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後宮の元妓女は寵愛を受ける  作者: 佐倉海斗
第三話 手段は選ばない

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03.郭家に伝わる呪術

 どうすれば、子涵を皇帝にできるのか。


 それを考えていた可馨の様子を見ていた蘭玲はなにかを思いついたようだ。


「楊充媛様」


 蘭玲は声をかける。


 それに対し、憂鬱そうな顔をした可馨は視線を蘭玲に向けた。昨夜は梓豪が来なかった。理由は朱亞を冷宮送りにする手続きや王家への通達などの責務に追われていたからである。寵愛がなくなったわけではない。今夜は来れないと通達があった。


 それを憂いているわけではない。


「私に考えがあります」


「……なにができるというのかしら」


「郭 春燕を使うのです」


 蘭玲の言葉を聞き、可馨は首を傾げた。


 春燕は子涵が慕っている下女だ。下女のわりには仕事ができるので、近々、女官に昇格をさせようと思っていた。


 ……使う?


 暗殺でもさせようというのだろうか。


 そのようなことをすれば、真っ先に疑われるのは可馨だ。春燕も死にたくないだろう。可馨の指示によるものだったと口を滑らすかもしれない。


 ……洗脳は得意だけども。


 呪術による洗脳は得意だ。


 昔から都合が悪くなると使ってきた呪術の一つだ。


「郭家は玄家から破門をされた家です。私が玄賢妃を説得をすると嘘をつきましょう。そうすれば、彼女は呪術を使うはずです」


「玄賢妃は玄武宮から出てこないと噂がある方ですわ」


「はい。呪術さえ使わせれば問題はありません。利用できる者はなんでも使うべきです」


 蘭玲は迷いはなかった。


 その姿に恐怖すらも覚える。


 ……これも我が子を皇帝にするため。


 恐怖を抱いている場合ではない。


 蘭玲の企みに乗らなければいけない。


「恐ろしいことを言うのね」


 可馨は怖がる素振りを見せる。


 しかし、引くわけにはいかない。


「蘭玲。すべてを任せてもいいかしら」


 可馨は詳しいことを知るべきではない。関与をしないのが自身を守る方法の一つだ。


 それを蘭玲もわかっていた。


 なにより、蘭玲は頼られていると思ったのだろう。好意を寄せる人に頼られるのは、なによりも嬉しいことであり、同時に空しいことだった。蘭玲の好意に対し、可馨はなにも返さない。


「お任せください」


 蘭玲は見返りを求めなかった。


 すぐに立ち上がり、頭を下げる。そして、部屋から立ち去って行った。


 ……信用していいのよね。


 蘭玲から持ちかけてきた話だ。


 詳しい方法は知らない。


 なにを企んでいるのかもわからない。


 ……蘭玲。


 本来ならば青家の女官になるはずだった。


 しかし、呪術に身を染めていることが発覚し、破門にされた。


 充媛宮はそういう訳ありの女官や下女が多い。名門ではない楊家に仕えようとする者など訳ありの女官や下女でなければ、集まらなかったのだ。


 訳ありではあるものの、皆、優秀な人材だった。


 その多くが呪術に手を染めているだけの話である。


 ……私を皇太后にさせてなにをするつもりなの?


 手駒のように考えているのかもしれない。


 主人を傀儡人形のように扱おうとしているのかもしれない。


 しかし、そんなに現実は甘くはない。


「……父上に連絡をしなくてはいけないわね」


 可馨は筆を手にとる。


 他愛のないやり取りだけの手紙だ。そこに愛情はない。



* * *



 蘭玲に迷いはなかった。


 仕事をしていた下女の春燕を人気のない小屋に呼び出す。そして、にこりと微笑んだ。蘭玲は可馨のお気に入りだということは女官や下女たちの中では有名な話だった。中性的な容姿をしている蘭玲は、恋を知らない女官や下女たちの憧れの的であり、気に入られるためならば、なんでもする人間が多かった。


 蘭玲はそのことを知っていた。


 だからこそ、懐柔しやすい春燕を選んだのだ。


 春燕はなにかを期待しているのか、頬を赤くして待っている。


 怒られることなどしていないため、説教や罰を与えられるなどと考えてもいないのだろう。その姿は恋をする乙女のようだった。


「郭 春燕」


 蘭玲は春燕の名を呼ぶ。


 春燕は名を呼ばれ、緊張したような面持ちになった。期待していたこととは違うとすぐにわかったのだろう。


「お前を女官に推薦しても良いと思っています」


「本当ですか!? 蘭玲様!」


「ええ。楊充媛様も同様のお考えのようです」


 蘭玲は嘘をつく。


 息をするように嘘をつきながら、それを顔に出さない。


 可馨の意思を確認したことはなかった。しかし、すべてを任せると言われた以上のことはするつもりだ。


 それをすることで春燕の命を危険に晒すことはわかっていた。


 しかし、それを気にすることもなかった。


「女官に推薦する前に、忠誠心を試させていただきます」


 蘭玲は周囲を見渡した。


 周囲に人の気配はない。


「春燕は呪術の心得があるそうですね」


「……それをどこでお聞きになられたのですか」


「気にすることはありません。充媛宮の者の多くは呪術の心得があります」


 蘭玲はさらりと言った。


 その言葉は事実だった。


 呪術の心得がある者ばかりが集められたのは偶然だ。後ろ盾のない楊家の娘に仕えようとする者など訳ありの者しかいなかった。その結果、呪術の心得がある者ばかりが集まってしまったのだ。


 楊家は男性のみ朱家に仕える家系だ。


 女性は家のために嫁がされる道具のような扱いを受ける。


 そのような家に後ろ盾があるはずがない。


「なにをすることができますか?」


 蘭玲は問いかけた。


 それに対し、春燕は下を向いた。


「……郭家は代々蟲毒の使い手です。私も蟲毒以外は使えません」


 春燕は観念したように答えた。


 蟲毒は蛇やムカデ、クモなどを一つの壺の中に入れ、生き残ったものを呪術として扱う難易度の高いものだ。成功する確率は低く、呪術が失敗し、跳ね返されてしまえば、呪術を扱った者の命はない。


 そのような危険な呪術を春燕は扱うことができた。


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