ことのはじまり
今日はクリスマス。
うち、水無瀬悠にとっては特になんにもない。
いつも通りゲーマー友達の塚原翔太と公園のベンチでゲームをしていた。
「帰る時間だべー塚原はん」
「分かってる。行くか」
ゲーム機を鞄に戻して公園を出る。
うちは今から塾、商店街の先の信号を渡って真っ直ぐ。
塚原は信号を渡って左に曲がって家に向かう。
そこでお別れ。
特に話すこともなく商店街を抜け、信号が変わるのを待つ。
「付き合ってください」
突然、そう言う声が聞こえた。
それは確実に塚原の声。
周りにうち以外の知り合いらしき人はいない。
「どこに?」
うちに聞いたと判断して二十センチ以上背の高い塚原を見上げて聞く。
塚原は目を丸くして、大きなため息をついた。
意味が分からん。
「どこにとかそういうことじゃなくて······」
どこにとかじゃない付き合う······
うちが言われるとは思っていなかった。
「意味分からんし。うちなん?」
「うん」
学校でイケメンと言われモテる塚原が、ただのゲーマーのうちに。
言いたいことは分かったけど。
なんか恥ずかしいのと意味わかんないのとで顔を手で覆った。
「返事は?」
指の隙間から塚原の顔を見てみる。
フラれるとは思ってないらしい。
信号が変わる。
絶対に顔が赤くなってる。
塚原を無視して先に横断歩道を渡り始めた。
「誰がするかバーカ!」
素直に答えられないまま進む。
「うー······あー······」
わけのわからない声だけをあげてる。
ちゃんと答えないと。
恥ずかしいけど言わないと。
そう思ってる時に頭に重みを感じた。
上を見てみる。
塚原がうちの頭を撫でていた。
「無理しなくていーよ。でも嫌なら言って? 今まで通り友達でいるから」
「············やじゃない」
すごくすごく小さな声で言った。
言うというよりもむしろ呟いただけ。
聞こえてないと思う。
もう一度ちゃんとしっかり言おうと塚原を見上げると、塚原は目を丸くして口を手で押さえていた。
「ありがとう。めっちゃ嬉しい」
少し暗くなった冬空に星が見える。
いつも以上に輝いて見えた。




