プロローグ
どうも、はじめまして。こんにちは、こんばんは、おはよう。
早速でなんだが、僕は君に伝えておく。僕は、一般的には殺人鬼と呼称されるものだ。今も僕が殺した人のニュースがじゃんじゃん流れている。それについては、別にこれ以上は書かない。
理由? ――だって、あんまり興味ないだろ。だからいいんだよ。
で、話を戻そう。殺人鬼と呼ばれる僕にも本名はある。もちろんある。戦場 刃というカッチョイイ名前がね。…失礼、そこまで僕は思ったりしたことは一度もない。ないよ、ないったらないんだ。
そんな僕だが、一応普通に生活している。朝起きて、食べて、身支度して、学校行って、帰りにバイトして、帰宅して、色々して、寝る。ここで注目する点は、色々の部分だ。色々は、本当に色々だ。食事だったり、勉強だったり、娯楽だったり、殺人…だったりね。
つまり、ぼくは生活の一部として殺人をしている。そんな……と絶望する人もいるかいないかは定かではないが、これが現実だ。いや、もっと正確に云うのならば…。
わかりやすく、例を出そう。
たとえば、君は呼吸をしている。必要なことだ、しないと君は死んでしまう。
たとえば、君は食事をする。必要なことだ、しないと君は死んでしまう。
たとえば、僕は人を殺す。必要なことだ、しないと僕は僕を殺してしまう。
…こんなかんじだが納得していただけただろうか? なに、無理?
じゃあ、すまないがこれだけは必要不可欠だってことを認めてくれないかな? そうしてくれないと話が進まないしね。……よし、納得してくれたかな? で、なんだったけ? そうそう、殺人が生活の一部との話だ。
人間には三大欲求というものがあるのをご存じだろうか? 食欲、睡眠欲、性欲。ほかにも『欲』と称されるものはこまごまとあるが、そこはいったん置いておく。これに、もうひとつ僕の場合加わる。―――殺人欲だ。
とりあえず、殺したい。抑えられるというよりは、これは我慢の領域だ。さすがに自分にも社会の立場というものあるし、―――嘘だよ。あまり気にしてはいない。だから、殺そうと思えば、殺すし、ね。現に僕は毎日一人ずつ殺している、老若男女問わず。
一日に、最低でも一人殺さないと気分が悪いというより、身体の中で衝動が猛狂っちゃうのかな。で、それがずーーっと続くと身体の底から、心の底から、僕自身が殺したいと思うようになる。過去に一度だけ経験したけど、あれは二度と味わいたくないな。もう本当に、いっそのこと狂ってしまえば楽だったのかもしれないね。
昔話はこのくらいにしておこう。きみもそろそろ飽きてきたころだろうしね。結局のところ、というか、僕が言いたいことはただ一つ。こればっかりは外せない。
さぁ、とくとご聞きあれ。
「僕は、殺人鬼。人の形をした鬼。人を殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して殺して殺して殺して、心の底から。僕は、君を殺したい」
ぐちゃぁ。
右足をあげると、靴底からこんな音がした。その下には原型さえも見当たらないほどに、踏みつぶされた、人間のようでだったものがあった。いまじゃすっかり血の海で、もうよくはわからない。
仕方なくとっとと帰ろうとくるりと踵をかえし、その場を離れていく。が、一度だけ振り返り手を振りながら笑顔で告げた。
「殺さしてくれて、ありがとさん」
殺人鬼としては異常で、異端で、ずれている殺人鬼。殺人鬼、戦場刃。まだ大して名は売れていなく、怖がられてもいなく、今後とも恐れられている殺人鬼ではまだなかった。
兄弟も、家族も、友達も、知人も、自分に関係あるものすべてが変わってしまうだなんて、この時の彼には、考えられざるものだった。




