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円卓会議

 その後、魔王は幹部たちを収集して会議を開いた。円卓に顔を合わせる者は皆、魔界の選りすぐりの戦士たちであり、魔王の忠実な下部であり、同時に良い飲み友達でもあった。

「人間どもめ、どうにかしてちょっと嫌な気分にさせたい……」

「わたくしめに良い考えがあります」

 そう言ったのは、六天魔サークルの一人であるムジュナだ。彼はこれまでに自転車のサドルを数万個盗んだことがあるという恐るべき経歴を持つ。

「言ってみよ」

「はい、その人間どものいる村の自転車、そのサドルを」

「自転車のサドルはもう良い」

 魔王はムジュナの言葉を遮るようにして言い放つ。

「あれ、処分するの大変だったんだから」

「ごめん……」

「他に意見のある者はないか」

 その中でスッと手を挙げた者がいる。

「おお、チャチャか、言ってみよ」

 その名はチャルチャン。この城に努めて間もないただのバイトであるが、半年間不眠不休で働き続けられるという恐るべき戦士である。

「はい、このタイミングでなんですが、そろそろ寝たいんです……」

「寝れば?」

「やったぁ……」

「他に意見あるやつ」

「はい」

 次に名乗りを上げたのは、天才学者(自称)のグリューである。

「言ってみよ」

「はい、人間どもの村に疫病を散布するのです」

「疫病とな?」

「ええ、今私が開発中の病原菌なんですがね、この菌を吸うと三日三晩高い熱が出て、辛いです」

「それ本当に辛いやつじゃんか」

「ええ、辛いです」

 にんまりと笑うグリューのその醜い顔は、その心の醜さをも浮きだたせているかのようであった。深く刻まれた皺は高めの化粧品でもなければ消すことは難しそうであり、己の存在を主張する様に長く突き出た鼻は魔女のようであった。

「この菌の特徴は『特効薬が無い』ということでしてね、三日間は確実に苦しむことになりますよ……」

 円卓の戦士たちはその言葉を聞いてゴクリと生唾を飲み込んだ。三日間にも及ぶ高い熱、それはきっとインフルエンザくらい辛いに違いない、と。

「その熱の中で、人間どもは後悔するでしょう。魔王様の機嫌を損ねたことを……」

「三日は長すぎないかえ?」

 魔王は静かに言った。

「一日くらいにできる?」

「できます」

「採用」

 果たして、円卓会議は解散となった。出席していた幹部たちは、これから人間たちに起こるであろう恐怖に同情し、改めて魔王の恐ろしさを思い知って身震いした。 

 魔王はただ一人、円卓の席に座ったまま呟く。誰もいなくなった会議室にやや心細さを感じながらも、己の導き出した結論に満足を感じているのだ。

「人間ども、覚悟しておけ」


 一日だけ熱が出る病原菌は、翌日速やかに散布された。


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