SS(卒業)
桜の木がつぼみを付け始め、外の温度が『寒い』から『暖かい』になる頃。俺は自分の教室から窓の外、登校してくる生徒を眺めていた。一人で歩く生徒、友達や恋人と歩いている生徒、誰と歩くかなんて人それぞれだ。
生徒に紛れて、普段は無いはずのものが目に入ってきた。白い看板。それは大きく、3メートルほどある。俺も登校する時に見てきた。そして、それにはこう書いてある。卒業式、と。
集合時間も過ぎ、全員席に着いた。胸には昇降口でもらった花が付いている。ちなみにこの学校の卒業式、入場はない。来た生徒から勝手に講堂に入って座っていく。なので、席に着いたといっても教室ではなく講堂の自分の席、というわけだ。ちなみにさっき俺が教室にいたのは忘れ物を取りに行ったためだ。
式はスムーズに進む中、隣に座ってる女子生徒が何か俺の方をちらちらと見てくる。見てくるだけなので別にどうってことはないのだが、気になる。だが式の途中、しゃべるわけにもいかない。式が終わったら話してみることにしよう。少し邪魔に感じるが、我慢だ。
それからも特に問題もなく、式は終わった。これからてきとうな教室で記念品などを配ることになっている。学級代表以外卒業証書をもらってないので、それもここで貰うことになっている。担任が教卓に立ち、生徒を出席番号順呼んでいる。呼ばれた生徒から前に出て、卒業証書と人によっては記念品を貰うみたいだ。どうやら成績表貰うみたいで、受け取った生徒は友達同士で見せあいをしてる。なんて周りを見てると、さっきの女子生徒が隣に座っていることに気が付いた。さっきの視線について聞いてみようと思ったところで俺の名前が呼ばれた。戻ってきたら聞いてみようと思ったが、戻ってみると友達や周りの女子が成績について聞いてきた。てきとうに流したが、その女子生徒も友達の方へ行っていたので聞くに聞けない。仕方なく席に座り、友達と話していると、「席に座れ」という声が聞こえてきた。どうやら全員配り終わったようで、みんな席に戻る。
ふと机の中に手を入れてみると何かに触れた。気になって出してみると、女子が好きそうなデザインの手紙だった。差出人は書かれていない。中に名前が書かれてるかもしれない。ここは下級生の教室だ。たとえラブレターだったとしても俺は今日で卒業。見なかったことにすればいいだけ。先生に説明すればきっとその生徒の手元に帰るだろう。そう思い思い切って開けてみた。もちろん、周りには見えないように。中の紙も外の封筒と同じデザインで可愛らしいものだった。パッと見た感じでは名前は書かれていない。それでは差出人ではなく、受け取り側の人間でもわからないかと思い手紙を読んでみることにする。
『あなたのことが好きです。卒業しても離れたくないです、付き合ってください。あなたの隣に座ってます』
と書かれてある、ふと隣を見てみると一瞬目があって、彼女の方が目をそらした。とりあえず手紙に視線を戻すと、まだ続きが書かれてあった。
『HRが終わり次第、中庭に来てください』
そこで俺の返事を聞くつもりなのだろう。
でも俺は、このHRが終わり次第海外へ発つ。式を見に来ていた親の車で空港まで行って、そこからアメリカへ留学する予定だ。大学は向こうだし、4年後に戻ってくるかどうかもわからない。
内ポケットからペンを一本取り出し、手紙の裏に手紙に対する返事を書く。書き終わると便箋に戻した。
戻すとちょうどHRが終わり、最後の礼をするところだった。ペンをポケットに直し、立ち上がる。礼をすると隣に座っていた彼女が俺に話しかけようとしてきたが先ほどもらった便箋を彼女に渡し、俺は教室を出た。
彼女は悲しんでいるだろうか、それとも、卒業ということでダメ元で告白したのだろうか。どちらでも同じだ、俺はその意思に答えなかったのだから。
暖かくなってきたはずの日本の風が、やけに冷たく感じた。
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