黒い影
・紫音の過去の出来事の中で人が死ぬという描写があります。
できるだけ細かくは書きませんが、苦手な方はそれを理解したうえ読んでください。
(ちなみに、惨殺とかではなく、あくまで病死です)
・駄文で読みづらいかもしれません。
・唐突にやめるかもしれません。
それは病気で倒れた父親の見舞いに行った時の事だった。
エレベーター待ちをしていた俺の視界に入ったのは黒い影だった。
反射的にそちらを向くがもう居ない。
胸の奥にざわつきを感じながらエレベーターに仕方なく乗り込んだ。
チーン、と音をたてて止まったエレベーターはやけにゆっくりと開いた。
伏せていた目を上げて扉が開くのを眺めていた。
―そして―
息をのんだ。
開き切った扉の先、そこにあの黒い影が揺らめいていたのだから。
扉が閉まりかけたので、素早く降りると走り出した。
今度こそは見失わないように、黒い影を追った。
そして黒い影は一つの病室に入って行った。
そっと中をのぞくとその影は消えてしまっていた。
顔を引っ込めると扉のすぐ横の壁に背を預けて、息を吐いた。
なんだったんだ、あれは。
すると、病室から一人の少女が出てきた。
彼女は俺と反対の方向に歩き始めた。
そこで気が付いた。
さっきのは黒い影なんかじゃない、彼女の後姿だ……。
「あのっ……」
咄嗟に声をかけてしまっていた。
ゆっくり振り返った彼女は泣いていた。
「え……?」
その言葉は彼女の口からもこぼれていた。
それが俺たちの出会いだった。