第1話「世界に立つ馬鹿」
眩しい、凄く眩しい。
どうやら至高のエイプリルフールに触れて失神してしまっていたようだ。
なんて恐ろしいエイプリルフールだ。
「んん……」
何やら頬を撫でるものを感じて薄っすらと目を開けてみると、太陽があった。
頬を撫でたのは風……俺は外に居るのか?
何で、何が起きた。
「これがエイプリルフールの力なのか……?」
今年のエイプリルフールやばい。
歴代最強だ。
辺りを見渡すと、建物のひとつもない、近年まれに……いや、見た事のない程の立派な草原だった。
日本にこんな所があったのか。
ザ・草原。
いや、そんな事を考えている場合ではない。
これは凄いぞ。
突然レポーターが出てきて「実はVRテスト風エイプリルフールでした」なんて言われた日には、俺はもう昇天してしまうかもしれない。
恐らくきっと、眠らされて草原に移動させられたんだ、凄過ぎる。
「生きてて良かった」
だが俺のエイプリルフールはここからだ!
今日という日が終わるまで、俺のエイプリルフールは終わらない。
正午で終わりとか知った事ではない、俺のエイプリルフールはまだ始まったばかりだ!
「行くぜ、かかってこいゴブリン!」
出てこない。
そりゃそうだ、所詮はただの草原。
「……」
どうしよう。
この……何。
俺、何すればいいの。
剣と魔法の世界、俺のオンリーワンの「スキル譲渡」。
ここから導き出される答え。
「スキル譲渡!」
知ってた。
何も起きないって、知ってた。
でも俺を此処に連れて来た、何処かで見ている誰かが、今のエイプリルフールで喜んでくれたはずだ。
踊る、踊らされるぞ俺は!
エイプリルフールのために、全力で馬鹿をやる!
俺の選択したエイプリルフールジャンルは剣と魔法。
剣と魔法の世界といえば、村や町での定型文によるイベント。
つまり俺が今取るべきは、村人との会話。
そこで訪れる「今日はエイプリルフール、全部うっそでーす」の感動の知らせ。
そこで俺は見事に崩れ落ち、こう言うのだ「マジビビリましたよ~勘弁してくださいよ~」
この迫真の演技で、全てのエイプリルフールを過去にする。
「待ってろ、第一村人!」
俺は駆けだした。
この草原を、それはもう焦った風に駆ける。
時に躓き、時に倒れ、あえて全身を汚しながら走る。
異世界に飛ばされたと思い込んだ俺が必死に人を探しているシーンの演出だ。
これがお茶の間に流れたら、俺は一躍大スター。
エイプリルフール男として、世界に羽ばたく。
電子の海では俺の映像がサーフィンする。
俺は今まさに人生の岐路に立たされている。
ここでミスればエイプリルフールは俺に微笑まない。
だから走る、走る!
「はあ……はあ……」
やべえよこれ何処まで草原続いてるんだよ。
演技じゃなくてマジでぶっ倒れそうなんですけど。
どうしよう、せめて誰か、誰かに会わないとエイプリルフールが完成しない。
「ギギッ……」
何か横合いから、右の方から声が聞こえて、そっちを見たら、森の中より俺を見つめながら出てくる小さいおじさんが居た。
やたらでかい鼻、緑の体、汚い腰布。
右手には刃こぼれの酷い剣。
「すげえ……」
これがエイプリルフールの本気。
こんな特殊メイクまで施して、凄過ぎるだろ。
ここまでやられちゃあ、俺も乗らない訳にはいかない。
中途半端な演技なんてしない、一世一台の大立ち回りだ!
「行くぜ、かかってこいゴブリン!」




