事の発端
世界の果てに、魔王の城――「ぽんた城」はあった。
穏やかなパステルカラーに彩られ、やや丸みを帯びた外観はまるでおとぎ話に出てくるようなファンタジックでふわふわとしたお城そのものであった。
そんな「ぽんた城」に叫び声が響いたのは、太陽が西の地平線に顔を隠しかけた夕刻の時である。
「オジキぃぃぃ!!」
魔王の間――「ぱふぱふの間」に怒鳴り込んできたその人物はすでに涙を流しており、赤く腫れあがった目元も相まってその形相は悪鬼のごとき有様であった。
「どうした、我が息子よ」
そう答えたのは魔王である。ぱふぱふの間でぱふぱふしていたところを邪魔されてやや機嫌を悪くしかけたが、涙を流す愛しき息子――タチャンカのその様子に尋常でない雰囲気を感じ取り、それどころではなくなった。
「それがようオジキぃ!」
タチャンカは語りだす。
「俺、人間の友達ができたって言ったじゃんかぁ!」
「言ってたね」
まだ記憶も新しい、確かに最近、タチャンカがそんなことを言っていた。最寄りの村で人間の友達が大勢できたんだ、と。
これまで人間と仲良くするなんてことはなかったから、初めて人間の友達ができたのは彼にとってかなり嬉しいことだったに違いない。
「しかしそれがどうした」
「聞いてくれよぅ」
タチャンカは語りだす。
「あいつら、俺が泳げないの知ってるくせに『今度海に行こう』とか抜かしやがるんだ!」
「ぎゃにぃーー!?」
「それに俺が肉アレルギーなの知ってるくせに『そこでバーベキューしよう』とか言うんだよ!」
「くそがあぁぁ!!」
魔王は怒り狂って立ち上がった。最愛の息子を泣かせるなんて、親として黙ってられん。
「人間どもめ、目にものを見せてやる」