2話 115系
「ふう...」
「まさか今日一日で終わるとは」
博物館に住むことを決めた日の午後、私のルーミーと巡先輩のFK2を使って、私のアパートにあった家電や生活用品を運んだ。私のルーミーに大きめのものを、先輩のFK2に小さめのものを詰め込んだ。
「へぇ、こんなに積めるんだ」
巡先輩は荷物で埋まった後部座席を見て驚いていた。
「大丈夫ですか? ちゃんと動きます?」
「大丈夫大丈夫、パワーはあるから」
そうして、博物館の私の部屋に搬入した。しっかり私色に染め上げた。
「巡〜」
入り口から先輩を呼ぶ声がした。声色からして男性だ。
「そうだ、この際紹介しちゃおう」
一階に降りると、いかにも体育会系のガタイのいい男性がいた。
「おっと、俺はお邪魔だったか?」
「そんなことはないさ。むしろ丁度いいくらいだよ。この子は翫かなで。新しいサークルメンバーだ」
「よく勧誘できたな」
「ここに住むことと引き換えに、ね。かなで君、彼が」
「待て、俺から言わせろ」
男性は先輩の言葉を遮った。そして咳払いを一つ。
「俺は『亜田 怜太』。このサークルが生まれた三年前から所属している。よろしくな」
怜太さんは手を出してきたので握手した。優しそうで安心した。
私の自己紹介が終わると、怜太さんは机の上にあったノートを手に取った。
「お、懐かしいな。みんなでまとめたら半日で終わったやつだ。……にしても色褪せすぎだろ。巡、何やらかしたんだ?」
「ボクがやらかす前提で言わないでほしいなあ」
「どうだかなぁ……あ?」
どうやら怜太さんはあの空白の部分を見つけてしまったようだ。私、怒られたりしないかな?
「誰か書き忘れてんな……確か、直流……」
「直流直巻電動機、ですか?」
「……!?」
別名『直巻整流子電動機』。磁界を作る『界磁巻線』と、回転する『電機子巻線』が直列に接続された電動機である。負荷が重くなると回転が遅くなり、負荷が軽くなると高速で回転する『直巻特性』を持っていて、鉄道以外にもエレベーターや電動ドリルなどに使われている。
ただ、鉄道はかご形三相誘導電動機などの交流モーターが普及してきたので使われなくなってきた。
「……巡、お前すげえ逸材拾ってきたな」
「ボクの目に狂いはなかったようだ…!」
「ただ図鑑で読んだだけで、そんなにすごいことじゃ…!」
「それがパッと出てくるのがすげえんだよ!なあなあ、どこにそんな図鑑があったんだ?」
そう言いながら怜太さんは私の髪をかき回した。ボサボサになったけど、褒められているように感じたから悪い気はしなかった。
すぐにペンを持ち、ノートの空白に『直流直巻電動機』と書き込んだ。その後に『直巻整流子電動機と書いたほうがよかったんじゃ?』と思ったが後の祭りだ。
すると、色褪せがなくなっていき、最終的に買ってすぐに書き込まれたかのような状態になった。
「何…これ?」
「ふむ、どうやらかなで君が書き込むとそうなるのかもしれないね。ボクが書いても、そんなことは起きなかった」
「俺が書いても巡と同じだ」
私だけの、特殊能力……。ものすごいロマンだ。
「よし、じゃんじゃん書いていくぞ……!」
私のやる気スイッチは115系が押してくれた。そう言っても過言ではないと思う。
「……怜太のやる気スイッチはどこにあるのかな?」
「ほっとけ」
「次にかなで君にしてもらうとしたら、これかな」
巡は次のノートを取り出した。黒の表紙には白色ペンでこう書かれていた。
『C12形』




