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東京ネバーランド  作者: こーへい
第一章 無表情少年の物語
2/12

「ツバキ」

 「……たいくつだー」

 心の中でボソッと呟いてみた。英語の授業が終わるまで290秒。一瞬だけの暇つぶしにはなったけど、またすぐに退屈な時間の渦に巻き込まれる。この残り5分の時間が長い。果てしなく長い。しばらく秒針見続けてみたら、もっと長く感じたのですぐにやめた。

 英語の授業は高校2年生になって担任が変わってからというもの、正直言って退屈だった。1年生のときは宿題も小テストも毎回出て大変っちゃ大変だったけど、個人的に今の……教師が言うことをひたすらプリントに書き写す”作業”のような授業よりは、幾分かマシだったと思う。なんていうか、「宿題沢山あるのは辛いけど、全く無いと先が不安になる」みたいな。ん、自分で言ってて訳分かんなくなってきた。

 要するに、勉強が好きじゃないこの俺が、「もっと課題出した方がいいんじゃ……」とか血迷ったこと思っちゃうようなレベルってことだ。うん、分かり易いな。バカ丸出しだけど。自分で言ってて悲しくなってきた。

 「んじゃ次は……ん。つばきー」

 「……はい」

 まさかの不意打ち。当て、られて、しまった。残り5分で授業が終わるから自分に当てられることなんてまずないだろーとか思って油断してたのが運の尽きか。。いつも通りもの凄く落ち着いた声で返事したけど内心では心臓バックバクだよどうする俺やばいやばい。そもそもどこの問題を当てられたのかも分からないから考えようにもどうしようもない。

 すると、そんな焦っている俺(表情には出てないけど)を見かねてくれてたのか、隣の席の親友から助け舟到来。露骨にしょうがねーなって顔をして、小声で答えを教えてくれた。

 平坦な落ち着いた声で答えを言い、一件落着。

 親友の助けによってここは事無きを得た……けど、休み時間になったら翼にまた説教うけるんだろうなって考えたら、気分はすぐに憂鬱になった。無表情だけど。でも問題間違えて大恥かくよりマシかも。今の、かなり基礎中の基礎って感じの問題っぽかったし。

 もやもやとした晴れない気分のまま時計の針を見たら、授業終了まで残り1分だった。今回の教訓を敢えて言うなら、先生の授業は最後までちゃんと聞こう、だな。先生ごめん。守った試しがないです。




***




 キーンコーンカーンコーン……。校舎に響く心地よい余韻。この音を聴くために生きてるって感じがする……。ごめん嘘。いくらなんでも誇張しすぎ。さてやっと待ちに待った昼休みだ。そして同時にお説教タイムだ。こっちは望んでないんだけど。


 「おい椿。授業ちゃんと聞けやコラ」

 「やなこった」

 「今まで何回助け舟出したと思ってんだー! その度に慌てる顔も見せないでポーカーフェイス面晒しやがってさ」

 「おいおいポーカーフェイスはやめろ。差別発言だぞ。いくら俺でも怒る」

 「何が差別発言なんだか。中学のときから散々言われてることじゃねーか。見咎めるのも今更ってもんだろ?」そう言う翼は呆れた口調だ。

 「それとついでに言うとお前が怒ったところなんて、今までの4年間一度も見たことないっつの。いつも澄ました顔の”ポーカーフェイス”椿幹太。怒ってくれるならどうぞ今すぐ怒ってくれ。お前の顔が般若のように醜く変形するのを一度でもいいから俺は見てみたい」

 「翼ってよく喋るよな。語彙があって羨ましいぜ」

 「俺の言ったことは全部スルーかよ」

 「でも翼、食べながら話すのはマナー悪いと思うぞ」なるべく話題を逸らすようにしてみる。

 「うるせぇ、話をはぐらかすな。だいたいお前はな、いつもいつも……」ああダメだ、また始まった。俺の負け。説教回避失敗。

 説教モードの翼を止めることは、ジェットコースターを素手で止めることに等しい。これは誇張じゃなく本当の話。こうなったら止まらないのが坂本翼という人間だ。これが4年の付き合いで分かったことのひとつ。野球部っぽい見た目に似合わず(丸刈り)、真面目なやつだなぁほんと。成績も良いし。

 「拙者、某幻想殺しの主人公を目の前で見ているようで感激でござる」今まで黙っていた田畑が横から口を挟む。

 「ハタ。俺は今こいつに絶賛説教中なんだ。頼むからこれ以上状況をややこしくしないでくれ。あとその口調はなんだ。またアニメの影響か何かか?」

 「こいつが影響を受けるのなんてアニメか変な小説か、そのどちらかだろ」こいつにそれ以外の趣味無かった気がするし。

 「無表情に酷いことを言うでござるな椿氏! これは最近話題のアニメのセリフで……」ああやだ、こっちもなんかスイッチ入っちゃった。こうなったハタを止めることは以下略。とりあえず2人からの話は適当に相槌を打っておくことが賢明と判断。人生、情報のインプットアウトプットが大事だって昔先生に教わったし。あまり関係無いような気もするけど。

 周りの喧騒を一旦シャットアウト。そして、窓から向こうにある街へ視線を巡らす。このしがない都立高校からの眺めは、2年生になってこの窓際の席になって以来、そこそこお気に入りだったりする。ここから少し遠くに見える高層ビル群は、昼間は太陽に照らされて輝く眩しいだけの存在だが、夕方は赤く輝き、完成間近のスカイツリーと相まって、それだけで画になる光景だ。

 ふと溜め息。今、自分はどんな表情をしているだろうか。友達2人と一緒に和やかに昼食を摂っているから、満面の笑顔か。それとも関係無い話に移行しつつある2人を見据えて、呆れ顔か。

 いや、やっぱり無表情なんだろうな。


 ああ、最後に笑ったの、いつだっけ。昼食後の眠気と共に、その疑問は深い深い、闇の中へと。




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