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後宮の元妓女は寵愛を受ける  作者: 佐倉海斗
第三話 手段は選ばない

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06-1.勘の良い貴妃に追い詰められる

 その日の夜、梓豪は困ったような顔をしながら訪れた。

 そして、寝具に腰をかけてため息を零す。


「どうかなさいましたか?」


 可馨は水をコップに移しながら、問いかける。


 水を差し出すと、梓豪は疑うこともなく、飲み干した。


 ……子どもが呪い殺されたというのに。まだ、疑わないのね。


 可馨が毒を盛るとは考えもしないのだろう。


 実際、渡したのは井戸でくんできただけの水だ。


(チィン)貴妃が充媛宮があやしいと申してな」


 梓豪の言葉に可馨は怯えた表情を作った。


 ……勘の良い女ね。


 さすがは四大世家の出身というべきだろうか。


 呪術の痕跡を視たのだろう。


 ……嫌がらせをしてわからせないと。


 蘭玲ならばちょうどいい方法を思いつくだろう。


 寵妃を疑うということは、どういう目に遭うのか、嫌がらせをしなければ気が済まなかった。


「……恐ろしいですわ、陛下」


「疑われていることがか?」


「いいえ。第二公子を殺した犯人が傍にいると思うと、恐ろしくてしかたがありません」


 可馨は貴妃の言葉を否定しない。


 普通の死に方ではなかったことは後宮の誰もが知っている。


「呪われたのでしょうか」


 可馨は次の標的に選ばれたかのように、恐怖で顔を歪めた。


 そして、梓豪の手に触れる。


 震えた手に気づき、梓豪はすぐに手を握りしめた。


 ……陛下は疑っていないようね。


 犯人だと疑っているのならば、宦官を引き連れて調査しているはずだ。それをしないということは貴妃の話をまともに信じていない証拠である。


「不自然な死に方だった。とても、女性の手で殺したとは思えない。だが、宦官でも気づかれずに犯行に及ぶのは不可能だろう」


 梓豪は調査の内容を口にする。


 劉帆の遺体は無残にも食い荒らされていた。人間のできる所業ではない。


 朝になるまで劉帆が死んだことに誰も気づかなかったのも妙である。


 ……蟲毒とは恐ろしい呪術だ。


 昭容宮は隣国である宋国の出身者が女官や下女を務めている。宋国の第二公主として嫁入りをする際、用意された人材だった。そのため、誰も蟲毒を防げなかった。宋国は霊視の才を持つ者が非常に少なく、神獣の加護もない。


 昭容宮は恐怖で震えあがっていることだろう。


「なぜ、そのようなことが……」


 可馨は怯えながら問いかける。


 それに対し、梓豪は遠い目をした。


「後宮は呪いの温床だ」


 梓豪は呪いの存在を認識できない。


 先代が得た麒麟の加護の影響によるものだ。


「父上は後宮を作る際にそう言っていた」


「先代皇帝のお言葉でしたか」


「そうだ。意味がわからなかったのだが、ようやく、理解ができた」


 梓豪は父親である先代が残した言葉の意味がずっと理解できていなかった。呪いの温床だと言われても、呪いを感知できない梓豪ではなんの話かわからなかった。


 梓豪は可馨を抱きしめる。

 宝物のように優しく触れた。


「可馨だけは奪われたくはない」


「陛下……」


「可馨を疑う者は、皆、降格処分にした。貴妃だけは処分できなかったが、代わりに貴妃付きの女官や下女をこちらの手のものにかえる予定だ」


 梓豪は可馨を信じていた。


 そのため、疑われたことが許せなかった。


 ……貴妃は正しい。


 貴妃の予想は当たっている。


 劉帆を呪い殺した犯人は充媛宮の中にいる。


 ……正しいから認められるわけではないのよ。


 寵愛を受けていれば間違いも正しくなる。


 寵妃とはそういうものだ。


 誰もが皇帝の寵愛を受けたがるのは、寵妃になれば多くのことを得ることができるからだ。


 可馨は怯えた演技を続ける。


 疑われていることが恐ろしいのか。次に標的にされるのが恐ろしいのか。どちらにしても、天罰は下るだろう。二人の罪なき子どもの命を奪ったのだ。すべてを見通すとされいる天帝がそれを許すとは思えなかった。


「楊武官だけは可馨は無実だと訴えてきた」


「兄上ですか?」


「そうだ。さすがは兄妹だな。妹のことをよくわかっている」


 梓豪は笑った。


 抱きしめるのをやめる。


 ……兄上らしい。


 兄は嘘が得意だ。


 寵妃を疑うのは得にならないと判断したのだろう。楊家の人間は無実だというかのようなことを皇帝に訴えたのに違いない。


 ……誰も私の本性を見ようとしない。


 可馨は空しかった。


 か弱く、人見知りで大人しい女性。梓豪の理想を演じ続けることに嫌気がさしていた。


「仲が良かったそうだな」


 梓豪は会話を懐かしむかのように言った。


 そのような事実はない。


 楊家では男女別々で生活をしている。兄が複数人いることや、弟がいることは知っていたものの、関わったことは一度もなかった。


 ……嘘ばかり。


 いつの日か嘘がばれてしまわないか、怖くないのだろうか。


「はい。兄上にはよくしてもらいました」


 可馨は嘘をついた。


 そのような事実はないのにもかかわらず、懐かしそうな顔をしてみせる。


 ……兄上は私の本性を知っている。


 楊家の人々は可馨の性格を知っている。


 その上で可馨は引きこもりがちな大人しい女性だと言っているのだ。


 嘘ばかりの一族に嫌気がした。


「兄に会いたいか?」


「いいえ。後宮に入った以上は会えないものとわかっております」


「そうか。可馨は頭が良くて助かる」


 梓豪は笑った。


 可馨が会いたいといえば、お気に入りの武官であったとしても宦官にするつもりだったのだろう。


 ……楊家から宦官がでるのは恥じよ。


 宦官は罪を犯した人間だけではない。


 時には皇帝の意思で宦官にされる哀れな人間もいる。その哀れな人間に兄をしたくはなかった。


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