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9話 完璧な仮面と不器用な本音(西村あかり )

(……最低)


生徒会室の椅子に深く沈み込み、私は両手で顔を覆った。さっきの自分の醜態を思い出すだけで、全身から血の気が引いていくのを感じる。

佐藤くん。鬼瓦先生。あの空き教室での出来事。


(なんで、私はいつもこうなの……っ!)


佐藤くんが現れた瞬間、心臓が飛び跳ねて、頭が真っ白になった。先生に「逢い引きか」なんて言われて、否定する声は見事に裏返っ

て……。彼と声がハモってしまったことにも、余計に動揺してしまった。恥ずかしい。情けない。みっともない。


他の人の前では、こんなことないのに。


生徒会長として、常に冷静で、淀みなく言葉を紡ぎ、誰に対しても堂々と振る舞える。それが私――「西村あかり」だ。成績優秀、スポーツ万能、才色兼備。周りが作り上げた「完璧」なイメージ。そして、私自身も、そうあろうと必死で努力してきた。


でも、佐藤くんの前では、その完璧な仮面がいとも簡単に剥がれ落ちてしまう。

指先が震えて、言葉がしどろもどろになって、何もないところで躓いたり、持っているものを落としたり……まるで、出来の悪いピエロだ。


(……中学の時から、ずっと)


全ての始まりは、中学2年生の雨の日だった。

当時、私はまだ今のような「完璧」からは程遠くて、内気で、少しだけ周りから浮いていた。


その日、私はクラスメイトにからかわれて、大事にしていた本を泥水の中に落とされてしまった。悔しくて、悲しくて、雨の中で一人で泣いていた時、傘も差さずに駆け寄ってきてくれたのが、彼だった。


『大丈夫? ひどいな、これ……。俺、拭くもの持ってくるから、ちょっと待ってて!』


彼はそう言って、自分のハンカチで泥だらけの本を一生懸命拭いてくれた。その時の、彼の少し困ったような、でも優しい笑顔が、今でも忘れられない。


結局、本は元通りにはならなかったけれど、私の心の中に灯った小さな温かい光は、それからずっと消えずに、むしろどんどん大きくなっていった。


彼は、あの日のことを覚えているだろうか。多分、覚えていないだろうな。彼にとっては、数ある親切の一つに過ぎなかったのかもしれない。でも、私にとっては、世界が変わるほどの出来事だった。


だから、高校で再会した時、本当に驚いたし、嬉しかった。


でも、同時に怖かった。今の完璧な「西村あかり」が、あの日の泣き虫な私だと知られたくなかった。彼に幻滅されたくなかった。


(生徒手帳……本当に、佐藤くんが見つけてくれてよかった)


昨日、彼が返してくれた生徒手帳を、私は胸ポケットから取り出して、ぎゅっと握りしめた。あの時、もし他の誰かに見られていたら……考えただけで、心臓が凍りそうになる。


だって、中には……彼には絶対に知られたくない、私の宝物が挟んであるのだから。

中学の卒業式の日に、遠くからこっそり撮った、彼の少しはにかんだ写真が。


(こんなもの、見られたら……軽蔑される)


彼に近づきたい。普通に話したい。あの時のお礼だって、ちゃんと言いたい。


でも、近づけば近づくほど、緊張で体が動かなくなって、失敗ばかりしてしまう。今日の鬼瓦先生との一件だって、彼に「変な奴」だと思われたに違いない。むしろ、「迷惑だ」と思われているかもしれない。


(どうすればいいの……?)


田中さん……結衣さんとは、すごく仲が良さそうだった。いつも隣で笑っていて、自然体で。羨ましい、と思ってしまう。


私には、あんな風にはなれない。


机に突っ伏して、深いため息をつく。

完璧な生徒会長、西村あかり。その仮面の下には、こんなにも不器用で、臆病で、ポンコツな私がいる。


いつか、彼にこの本当の気持ちを伝えられる日が来るのだろうか。いや、伝える前に、嫌われてしまうかもしれない。


(……ううん、弱気になっちゃダメ)


私は顔を上げ、窓の外を見た。空はもう、放課後の茜色に染まっている。


失敗ばかりだけど、諦めたくない。彼にもっと近づきたい。


次こそは、ちゃんと話せるように。

もっと、自然に……。


そう決意しても、心臓はまだドキドキと音を立てていて、手の震えはなかなか収まってくれなかった。

すっごくモチベーション上がるので、

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