表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/25

第4話『海を越えて、アメリカへ』


201X年春――


「安川傑、メジャー挑戦へ」

そのニュースは、スポーツ紙の一面を飾った。


阪神からFA権を行使し、アメリカ・MLBへ。

行き先は、ロサンゼルス・ドジャース。


「スグル、あんたがアメリカ行くなんて、信じられないよ」


空港で別れを告げた母の言葉を背に、傑は一人、太平洋を越えた。

英語力に不安はあった。だが、言葉よりも――この右腕に、自信があった。



ロサンゼルス。青空がまぶしい。


通訳とともに訪れたドジャースタジアムで、最初に出迎えてくれたのは、世界の二刀流――**大谷翔平(Shohei Ohtani)**だった。


「You must be Suguru. Welcome to LA.(君が傑だね。ロサンゼルスへようこそ)」


「ありがとうございます。I’m very honored to meet you.(お会いできて光栄です)」


自然体で握手を交わすと、その奥から現れたのは、大谷の妻――元バスケットボール選手、大谷真理まり

元日本代表選手で、引退後はスポーツ解説や育成事業にも関わる才女だった。


「傑さん、噂は聞いてますよ。主人のライバルですね?」


「いやいや……ただの挑戦者です」


スタジアムで彼女が微笑んだその瞬間、傑は“この国でもきっとやっていける”と感じた。



その日のブルペン。

隣で投げていたのは、同じく日本からやってきた右腕――山本由伸(Yamamoto Yoshinobu)。


「おう、安川。お前のスライダー、ヤバいってこっちでも話題やぞ」


「いや、由伸さんのスプリットには負けますよ。スピン量が異次元です」


MLBのマウンド――硬さ、傾斜、ボールの重さ――すべてが違った。

それでも傑は、少しずつ順応していった。



数週間後、キャンプにもう1人、日本からやってきた若き豪腕――**佐々木朗希(Roki Sasaki)が加わった。

そしてその傍には、彼の妻でモデル出身の佐々木美優みゆ**の姿があった。


「こんにちは、安川さん。うちの朗希を、よろしくお願いします」


「ええ、でも……むしろ僕のほうが教えてもらってますよ」


ドジャースは、日米混成のドリームチームと化していた。

ベッツ、フリーマン、カーショウ、そして大谷・山本・佐々木――

その中に、日本から来た“無名の挑戦者”が加わったのだった。



初のオープン戦登板の日。

相手は強豪パドレス。


「Relax, just do your thing.(リラックスして、自分のピッチングをすればいい)」

マウンドに上がる傑に、大谷が声をかける。


傑は、心の中で呟いた。


(野球は言葉じゃない。勝負は世界共通だ)


初球――

MLB仕様のストライクゾーンを突くスライダー。バッターはバットを空を切る。


そして二球目、内角高めへのフォーシーム――

バッターの芯を外したゴロは、サード・マニー・マチャドの正面へ。アウト。


3イニング、被安打2、無失点。

堂々のデビューだった。



試合後。クラブハウス。


「You nailed it, Suguru.(完璧だったよ、傑)」


大谷はそう言いながら、肩を軽く叩く。

佐々木朗希も隣で頷く。


「……最初は不安でした。でも、みんながいてくれて、本当に救われました」


「俺たちも、同じ道通ってきたからね。大丈夫、傑ならやれるよ」


そう語る山本の目は、静かに燃えていた。



その晩、大谷夫妻、佐々木夫妻、山本、傑の6人で開いた歓迎食事会。


「日本じゃあり得ない光景ですね」

傑がつぶやくと、真理が笑った。


「異国で生きる日本人同士、自然と絆が生まれるんです」


「でもね、翔平は傑さんの動画、ずっと見てましたよ。フォームが好きだって」


「マジですか……!?」


「でも、一つだけ問題があるんだよね」

佐々木美優が意地悪く言う。


「問題……?」


「傑さん、まだホームラン打ってないでしょ? 二刀流チームの一員になるには、打撃も必要よ♪」


「……マジかよ」


笑いと声が響くその夜、傑は思った。

――ここが、俺の“もうひとつの甲子園”になる。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ