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東京ネバーランド  作者: こーへい
第一章 無表情少年の物語
4/12

「ヘブンズゲート」

 放課後になった。

 ハタとは校門で別れ、翼とは駅で別れ……今は家へ向かってとぼとぼ歩いてる。夕焼けが今日も綺麗だなーなんて、他愛もないこと考えたりして。しかし暑いなぁ。5月なのに。

 歩きながらなんとなく携帯を開いて、ブックマークに登録してある”ヘブン”のサイトへ飛ぶ。”ヘブン”とは”ヘブンズゲート”の略で、まあ簡単に言えばよくあるSNSサイトなんだけど。「つぶやき」が主流の昨今のSNSに便乗して設立されたのが見え見えのサイトだ。元祖であるツイッターとつくりは何ら変わりはないけど、それを日本風にアレンジした感じのサイト。利用者は殆どが中高生。俺はその中の一人、なんだけど……正直、ハタに誘われてなければ絶対に入会してない。こういうの苦手だし。

 でも、ハタの「やってみろって! 相手に顔が見えるわけじゃないんだから、気軽に話せるしさぁ」という売り文句に負けた。

 昔からこの無表情でその……色々と不幸というか、誤解を招くことが結構あったから。文面上だけの交流なら、相手にこっちの顔を悟られることもないし。自分にぴったりなんじゃないかと思ったからだ。

 でも、入会しても結局、ヘブンを頻繁に使うことはなかった。最初はちょっとつぶやいたりするだけで楽しかったけど、すぐに飽きちゃったんだよなぁ。やっぱこういうの苦手。向いてないや。あと名前が中二臭いし。直訳して「天国の扉」……誰が名付けたのか知らないけど、センスを疑う。中二病こじらせすぎ。

 しかしハタ曰く、これで利用者は年々増え続けているというのだから、日本中の中高生が中二病なんじゃないかと疑ってしまう。誰もが一度はなるものだとは思うけどさ。俺も昔は……うん、あったよ。まあその話は置いておいて。

 ヘブンは今俺にとって、自分でつぶやいたりせず、ハタや翼のつぶやきを読むだけのサイトになっている。といっても、二人ともそこまでハマってるわけじゃないみたいで、つぶやいた回数はせいぜい一日に二桁いくかいかないかぐらいだ。

 あ、翼つぶやいてる。

 

 『今日は平凡な日だった。答え教えてやったのにポーカーフェイスなあいつにイラつく。以上。』

 

 しまった、そういやあの時答え教えてくれたのにボーッとしてお礼も言ってなかった。ごめん翼。それと無表情なのは仕様なんだよ。仕方ないだろ。

 翼が今日の愚痴を書き残した電子の海に向かってツッコミを入れながら、スムーズにページを下にスクロールしていく。殆ど他愛もない内容のものばかりだ。

 すると、ハタのつぶやきが目に入った。


 「氏にたいお」


 「……………………」うーん。

 なんか、あったのかな。ハタ。死にたい、なんて。まあたぶんハタのことだから、アニメ関係のことだろうなぁ。夢と希望(?)が詰まったパソコンがぶっ壊れたーとか。大好きな深夜アニメの録画に失敗してたーとか。そんな感じの不幸があったんだろう。

 とりあえずハタに向けて「どんまい」とリプライを送っておいた。つぶやくのは随分と久々だ。なんか緊張した。見知った相手なのに。俺は向いてないよこういうの。

 つぶやきが投稿されたのを確認すると、携帯を制服の左ポケットにしまう。愛しの我が家がある住宅地までもう少し。別に家に帰って特別することもないけど、自然と歩調が早まる。

 階段に足をかけたとき、

 

 ブーブーブー。

 

 「お」

 携帯が震えた。電話か、メールか、それともヘブンのリプライか。ヘブンだとしたら、さっきリプライを送ったハタからだろうな、と思いつつ携帯を開く。

 ヘブンだった。差出人はやっぱりハタ。文面に目を通して、頭にクエスチョンマークが浮かぶ。

 

 

 「ありがち」


 

 「ありが……ち?」

 どういう意味だろう。「ありがとう」ならまだしも、「ありがち」って……誰かこの地球上にハタ語を訳せる人いないのかな。俺の翻訳機能じゃ限界があるって。

 とりあえず「また明日なー」とリプライを飛ばしておいた。会話になってない気がするけど、問題無いだろ。うん。

 気を取り直して、家の鍵を取り出し我が家の扉を開ける。母の声が、家中におかえりーを響き渡らせる。そんな大きい声で言わなくても聞こえるよ母さん。

 自分の部屋のベッドに倒れこんで、目をつぶった。今日は疲れた。いろいろと。

 また俺の体の中で睡魔が暴れまわっている。瞼が重い。猛烈に重い。ベッドの柔らかい表面が体に程良くフィットして、ますます睡眠欲をかきたてる。

 「はぁー」

 溜め息を吐いたところで、俺の意識が途切れて。俺の体から力が抜けて、ベッドに深く沈んでいった。



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