嬉野三田彦は完結する
終わり良ければ全て良し。
僕はそれだけに縋って生きてきた。汚い思い出と汚い現在から解き放たれれば、全てが完結する。
学校で傷つけられることも学校で圧迫されることも学校で晒し者になることも学校で生贄になることも、全て完結する。
嬉野三田彦が完結する。
深夜、僕は家を出た。 暗闇が圧倒する空間。心地よい空間だと僕が感じたのはもう既に準備が出来ているからなのだろう。
暗闇が僕を誘っている。
暗闇に浮かぶように納屋はあった。そこは昔、嬉野家の食料倉庫だった所らしい。今は使われていなかった。
納屋の中は当然闇で、何が何処にあるのか解らなかった。
持ってきた蝋燭に火を灯して棚があるのを確認し、そこに蝋燭を立てた。
そして部屋にあった電気コードを納屋の梁に掛けて大きな輪になるように一方の端ともう一方の端をきつく結んだ。
そして輪の端を摘んで頭が通るくらいに調節して結ぶ。
僕は地面に転がっていた桶を踏み台にした。 踏み台に上がり輪を首に掛ける。
そして僕は台を蹴った。
あ--
--終わる
「き み は 無 に は な れ な い さ」
誰かが囁いた。ユウジンの声に似ていた。
「き み は た だ 止 まる だ け だ。時 計 の 秒 針 が 進 ま な く な る だ け だ よ」
「時 計 は い つ か 動き 出 す。動 か そ うと す る 人 が い る か ぎ り。」
「きみもそうだ。いつか動き出す」
声が明瞭に聞こえた。誰かが僕の額に手を添えた。
「それまで、ゆっくりすれば良い。ボクは居るよ、ここにね」




