あがり症でも魔法は使える!多分、きっと、おそらく…
あがり症の魔法使いの話です。
「ひ、火を司り万物を焼く紅蓮の理よ、わ、わ、我が願いに応えたまへっ⤴!!
サ、サン・ブレイザー!」
そう唱えると、前に突き出した手から勢いよく火球が飛び出し、火柱を立てながら燃える。
はずだった。
僕の手から出たのはオレンジ色をした燃えるミミズのようなものだった。
試験官は手に持ったボードに勢いよく
「不合格」
の判を押した。
今日もまた中級魔法の呪文試験に落ちてしまった。
「はぁ…また不合格ですか、シアンさん。これで66回目ですよ?あなたと同い年の他の魔法使いの方々の中にはもう特級魔法を扱っている方だっているんですよ?」
「はい…そ、そうですよね…また受けにきます…」
僕、シアン・アガルドはあがり症だ。先程のように、人前に出るとどうしても口が回らなくなり魔力の制御が上手くできなくなってしまう。嫌な汗が出て、足も震えまくる。この誰に対してしているかも分からない自己紹介をしている間も、先程のことを思い出して泣きたくなってきた。
今回は特別に簡易版呪文での受験を認めてもらったのに、このざまだ。自分一人で練習している時にはうまく扱えるのに、たった一人の試験官のせいでうまくいかなくなってしまう。こんなだから、俺はいつもクエストを受ける時はできるだけ一人で受けるようにしている。二人以上でクエストを受けたことなんて片手で数える程しかない。しかもその全部残念な結果に終わっている。もちろんあがり症を克服しようとはしている。あがり症克服の本は何度も読んだし、魔法で作った土人形の友達「ツッチー」とは毎夜魔法について語り明かしている。
だがどうしてもダメだ。ギルドでクエストを受けようとしている今でさえも誰かに見られているような気がして、どうも落ち着かない。俺の服装は変じゃないだろうか、喋り方は?仕草は?そんな考えばかりが頭を回ってしまう。ダメだダメだダメだ。昨日のツッチーとの会話を思い出せ、そうだ転送魔術の基礎と魔法陣としての応用について……
「……ん!…ルドさん!シアン・アガルドさん!!後ろ、詰まってます!」
受付係の声で現実に引き戻された。どうやら俺は受付の真ん前で止まっていたようだ。後ろから他の冒険者達の無言のプレッシャーを感じる。
「あ、あの、ほんとすいませ、いやほんと失礼しました、お先に、いや…………」
俺は自分でも何を言っているのか分からないほどの謝罪の言葉を並べながらギルドの端へ走り去る。火が出そうなほど顔が熱い。穴があったら入りたい。
ただひたすらにギルドの壁に張り付いて気配を消そうとしていると、誰かが俺の名前を呼んだ。
「シアンさん、でしたっけ?もしよかったら、私のパーティに入ってくれませんか?一枠空いちゃって…」
振り返るといかにも冒険者初めて1週間です、みたいな装備の女の子が立っていた。人を見た目で判断するのは失礼だが、そう思うのも仕方がないような装備だった。レザーアーマーに木の丸盾、武器はギルド協会から全員に配布されるショートソードだけのようだ。こんなあからさまに初心者のような冒険者がこのギルドに来ることは珍しい。
「あの、どうかしましたか?」
俺はあまりにもまじまじと彼女を見ていたらしく、彼女が少し眉をひそめながら聞いてきた。俺はまた言葉にならない謝罪をし、なんとか言い訳を考える。
「ご、ごめん!もう入るパーティ決まってるんだ!」
「さっき受付から逃げてたのに?」
痛いところを突いてくる。その辺にあった適当なクエスト募集の紙が目に止まったので、その紙を見せながらまた言い訳を重ねる。
「実はもう昨日から一人でこのクエスト受けることにしてて…」
「そのクエスト、パーティメンバー3人以上が条件なのに?」
なんでこうも上手くいかないんだ。
「ま、まだ俺たち知り合ったばかりで、名前も知らないし…」
「私、アル・ベディクトです!あなたはシアン・アガルドさんですね!さっき受付で聞きました!」
最近の女の子は全員こんななのか。名前までいつのまにか知られていた。
「受けるクエストがないなら、私たちのパーティに入ってください!」
「わ………分かりました…お願いしますアルさん…」
どうやら承諾する以外俺がここから逃げ出す方法は無さそうだった。俺が承諾したとたん、どこからともなく彼女のパーティメンバーらしき人達が現れた。
ジョブはそれぞれ、魔法使い、弓使い、剣士のようだ。先程俺に話しかけてきた彼女もおそらく剣士のようなので、少し近接よりのパーティらしい。それよりも俺は魔法使いがいることが気になった。魔法使いがいるならどうして俺をパーティに誘ったのだろう。まさか俺を笑うために!?なんて酷いやつらなのだろう。と、勝手に被害妄想を膨らませているといつの間にか俺の隣にいた魔法使いが話しかけてきた。
「僕、ケアチー・ミツヒドです。僕、回復魔法中心のヒーラーなんです。あなたみたいな攻撃魔法が使える人がいてくれたら頼もしいです。メンバーとして、よろしくお願いします。」
「あ、いやそんな、頼もしいだなんて、もったいないお言葉で…おれ、シアン・アガルドっていいます。こちらこそお願いします………!」
「あたし、弓使いのユーダ・カリイス。ユーダでいいぜ!よろしくな、シアン!」
「俺はブルー・マーカス。主にタンク役を担っている剣士だ。俺たち実は全員最近冒険者になったばかりなんだ。手とり足とり、よろしく頼む。」
どうやらこの人達は俺を本当に頼ってくれていたようだった。受付であんな醜態を晒した俺に頼るなんて、少しずれている気がしたが、とにかく安心した。
安堵と同時に、勘違いしていた自分がとても恥ずかしくなった。やっと先程の件で真っ赤になった顔がましになってきたというのに、また真っ赤になっているのを感じた。
軽く自己紹介をした後、クエストについて話し合った。クエスト内容を軽くまとめると、
依頼者:匿名
内容:東高原にある洞窟の最奥にしか咲かない花を取ってきてほしい。
条件:パーティメンバーは必ず5人で挑むこと。
条件が少し気になるが、それ以外は単なる収集クエストのようだ。あまり気を引き締めていかなくてもよいだろう。その日はクエスト出発の日にちや集合場所を決めた後、解散となった。
クエスト当日、俺は最低限の装備しか持ってこなかった。花を入れるための大きめのカバンに、回復ポーション、薬草数種類、ナイフ、手持ち武器に大きな魔法の杖くらいだ。しかし集まってきたパーティーメンバーはなぜかガチガチに戦闘用の装備を付けて集まってきた。理由を聞くと、俺以外全員初心者のため、念には念を入れたらしい。特に問題は無いので、俺も注意等はしなかった。全員集まったので、早速出発する。
東高原はモンスターも少なく、素材等が手に入りにくてクエストも少ない。故に人があまりいないらしい。俺たちが東高原を進む間も人と全く合わなかった。それどころかザコモンスターでさえも1匹も合わなかった。俺は地図を頼りに洞窟を目指すが、あまりにも遠い。きっと東高原の最東端にある洞窟だろう。日が沈みかけた頃、洞窟の入口に着いた。とりあえず初日は洞窟の入口で野宿することにした。
野宿の準備をしていると、洞窟の中から数匹のモンスターが出てきた。夜行性のケイヴウルフだろう。アル達が戦闘準備をとろうとするが、俺は無詠唱魔法で適当に焼き払った。俺は人前で呪文がうまく唱えられないため、一時期詠唱しなくても出せる初歩的な魔法ばかりを練習していた時代があった。親にしこたま怒られたので呪文もしぶしぶ練習して、なんとか初級魔法の呪文試験までは合格したが、それ以降の結果は先日の通りだ。親に怒られないように無詠唱魔法だけは完璧にしようとしていたおかげで、今は無詠唱で初級までの威力なら簡単に出せるようになった。
アル達はとても俺を褒めちぎってくれた。俺も悪い気はしなかったが、やはりとても恥ずかしく、そそくさと自分のテントへ戻って行った。寝る前、アル達の戦闘準備への移行が素早く、整った陣形をとっていたのを思い出し、彼らも初心者なりに頑張っているのだと勝手に納得し、勝手に応援した。
翌日、全員で洞窟へ入り、先を目指した。俺がこの中では冒険者歴が長いということで、俺が先頭となり先へ進んだ。中は最初こそ明るかったが、先へ進むにつれて暗くジメジメとした雰囲気がどんどん増していった。だがモンスターは最初からずっといなかった。
とうとう最深部らしき所へ着いたが花も何も見当たらず、ただの大きな空洞が広がっているだけだった。
「?花どころか草やコケもありませんね…それどころかこれは…焦げ跡?これ、どういうことなんd…」
俺がそう言いながら振り返るやいなや、後ろの暗闇からなにかが俺の左肩を貫いた。
「!?」
突然のことで頭が回らなかった。おもわず杖を落とす。肩を見ると矢が刺さっていた。すぐに抜きポーションをかける。あまり大きな怪我にはなっておらず、傷も浅かった。すぐに天井へ火球を放つ。天井へ当たった火球が眩しく光り、洞窟全体が照らされる。
そこにはアル達がいた。しかし様子が少しおかしかった。
「ポーションまで使っちゃって。ほんとに噂通りの馬鹿なのね、シアンさん。」
「なんで馬鹿正直に僕たちのこと信用しちゃったんですか?頼りになる魔法使いさん笑」
ケアチーはこちらに手をかざし、火球を飛ばしてくる。回復が終わりきっていない俺は避けるのでせいいっぱいだった。
「やっぱり呪文唱えられないんだ笑。
恥ずかしい?やっぱり恥ずかしいの?笑」
アルがそう言いながら笑うと、他のパーティメンバーも笑い、俺に再び弓や杖を向ける。
「気づかなかったの?私たちが冒険者狩りだって。
誰があんたみたいな弱っちい陰キャ頼りにするの?
ほんと、馬鹿丸出し。」
俺はどうして気づかなかったのだろう。あの日クエスト出発日に集まってきた彼らの装備や昨夜の陣形などを見れば初心者ではないことなどすぐに分かったはずだ。回復が終わると同時に俺は杖を拾い彼らに向ける。
「え?無詠唱魔法だけでどうやって戦うの?まさか呪文 でも唱えるの?笑 何度も呪文試験に落ちてるくせに?笑」
俺のことをどこまで知ってるんだ。床の焦げ跡を見るに、何度もこうやって初心者のフリをして他の初心者や中級冒険者を狩ってきたのだろう。
「人前で喋れないあんたが、どうやって無詠唱魔法だけで戦うんだ?笑 」
確かに俺は話せない。人前に出るだけで回らなくなり魔力の制御が上手くできなくなり、嫌な汗が出て足も震えまくる。
人前ではそうだった。
だけどこいつらは違う。
こいつらは人ではなく、人の善意や優しさを啜るモンスターだ。
モンスターに容赦なんていらない。
魔力を杖に流し、一点に集める。
それをただ、放つだけだ。
【⠀火を司り愚かな者の作りし万物を焼く紅蓮の理よ…其方の救いを乞う我が願いに応えたまえ!!!!⠀】
【⠀サン・ブレイザー】!!!!
一瞬の沈黙の後、轟音と共に真っ赤な光が洞窟全体を包んだ。アルの構えたショートソードが溶け、ブルーの斧は完全に変形し、大盾ごと燃えてしまった。彼らが呆然と煌々と立ち上がる火柱を見ている間、俺はそそくさと逃げ帰った。
彼らに当てないように放ったつもりと言いたいところだが実際のところは、彼らの目が見れなかったので狙いか定まらず、思い切り床に向かって放ってしまった。というのが現実だ。だが、あの威力を見た後だと、どっちみち当たらなくてよかった。
彼らは俺の思った通り何度も初心者狩りをしており、指名手配されながらも何度か名前や場所を変えて初心者を狩っていたらしい。あの後彼らは洞窟からした轟音を調査しにきた帝国直属の騎士達に見つかり、捕まったらしい。彼らは俺が資格なしに中級魔法を放ち自分たちを攻撃してきたと主張してきたらしいが、呪文試験の試験官が、彼に限ってそんなことはない。と擁護してくれたらしく、俺が罪に問われることは無かった。嬉しいような悲しいような。
俺にはやはり一人が向いている。他人と組むと、というか人と関わるとろくな事がない。人と話すと嫌な汗が出て足も震えまくる。俺の友達はツッチーだけだ。
でも、多分、きっと、おそらく、いつかは俺にも本当の友達が出来る。はず………
そんなことを考えながら、明日の67回目の試験に向けて今日もまた一人魔法を練習する。
読んでくださりありがとうございます。
もし万が一そこそこの人気が出た場合、連載作品として書き直して連載するつもりです。何卒よろしくお願いします。




