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後宮の元妓女は寵愛を受ける  作者: 佐倉海斗
第三話 手段は選ばない

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07.下女は青龍宮で謎の死を遂げる

「――以上が検死の結果でございます。郭 春燕の部屋からは遺書が発見されており、第二公子様殺害の自白がございました」


 宦官はそういうと頭を下げて立ち去った。


 青龍宮の井戸の中で水死体が見つかった。検死の結果、充媛宮の下女である郭 春燕であることが判明した。それを淡々とした口調の宦官に告げられた可馨は椅子に座り込む。


 ……自殺に追い込むなんて。


 想定外だった。


 他の方法を使うものだと思っていた。


 ……蘭玲が仕向けたの?


 恐ろしいと思ってしまった。


 他人の命などどうも思っていないのだろう。自分の地位をあげるためならば、他人の命さえも軽々しく扱ってしまう。


「……春燕……」


 可馨は亡くなった春燕に思いを馳せる。


 いい子だった。子涵のお気に入りであり、仕事のできる下女だった。女官に昇格をしても良いと考えていたところだった。


 それが遺書を残して自殺をしてしまった。


 よりにもよって、貴妃宮だったのはどのような意図があるのだろうか。


「母上。春燕がいないです」


「ええ、そうですね。春燕は遠いところへ行ってしまったのですy」


「遠いところですか? 兄上たちと同じところですか?」


 子涵は駆け寄ってきた。


 そして、話を盗み聞きしていたのだろう。難しい話はわからなくても、春燕が命を落としたということは理解してしまった。


「いいえ」


 可馨は否定した。


 春燕は罪を犯している。暗殺された劉帆たちの元にはいけないだろう。


「第二公子様を殺したのは、春燕でした」


「え?」


「私たちは殺人犯と共にいたのです。……大丈夫ですよ、この護符をあげましょう。これさえ、持っていれば、あなたの身を守ってくれますから」


 可馨は護符を渡す。


 護符に触れたところで淡い光は出なかった。


 霊視の才を持たないものには反応を示さないのだろう。


 ……護符、信用できるのかしら。


 霊視の才がない子涵には麒麟の加護がある。皇帝の血を引く最後の公子となった子涵を呪い殺そうとする者は多いだろう。


 ……ないよりはいいはずよ。


 可馨には護符は作れない。


 ここは妃紗麻を信じるしかなかった。充媛宮を徹底的に捜査するように提言したのも、妃紗麻ではあるものの、自身の居住地である青龍宮の井戸から遺体が発見されたのだ。多少は動揺していることだろう。


 可馨を疑うからいけないのだ。


 その罰が下ったのに違いない。


「母上はいいのですか?」


「母上は武術の心得があります。心配はいりませんよ」


「そうですか。では、これは常に持っているようにします」


 子涵は素直に受け取った。


 ……この子を守らなくては。


 次の皇帝になる準備はできた。


 あとは危害を与えられないように守り抜けばいいだけだ。


 ……この子が皇帝になれば、私は皇太后になれる。


 皇后になれなくてもいい。


 皇太后になれば、政治は思うがままに動いていく。


「春燕はどうして兄上を殺してしまったのでしょうか」


「わかりません。しかし、兄はもういないのです。これからはあなたが皆を導かなければなりません」


「母上ではだめですか?」


 子涵はまだ5歳だ。


 物わかりはいい方だが、難しいことはわからない。


 ……なんて理想的な子なのだろう。


 操りやすい子どもだ。


 傀儡人形のように遣えば、政治は上手く進んでいく。


「安心しなさい。公子。母は常に公子の味方です」


「母上が難しいことはしてくれるのですか?」


「ええ。手伝いをしましょう。二人で分担をすれば問題はありませんよ」


 可馨は笑った。


 心の底から笑ったのは久しぶりだった。


 これほどにうまく事が進んでいくとは思ってもいなかった。蘭玲の言葉通り、すべてを任せて正解だったのだ。


 ……蘭玲には褒美をあげなくては。


 なにが喜ぶだろうか。


 わからなかった。


「子涵公子」


 可馨は優しく我が子の名を呼ぶ。


 ……もうあの二人は我が子を呼べない。


 罪悪感があった。しかし、そうでもしなければ皇太后になれなかった。


 子を持つ母親として、我が子を失えば胸が張り裂けるような痛みと悲しみを味わうことは想像できる。


 ……あの子たちの分まで立派な皇帝にしなければ。


 死んでいった二人の子どもを思う。


 子どもに罪はなかった。ただ可馨の野望を果たすためには邪魔だっただけだ。


「あなたに蘭玲をつけましょう」


「蘭玲は母上付きの女官です」


「ええ。そうですね。でも、信用できない者をあなたの傍に置くことはできません」


 可馨は優しく笑い、子涵の頭を撫でた。


 子涵の傍にいた春燕は罪を犯して自害した。その罪をそそのかしたのは蘭玲だったが、そのことは知らないふりをする。


 すべて春燕の責任だ。


 死人に口なしとは言ったものである。遺書まで用意させたのは蘭玲だろう。


 ……蘭玲は人を操る呪術を使えるのかもしれない。


 人の心を操る呪術があることは知っている。


 可馨も実家にいたころは都合が悪くなると使っていた呪術の一つだ。


「春燕は優しくしてくれました」


「そうですか。でも、彼女は犯してはいけない罪に手を染めました。春燕のことを思い出すのはやめなさい。彼女は殺人犯です」


 可馨は子涵を宥める。


 ……惜しい人材を亡くしたわ。


 春燕は優秀だった。


 しかし、蟲毒が扱えたことで利用されてしまった。


 蘭玲よりも優秀な人材になることを恐れたのかもしれない。


 ……春燕、どうか、安らかに眠りなさい。


 同情してしまう、


 利用されるだけ利用された春燕の遺体は実家に戻されることだろう。後宮の外に出ることを夢見ていた彼女のことを思うと、心が痛んだ。


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