表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
後宮の元妓女は寵愛を受ける  作者: 佐倉海斗
第二話 五年後、元妓女は動き出す

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/38

07.可馨は皇帝に訴える

* * *



 後宮で噂が広まっていた。


 音繰にわざと小麦で作った饅頭を与えたのは、殺すためだったのだという噂だ。その噂を耳にしてしまった可馨は泣いて悲しんだ。


「陛下……」


 可馨は夜を共にした梓豪に縋る。


 後宮の噂は広まる一方だった。


 それが事実であることを可馨は知っている。しかし、まるでそのような意図はどこにもなかったのだというかのように涙を流して悲しむのだ。


 それが演技であると梓豪は見抜けなかった。


「私には第一公子を害することなんてできません」


「知っている。悪い噂が流れているのだろう。噂を流したのは昭儀だろう」


「王昭儀に恨まれているのでしょうか」


 可馨は嘆いた。


 ……勘の良い女性だ。


 早めに排除しなくてはいけない。


 しかし、自殺に追い込むのには気の弱い女性にはできないことだ。充媛宮の女官や下女たちも可馨は気が弱く、引きこもりがちな美女だと思わせている。それを覆すわけにはいかなかった。


 ……どうしてくれようか。


 可馨は考える。


 その姿は落ち込んでいるように見えた。


「気にすることはない」


 梓豪は慰めた。


 寵愛を受けているのは朱亞ではなく、可馨だ。


 それを利用する以外の方法はなかった。


「王昭儀は頭がおかしくなってしまった」


 梓豪は言い切った。


 霊視の才のない梓豪からすれば、朱亞の主張は妄想でしかない。それを後宮中に広めて歩いているのだから、おかしくなってしまったのだと判断したのだろう。


 それが真実だとは思わない。


「近々、庶民の身分に落とす予定だ」


 梓豪は頭のおかしくなった朱亞を後宮に留めておくのは危険だと判断した。


 ……それは最高ね。


 王家の恥として死に追いやられることだろう。


 ……でも、まだ迷っているのね。


 すぐに実行をしないということは迷いがあるのだろう。


 朱亞は一度は寵愛をした女性だ。簡単に切り捨てることなどできなかった。


 ……めんどうだわ。


 可馨は不安そうに頷いた。


「……陛下、私は怖いのです」


 可馨は本音を口にする。


 今回ばかりは演技ではなかった。


「なにが怖いのだ」


「王昭儀が逆恨みをして、第三公子や第一公主に手を出してしまったら、どうしましょう。そう思うと夜も怖くて眠れないのです」


「そのようなことは起きない。私が夜は傍にいよう。そうすれば、眠れるだろう」


 梓豪は可馨を抱きしめる。


 ……この寵愛は私だけのものよ。


 寵愛を他の妃賓に譲る気はなかった。


 しかし、梓豪が他の妃賓の元にも出向いていることを知っている。既に寵愛は他の妃賓にも向けられつつあった。


 ……いっそ、殺してしまおうかしら。


 愛されなくなる前に愛おしい人の命を奪ってしまおうか。


 頭を過った言葉を飲み込む。


「陛下」


 可馨は優しい声で呼んだ。


 安心をしているような声だった。


「陛下のおっしゃる通りでございますね」


「そうだろう」


 梓豪は自信があった。


 ……第一公子が殺されたとも知らずにのんきなことね。


 直接手を出したわけではない。


 しかし、小麦製品を摂取すれば死に至る可能性を知っていた。それを用意したのは、可馨ではなかったが、関与したことに間違いはない。


 ……我が子は守らなければ。


 恨みを買った。


 恨みを晴らそうとしてくることだろう。


 それが恐ろしかった。


 しかし、梓豪の言葉を肯定しなければならなかった。李帝国でもっとも正しいのは皇帝である梓豪だ。梓豪の言葉は否定してはいけない。


「立太子の儀式を行わなければならない」


 梓豪の言葉に可馨は顔をあげた。


 ……立太子。


 皇太子であった音繰の死により、新たな皇太子を選ぶ必要がある。その皇太子には第二公子が選ばれることだろう。


 ……子涵が選ばれる確率は低い。


 第三公子の子涵は5歳だ。


 5歳の子どもが選ばれる可能性は低い。


 ……宋国の公主に皇太后の座を奪われるわけにはいかない。


 隣国である宋国との交流は良好だ。しかし、皇太后という権力を宋国出身の者に与えるのは、李帝国の存続の危機に繋がりかねない。


 梓豪はそのことを考えていない。


「陛下」


 可馨は梓豪に寄り添う。


 そして、甘く囁いた。


「皇太子には子涵をお選びくださいませ」


「なぜだ」


「宋国の動向があやしい今となっては、宋昭容に権力を持たせるべきではありません」


 可馨の言葉に対し、梓豪は笑った。


 ……ダメか。


 失敗した。


 寵愛を受けていても思い通りには動いてくれない。


「宋昭容は権力に興味がない」


 梓豪の言葉に嘘はない。


 しかし、真実を見抜く目もなかった。


 ……わがまま公主様として有名じゃない。


 (ソウ) 小鈴(シャオリン)はわがままだ。


 歴史の長い宋国の第二公主として甘やかされて育っており、後宮で育った経験から酷くわがままであり、警戒心だけが強い。


 それを梓豪は知らなかった。


 欲しがる装飾品や衣類だけを与えていれば、静かにしていると思っていた。


 それが間違いだと気づいていない。


「皇太子には劉帆(リュウホ)を選ぶ」


 梓豪は宣言した。その言葉に従うしかなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ