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後宮の元妓女は寵愛を受ける  作者: 佐倉海斗
第四話 元妓女は望みを叶える

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08―1.最後に笑うのは、皇太后、楊 可馨

「皇帝陛下、万歳! 万歳! 万々歳!」


 翌日、市民から声があがる。


 それに応えるのは馬車に乗った子涵だった。


 梓豪の死は公には病死ということになった。長年患っていた病気による死去ということにされたのだ。それを指示したのは楊麗孝だ。


「陛下」


 可馨は子涵を呼んだ。


 まだ5歳の子涵は緊張しているようだった。


「手を振ってさしあげなさい」


「はい、母上」


「母上ではなく、皇太后陛下です。これからは親子の関係ではなく、皇太后と皇帝の関係になるのですよ」


 可馨の望みは叶えられた。


 ついに一人の妓女から皇太后に上り詰めたのだ。その際の犠牲は大きかったものの、一度、権力を手にしてしまえば、その痛みも忘れられた。


 ……ついに皇太后になったわ。


 本当は皇后になり、その後に皇太后になる予定だった。


 予定は大きく狂わされたものの、結果的には同じことだ。



* * *



 皇太后になった可馨は変わってしまった。


 お人よしの大人しい美女はいない。気性の荒く、我が子にだけ愛情を注ぐ美女に変貌を遂げた。それでも女官や下女たちは離れることなく、娘と夫を亡くした衝撃により人格が変わってしまったのだと信じていた。


「皇太后陛下」


 麗孝が書類を持って可馨を訪ねて来た。


 本来、皇帝が座るべき執務室の椅子には可馨が座り、その隣に用意された子ども用の机と椅子で子涵が勉学に励んでいた。家庭教師がついている時間は別室なのだが、宿題をする時は執務室で行っていた。


 少しでも皇帝としての仕事を理解させるための処置とされている。


 実際は、可馨が離れたくないだけだった。


 妊娠中の可馨にできることは書類仕事だけだ。他はすべて楊家の人間に回した。


「西の国で反乱が起きました」


「王家の人間を多めに配置しなさい。軍備は将軍に任せてあったでしょう」


「かしこまりました」


 麗孝は礼をする。他にも用事があるのだろう。その場を離れなかった。


 ……まだなにか用事があるのかしら。


 可馨には父親である麗孝の考えがわからなかった。


 皇帝の祖父としての権力を貪るわけでもなく、宰相の地位に留まっている。それも宰相の中では中間の地位であり、特別優れているわけでもない。


 ……腹の中が読めないわ。


 得体のしれない存在だった。


「腹の子は男児でしょうか?」


「わからないわ」


「男児でしたら、皇弟として仕事をしてもらわなければなりませんね」


 麗孝は不気味に笑った。


 それが恐ろしくてしかたがなかった。


 しかし、この場での権力者は可馨だ。怯えている姿を見せるわけにはいかない。


「儀式でしたら、出産後に私が行うわ」


「皇太后陛下に無理はさせられません」


「我が子を犠牲にするくらいならば、法の一つや二つ変えるつもりよ」


 可馨は断言した。


 皇太后になったことにより、李帝国の仕組みを知ることになった。


 李帝国は麒麟の加護により、領土すべてに守護結界が張られている。その守護結界というのは妖魔が外部から入ってこないようにするものだった。結界内で生まれた呪いや悪霊はその都度対処をするしかなかった。


 ……結界の維持に皇族の血が必要だなんてふざけてているわ。


 幼い子どもならば致死量に達するだろう。


 大人でも貧血を起こすくらいの量が必要だった。


 ……代用品を見つけなければ。


 既に目を付けている者たちがいる。


 内功に優れている人々だ。


「でしたら、提案がございます」


 麗孝はにこりと笑った。


 ろくでもない提案の時の笑顔だ。


 ……聞くしかなさそうね。


 恐らくは同じことを考えている。


 ……どうせ、考えは一緒よ。


 親子なのだ。


 似たような思考回路を持っている。


 子どもである子涵に聞かせる話ではないが、皇帝を執務室から追い出すわけにはいかない。


「なにかしら」


 可馨はなにも知らないかのように訪ねた。


 とぼけるのは得意技だった。


「四夫人を使うのです」


「四夫人を?」


「初代皇帝との密約により、四夫人は四大世家から選べません。それならば、それを利用し、守護結界を維持させるのです」


 二人の考えは同じだった。


 可馨はその言葉に考える仕草をする。


 ……成立はするはずよ。


 麒麟が欲しているのは皇帝の血ではなく、気功だ。内功を貯めることができ、気功を操ることができる四大世家の出身ならば、なにも問題はないはずだ。


 少なくとも、子涵の代で問題が起きることはない。


 ……子涵と腹の子を守れるのならば。


 李帝国の守護結界に影響を与える可能性は否定できない。


 失敗をすれば、妖魔が入り込んでくることになる。


 それは市民を危険に晒すことと同意義だ。しかし、可馨にとって優先するべきは李帝国の国民ではなく、我が子だった。


「四夫人には手紙を書きましょう」


 可馨は早速筆を手にした。


 そして、知っていたかのように文章を書いていく。


「皇太后からの命令となれば、四大世家出身でも逆らえないでしょう?」


 可馨は四夫人の自尊心が高いことを知っていた。


 元充媛が皇太后になったことも気にいらないはずだ。皇帝が亡くなった後もすぐに後宮を解体せず、そのままの宮に住まわせていたのには理由があった。


 利用をするためだ。


 皇太后になった時にすぐに聞かされた守護結界の生贄にするつもりだった。


「さすがは皇太后陛下。話が早くて助かります」


 麗孝は笑った。


 最初から提案が通ることがわかっていたのだろう。


「……いいのよ」


 可馨は笑う。


 ……青貴妃には救われたけれども。


 疑われたが、同時に護符を渡された。


 子涵が健康で育っているのも護符のおかげだろう。その点では感謝をしていたが、利用することに迷いはなかった。


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