最終話
そうして数年後。
丸腰のユジュアはたった一つ、本を手にして大樹の元へ訪れた。
先に挨拶をした長老たちに言われ、長老の家の裏手から続く林中の細道を通ってリンデッタの大樹の足元へ足を運ぶ。そして、ユジュアの記憶にはない真新しい墓標の前に辿り着くと墓標に刻まれた名前を見て、思わず名を触る。
「アリーシア・マーガレット」
ユジュアは弱弱しい声で少女の名を読んだ。
そうして、手にしていた本を広げ、1ページずつめくっていく。
「アリーシアとの約束とおり、この村を旅立った後に花を描いたんだ。期待に添えられるものがあるだろうか?」
最後の1ページまでめくり終えると本を閉じて、誰もいない墓標の前に本を置いた。
胸に残り続ける少女は決して、この本を開くことがないと分かっていながらも、どうかリンデッタの花嫁である合間に覗きに来てくれないかなんて些細な願いを込めながら。
その瞬間、来た道から強い風が流れ込み、紙の音と共にページがめくれ、止まったのはラウウェのような大きな白い花を模写した際の紙だった。
ユジュアは放心した後、乾いた笑い声を出した。
瞳がじわりと潤い、彼女に情けない姿を見せないよう墓標から背を向けたときだった。
あの日以降会えなかった白い花の少女がユジュアの姿を笑顔で見つめている。
「アリーシア……」
「ユジュア。約束、守ってくれてありがとう」
アリーシアが言い終えるのと同時に、駆け寄ったユジュアはアリーシアを抱きしめた。
「おかえり」
「ただいま」
白い花を携えた大樹の下。
赤い花畑の上で、少年はひとつの花に愛を誓った。




