また明日。
「あの、すみません。突然話しかけちゃって……」
そう頭を下げると彼女はかぶりを振った。
「別に……よくあるから、平気」
今、俺たちは病院の中庭のベンチに座っている。
まぁ座っているのは彼女だけなんだが。
どうしてこうなったかというと、俺自身よくわかっていない。
簡単に言えば、突然話しかけてきた俺を不審に思った彼女は逃げ出した。絶対誤解されたと思い、必死に追いかけ説明し、やっと誤解を解いて今に至るわけだ。
うん。自分もわかってないから、説明が説明になってないな。
「で、何の用だったの?」
顔を上げた彼女は先ほどよりも不審がっている様子はない。
あれ?そういえばなんで話しかけたんだっけ?
「え、いや…ううん。なんだっけ?」
素でそう答えると彼女はポカンと口を開けてしまった。
「何を話すか決めてないのに話しかけたの?」
くすくす、と笑われてしまった。
恥ずかしくなって視線をそらしていると、彼女が手を差し出してきた。
「なんかの、運命かもね?私、真城紫音」
不意打ちを食らい、面食らっていると彼女は俺の手を握った。
「あ……えと、俺は篠崎竜優、です」
たどたどしく自己紹介すると、彼女、真城紫音はぶんぶんと手を振った。
「よろしく」
余り表情は変わらなく真顔に近いがそれでも顔には優しさが含まれていた。
「それで、竜優はなんで私のこと、追いかけてたの?」
もう片方の手に握っていたココアを一口飲むとそう聞いてきた。
「なんで、って……ううん、なんでだろう」
まるで体が操られるように紫音を追いかけて居たのだから。
「本当に……運命なのかもね」
中庭にある大きな池を眺めながら紫音はぼそっとつぶやいた。さっきは冗談かと思ったけど、冗談には聞こえないくらい、紫音には真剣さがあった。
「じゃあ、私これから用事あるから…」
ココアを飲み干した紫音は立ち上がるとそういった。
そうか、これでもう彼女と話すのもおわりか、そう思うとなぜだか悲しく苦しい感情が込み上げて全身を襲った。道に迷った時の不安に似た感情。
「あ、のさ。また明日も会えないかな?」
そういうと紫音は初めに話しかけた時よりもずっと俺を不審な目で見た。そんな視線に耐えきれず、
「う、ウソだよ!ごめん、じゃあ……」
そういい逃げるように走った。
―だけど―
「竜優!」
紫音の声は中庭によく響いた。大きな声を出すなんて以外でさっきの羞恥心なんか気にも留めず、俺は振り返っていた。
「明日、ここで待ってる」
口元に僅かながら笑みを浮かべて紫音はそういった。そのまま紫音は踵を返すと歩き出してしまった。
俺はというと、今の紫音の笑顔――といえるのか?――に心を打たれて、激しく波打つ心臓をなだめさせるのでいっぱいいっぱいだった。
そして我に返ると、もう消えてしまった紫音の後姿に
「うん、また明日」
とつぶやき、俺も歩き出した。




