第5話「グール」
「うおおお!」
俺は自分を鼓舞するかの如く叫んだ。
ボロボロの短剣を握り締め、地を踏みしめ、前進する。
幽霊じゃなければ攻撃は通じる、俺は負ける訳にはいかないのだ!
エイプリルフールよ、俺に力を!
「うえぇ……」
「なにこれグール?」
俺は踏みとどまった。
目の前に居るグール。
なんとも子供のようなグールだ。
涙を流し、身を抱いて、横になって苦しんでいる。
俺は困惑した。
このVRは、エイプリルフールは俺に何を求めているんだと。
この子供グール、ヤングールは、それはもう苦しそうな表情をしている。
真っ白な髪は血で塗れ、乾いて固まってしまっている。
猫のような耳をしているが、左耳が無い。
顔面の左半分がヤングールらしく腐食……よく見れば焼け爛れている?
左耳ごと焼き切れたのだろうか、きっと日光にやられたに違いない。
貫頭衣を着ているが、きっとその服の下、体も焼かれたのだろう。
「おい、ヤングール」
「ううぅ……」
「お前人間喰った事あるか?」
「え……」
「どうなんだ」
「ない……ないよぅ……」
どうやらヤングールは人肉大好きっ子ではないらしい。
ともすればこのヤングールこそが第一街人で、これはイベント。
そしてこれを無事に完了した時「今日はエイプリルフール、全部うっそでーす」と来る流れかもしれない。
だとすれば、だとしなくとも、俺はこのヤングールを助けてやろうと考えている。
「おい、ヤングール」
「うぅ……」
「助けてやる代わりに俺と約束しろ」
「うん……たすけて……」
「人間喰わないって約束出来るか?」
「うん……うん……」
よし、助けよう。
いくらヤングールとはいえ生物だ、いや、生物なのか?
まぁいい、苦しんでいるのだ、ならば俺は助ける。
助けられる力があるのだから。
俺は右手をヤングールにかざした。
今の俺ならきっと出来るはずだ。
「スキル譲渡」
視界に浮かぶ、スキル一覧。
自然治癒しかないけど、これで十分。
きっと回復してくれるはずだ。
アンデット特性で反転してダメージ受けるとかだったらどうしようもないが。
それから、ヤングールはしばらく苦しんでいた。
しかし数分して、とろんとした顔で眠り始めた。
きっとこれまで痛みで眠れなかったのだろう。
俺は再び城壁に身を預けて、日付が変わるのを待った。