第4話「第一街人発見」
来た、ついに来たぞこの時が。
俺の無様な疾走と、ゴブリンとの熱い戦い、嘔吐、そして訪れる第一街人との邂逅。
俺のエイプリルフールが今、完成する!
「こんばんは!」
俺は街の入り口の守衛に声をかけた。
守衛は鎧を着ている、本物の鎧なんて初めて見た、凄いエイプリルフールっぷりだ。
ジャンルは剣と魔法の世界、守衛の顔はアメリカンだ、強そうだぜ。
「身分証を」
「え?」
街へ入るには身分証が必要なのか。
身分証……身分証……。
おっ、あったあった。
良かった、財布を上着に突っ込んだままで、俺のものぐさがまさかエイプリルフールの役に立つとは思わなかった。
しかし凄いVR空間だな、俺の財布まで再現するとは。
俺は財布から学生証を取り出して、守衛に渡した。
「どうぞ」
「おう……って、なんだこりゃ」
「学生証です」
「ガクセイショオー?」
あれ、ダメなのか。
「お前どっから来たんだ?」
「群馬です」
「グンマー?」
「……」
そうだった、此処日本じゃないんだ、ジャンルは剣と魔法の世界。
どうする、どうするよ。
そういえば未だに「今日はエイプリルフール、全部うっそでーす」が来ないな。
もしや今日の日付変更と同時にエイプリルフールを知らせるニクい演出か。
此処の事何も知らないし、どうせ今日限りだ、とりあえず記憶喪失の振りでもしておこう。
「あの守衛さん、俺記憶が無いんですよ」
「記憶が?」
「なんかゴブリンに襲われて、ほら、服も汚れまくってますよね。いやマジ死ぬかと思いました」
「まあ……、そうだな。名前も忘れちまったのか?」
名前か、そういえばキャラ作成の時に入力欄がなかったな。
本名名乗ってもいいけど、此処だと浮きそうだな……。
今日限りだし、エイプリルフールだし。
「フール・エイプリルです!」
「そうか、フールか」
「それで、どうでしょう、良いエイプリルフールでしたか?」
「え、なに?」
おっといけない、ついエイプリルフールを口に出してしまった。
これは仕掛け人のみが使える魔法の言葉。
ターゲットは気付かない振り、俺が使ってはいけないのだ。
これはエイプリルフール界の暗黙の了解である。
「しかし参ったな、記憶喪失で身分証もないか」
「参ったなこりゃハハハ」
「お前、自分の事だぞ、もうちょっと危機感持て」
「すいません。それで、どうしましょうか」
守衛は腕を組み、しばらく考え込んだ。
早く街に入りたい。
入って宿を取って、日付変更と同時にぶったまげるのだ。
このドキドキ感、まさにエイプリルフールだ。
「じゃあ冒険者ギルドにでも登録して来い。というかそれしかないな」
「了解!」
守衛は溜め息を漏らした。
俺のこの完璧な返事に、守衛もたじたじの様子だ。
しかし冒険者ギルドとは、まさにファンタジー。
きっとゴブリンを倒して金稼ぎとか出来るのだろう。
「ところで冒険者ギルドって何処です?」
「はあ」
俺は守衛と共に冒険者ギルドへ向かった。
街並みは中世と言えばいいのだろうか、エイプリルフールとわかっていても、これはワクワクしてしまうな。
辿り着いた冒険者ギルドは木造の大きな建物だ。
これは凄い、雰囲気出てる。
荒くれがたむろっていそうだ。
早速入ると、むわりと酒の匂いが鼻につく。
VR技術とは末恐ろしいものだ。
俺は感慨深い思いを抱きながら、受付の女性の下へ向かった。
「登録したいのですが」
「はい、こちらに記入してくださいね」
まずは名前を書いて……って、これ何語だよ。
全くわからんぞ、口語が日本語なんだから、文字も日本語で共通にしておけよ。
「あの、すいません……」
「代筆しましょうか?」
「お願いします……」
俺は恥ずかしかった。
おのれエイプリルフール、俺を恥ずかしがらせるとはやはり今年のエイプリルフールは強敵だ。
「お名前を」
「フール・エイプリルです」
「年齢は」
「16歳です」
つらつらと書いていく受付嬢。
文字を書けるって凄い事なんだな。
受付嬢が天使に見えるぜ。
「それではこちらに手をかざしてください」
そう言って水晶玉を出してきた。
綺麗な水晶玉だな、何が始まるんだ。
手をかざすと、やんわりと水晶玉が光った。
そういえば腕に受けた傷、いつの間にか治っているな。
さすがはVRだ。
しばらくして離すと、それでもう登録完了らしい。
よくわからないが超技術なんだろう。
「それではまた明日来てくださいね」
「え?」
「ギルドカードの発行に時間が掛かりますので」
「そうですか」
なんてこったい。
身分が無いままエイプリルフールを終えるのか、冒険者ギルドに来た意味ないな。
この虚しさ、まさにエイプリルフール。
「守衛さん、手続き終わりました」
「そうか、良かったな。じゃあ俺はもう行くぞ」
「はい、ありがとうございました」
そういえば日本円とか使えないだろうな、文無しかよ。
ひっでえなこりゃ。
今年のエイプリルフールは街角野宿か、これもオツかもしれない。
いや、全然情緒とかないが。
今日がエイプリルフールじゃなければ大変な事になっていただろうな。
日が暮れていく。
俺はふらふらと街を歩き、まさに街角、城壁にもたれ掛かって座り込んだ。
薄暗い闇に染まっていく。
もう夜だ、早くエイプリルフールと言ってくれ。
日付変更を待っていて、しかし俺はうとうとと意識を投げかけていた。
「うぅ……う……」
声がする。
幼い子供のような呻き声。
嫌だな、こう、幽霊とか苦手なんだよ俺。
「誰だ」
「いたい……いたいよ……」
えええ!
なにこれやだー!
マジモンの怨霊の類じゃねえか。
俺はビクビクしながら頭を上げた。
前方良し。
左舷良し。
右舷……
「うおおっ!」
見えた、見えてしまった。
暗闇の中、蠢くもの。
あれは幽霊とかゴーストとかそんな甘っちょろいもんじゃない、グールだ。
これはやばい、俺は今、出会ってはいけない存在と出会ってしまった。
ここでゲームオーバーなのか、そんなのは嫌だ。
俺はエイプリルフールが大好きなんだ。
この一日を生き抜きたい。
「たすけて……たすけて……」
なんて恐ろしい、今日がエイプリルフールでなければ俺は失神していただろう。
いいだろう、これがエイプリルフール最後の試練という事か。
落ち着け俺、ボス戦の前はまずステータス確認だ、出来る事を確認するんだ。
レベル 2
職業 村人
筋力 15
体力 15
魔力 10
精神 10
敏捷 10
スキル:スキル譲渡 自然治癒
スキルが増えている、自然治癒?
もしかして腕の傷が消えたのはこれのおかげか。
よくわからないがスキルを後天的に取得できた。
このボス戦を乗り越え、俺はエイプリルフールの覇者となる!
「行くぜ、かかってこいグール!」