すぎて怖いんですけど……』
「……俺もだ」
怖すぎて今すぐ逃げ出したいところ。
だが、扉には複数の鍵がごっそり。
侵入者を防ぐための鍵が、今となっては仇となっている。
これじゃ、すぐ脱出なんてできない。
「もう! レンくんったら! 脳内お友達と話すのもいいけど、私にもかまってよー、かまってよー」
「やべぇ、絡みづれぇ……」
バンバン、と肩を叩いてくるマリアに引きまくっている。
こんなにも機嫌がいい姉を見たのは久しぶりだ。
うへぇ、と内心で舌を出しながら、ズリズリと尻をずらしていると、
だきっ!! と後ろから胸を押し付けられる。
「お、おい! いきなり抱きつくな!」
いくら姉と弟であっても。
いや、姉と弟の関係だからこそ、恥ずかしい! とにかく背後霊みたいにくっついているマリアを引き剥がそうと躍起になるが、離れない。
物凄い強いで抱きしめてくる。
そして、何故か――――腕がふるえていた。
ようやく、何か様子がおかしいことに気がつく。
「……だって、本当はずっと一緒に寝たかったんだよ……。ずっと、寂しかったんだよ……」
「マリア……」
強がっていたのか。
姉だから、なるべく弟に弱みを見せたくない。だから、いつも陽気に振る舞っていた。
そして、今日は特に陽気、というか元気だった。
いつも不安に押し潰されそうだった想いが、今日ついに零れたのか。
きっかけは、こうして甘えられる状況ができたから。
だったら、もっと甘えて欲しい。
家族は、もうたった一人しかいないのだ。
認めたくないが。
こちとら重度の隠れシスコンなのだ。
とことん甘えて欲しいから、逆にこっちもたまには甘えてみせようか。
「俺だって、寂しかったよ……。父親と母親がいなくなってから……」
「ほんとうにお人よしだったよね、二人とも。捨て犬とか捨て猫とか拾ってきて……」
「ああ、しまいには人間まで拾ってきて……っていうか、いったいどこで拾ってきたんだよって思ったけど、ほんとうに……馬鹿がつくほどのお人よしで……優しい二人だったよな……」
家には、家族以外の他人が居座ることも少なくなかった。
誰もがきっと、帰る場所がない人達ばかりだったと思う。
子ども一人一人の詳しい事情は教えてくれなかったし、あまりの頻度で人間を拾ってくるから、あまり違和感を覚えなかった。
むしろ、そうやって困っている人を助ける親のことが誇らしかった。
「ねえ? 本当に両親のことはあまり憶えていないんだよね?」
「あ、ああ。薄情なことに、憶えていないよ。断片的なことは記憶にあるけど、具体的なエピソード記憶ってやつが虫に食われたみたいに、途切れ途切れで憶えているって感じだよ。……最低だな、俺」
「ううん、良かった……。辛いことなら、捨ててしまえばいい。忘れている方が、知らない方が幸せなことって、きっといっぱいあるから……」
消え入りそうな声を漏らしたその後。
グイッ、と襟を掴まれると、そのままシーツの中へと引き摺られる。
「うおっ! ちょ!」
「……ねよう」
衣擦れする音や、絡めてくる細い足首。
肌と肌が接触した時に伝わる熱。
艶やかな要素盛りだくさんで、寝つけにくいにもほどがある。
だけど、たまにはこうやって家族水入らずってもいいのかもしれない。……そう思ってしまうのは、共依存で、姉に毒されてしまっているのだろう。
「…………ああ」
それでも、今はこうして傍らにいたい。
他の人から見て、気持ち悪かろうが関係ない。
独りきりの夜は、やっぱり寂しいのだ。
『私があなたのことを見ていること、忘れないでくださいよ……』
「……分かってるって」
そういえば、いつもはテイシアが監視しているから、最近はそこまで寂しくないのか。
気がつかなかったな。
「んんっ」
マリアがくぐもった声を上げながら、なにやら蠢きだした。
まるで抱き枕かなにかのように、こちらの足を両足で挟む。ちょうど顔が胸に当たるように抱きすくめてくるのはわざとなのか。
石鹸のいい匂いがする。
疲れているせいか、跳ね除ける気力もない。
もう、いいか。
そして、心地よい眠気に導かれ、レンはいつの間にかイビキをかいていた。




