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『EP-00:02』-『ヤンデレ姉と夜の約束』

 朝の陽ざしが窓越しに注がれる。

 外の木にとまっている小鳥の囀りが聴こえてくる。

「う、うーん」

 ベッドで寝ている少年の目蓋がぴくぴく痙攣する。

 目覚ましのアラーム音ではなく、自然の音で起きそうになっている。

 それが、とても心地よくて。

 起きるか、二度寝するか。

 その微睡みの境界線を船で漂っているような感覚が好き――なのに――


 ドン! ドンドン! ドンドンドン!! と、部屋のドアが叩かれる。


 太鼓の練習でもしているかのように、うるさい音が鳴り響く。

 こうも、毎日、毎日、叩かれると慣れてきてしまう。少年は枕を耳元にくっつけて、毛布を頭から被る。

 今にもドアを壊されそうな勢い。が、そう簡単に壊されないように、五つほど鍵を作っておいた。お父さんの日曜大工並みに張り切って鍵を増設したのだ。これで快眠の敵の侵入を完璧に防ぐことができるはず。だが、


 キィイイイイイイ、とガラスが悲鳴を上げる。


「いっ――」

 飛び起きると、ベッド近くの窓ガラスに、バツ印の亀裂が入っているところだった。

 窓の外にいたのは、まるで鬼。

 いつの間にドアの外から、野外へ移動していたのか。

 窓ガラスにヒビを入れていた凶器は両手に持っている包丁。

 包丁の二刀流も、ちょっとしたサイコホラー。

 が、それよりも怖いのは、ここが家の二階だということ。足場なんてないはず。それなのに、悪鬼羅刹のように顔を歪めている女は直立不動している。

「ここ、二階だぞ! どうやって立ってんだっっっ!!」

 女は腕を交差させる。

 嫌な予感がして、少年はベッドから飛び退く。と、


 バリィインン!! と窓ガラスを破壊しながら、女が突入してきた。


「うおおおおおおおおおおおおおおおッ!」

 対テロ対策班並みの身のこなし方。

 女は、にっこりと親しみげな笑みをしたためる。

「おはろんっ! 私の最愛の人っ! もうっ! だめだよ、そんなぐーすかぴー寝てちゃ! そんなんじゃ遅刻しちゃうぞ」

「だめなのは、お前のダイナミック不法侵入のことだ! いきなり窓ガラスぶっ壊す奴があるか!?」

「ええぇ!? でもぉ、レンくんが勝手に部屋の鍵を増やすからこういうことになるんだよ? 前は二人一緒にベッドに寝てくれたのにぃ。――お姉ちゃん、ちょっと悲しいです」

「それ、子どもの頃の話な! そもそもあんたが俺の姉だからこそだろ! こんなことばっかりするから、余計評判が悪くなんだろ! 朝のごみ出しする度に、近所のおばちゃんに変な目で見られるんだよ!」

 レンの実の姉。

 そして、今となってはたった一人の家族。

 マリア・コンタクス。

 両親がいた頃はまだ自重していた気がするが、いなくなってからは愛情表現に加減というものがなくなってしまった。

 髪の毛はさらさらで、枝毛は一つもない。

 瞳はダイヤモンドのように輝き、鼻は小ぶり。

 口元は口紅を塗っていないのに、綺麗なピンク色をしている。

 ちょっと子どもっぽくて甘えんぼうのくせに、膨らんでいる胸はしっかり高校生らしい。というより、平均値より高いはずだ、多分。

 それに、四肢は華奢だが、細すぎるわけではない。

 頭の上から下まで、完璧すぎる綺麗な女性という感じ。

 だけど、あまりにも愛が重すぎるのだ。

「……ねえ、前々から思ってたんだけどぉ」

「どうした?」

 マリアは小首を可愛らしく傾げる。


「どうして、寝ている時もその眼帯つけてるの?」


 マリアは瞳孔を怖いくらいに開ききる。

「…………っ」

 何故か、背筋が凍りつく。

 失われた左眼について、マリアが知っているはずがない。なのに、この極寒の地に裸で放り出されたかのような怖気はなんだ。

「一ヶ月前からずっとつけてるよねぇ。……お風呂に入っている時ですら」

 なんで風呂に入っている時も知っているんだ。のぞきなのか。のぞいているのか!? ……とか、そんな疑問を口に出せる雰囲気ではない。

「……前も言っただろ。怪我しているんだよ」

「だったら、包帯とかした方がいいんじゃないの? ねえ、その左眼……どうなっているの?」

 まずい。

 左眼の力を知られてはいけない。

 マリアを巻き込むことになる。

 それだけは避けなければならない。だから、


「おねーちゃん、今日は一緒のベッドで寝よう」


 これしかなかった。

 これが、ない頭を振り絞った起死回生の一撃だ。

「え…………?」

 マリアは言葉を失ったように、あわあわと口を開閉させる。

「ほん――とうに?」

「ああ」

 ぶわっ、と決壊したダムみたいに、瞳から大量の涙がこぼれる。

「うわっ、泣くな――」

「ほんとうに!? ほんとうに!? ほんとうに!? 一緒のベッドで、一緒の掛布団かぶって、一緒に一夜を過ごしてくれるの!? どさくさに紛れて頬ずりしたり、足をからめたりしたりしてもいいの!?」

 ……あ、失敗した。

 と、悟っても後の祭り。毒を食らわば皿までだ。

「……ああ、許す」

「うんっ! やった、やったああああああああああああ! ようやく、レンくんの反抗期が終わったよおおおおおおおお! 今日の夜はずっと、ずぅうううううううと一緒だねっっっ!!」

「……最悪だ……」

 自分のまいた種とはいえ、やれやれだ。



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