表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

最終話「エイプリルフールを越えし者」

 いつの間にか眠っていて、朝の陽ざしに目を覚ます。

 目の前には、俺を見つめるヤングールだったものが居た。

 左耳をごっそり持って行かれた痕跡を残し、しかしその顔には火傷ひとつ残っていなかった。

 未だ血に固まっている白い髪、綺麗な空色の瞳、猫の耳を持つそれは、もしかしたらグールじゃなかったのかもしれない。


 俺は思う――




「日付変わってるううう!?」




 おかしい、おかしいぞ。

 もうエイプリルフールは終わったはずだ。

 なんだ、何が起きている。

 いや、何も起きなかった。

 なんで何も起きなかった。


「おいヤングール!」

「はひっ!」

「今日は何月何日だ!」

「わかりません……」

「お馬鹿さんめ! あとで俺がみっちり教えてやるから覚悟しておけ!」


 違う、何お兄ちゃんぶっているんだ俺は。

 おかしい、おかしいぞ。

 今日はもうエイプリルフールではないのだ、俺はエイプリルフールでしか力を発揮出来ない男、いわばエイプリルフールの申し子。

 何故未だにVR空間に居るんだ。


「おいヤングール……」

「なんでしょうご主人様」

「此処は……は、なんて、ご主人様?」


 やはりグールだったのか。

 ヤングールは日光で頭がやられてしまった様だ。

 せっかく傷も完治して助かったのに、頭をやられてしまうとは可哀想に。


「私は奴隷商にすら捨てられた身です」

「そ、そう」


 この世界の奴隷商人はグールを買い付けるらしい、末恐ろしい世界だ。

 いわゆる魔物使いとか死霊使いとかに売るのだろうか。


「ご主人様は私を治療してくれました!」

「なんでそれでご主人様になるんだよ」

「お願いします、私を貰ってください!」

「うわ寄るなグール」


「その、何でグールなんですか?」

「お前グールだろ」

「私は獣人ですよ。確かに酷い火傷を負ってましたけど……」


 そう言われてみると、何だか猫っぽいような。

 そうやって見るとちっこくて可愛いな、こう、撫でまわしたくなる。




「おお~よしよしよし」

「ふにゃあぁ……」


 いいなこれ、可愛いな。

 この耳の裏とか、いいな。

 血で汚れてなければもっと気持ち良いんだろうな。

 顎とかも撫でまわしたくなる。

 ああ、顔に毛が生えていない、これが獣人か。


「なあ、ヤングール」

「ふにゃあぁ……私はミコでしゅうぅ……」

「そう、ミコ。此処ってあれか、やっぱり魔法とかあるのか」

「ありましゅよぉ……」

「剣と魔法の世界……、マジで取り残されたって事か」


 どうしよう。

 俺はもう、エイプリルフールトランス状態が抜けてしまった。

 エイプリルフールトランスの無い俺はただの学生。

 一気に頭が冷えた。


 思えばあのゴブリン戦、あそこでゴブリンではなく俺が死んでいた可能性もあった訳だ。

 おそらくきっと、VRでも何でもない、ここは現実、ガチの異世界。

 実際の所はわからないが、少なくともそう思って動かないと、死んでしまうかもしれない。


 それは嫌だ。

 しかし俺にはスキル譲渡しかない。

 職業も村人、多分最弱。

 どうやって生き残ろう。




「ミコ、お前グールじゃないんならそもそも人間喰わないよな」

「そうでしゅねぇ……」

「じゃあ俺から別の約束……じゃないな、お願い聞いてくれるか」

「もっちろんでぇ……しゅ……」


「俺と一緒に冒険者やらないか」

「いいでしゅよぉ……はっ!? という事はご主人様になってくださるという事ですね」

「もういいや好きに呼べよ。そんな事より、俺はめちゃくちゃ弱い、それでもいいか」

「はい!」




 俺は生きていく、この剣も魔法もある世界で。




 たったひとつの武器、スキル譲渡を使って。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ