第77話 最終話 自分が最強の幼女かどうか、自分がわかっていればいい
[理解不能。【我々】は、アトキン・ネドログを理解できません。最強の要塞を手に入れておきながら、利用権限を放棄するとは]
溶けていきながら、なおもシステムボイスはウチに話しかける。
「最強の力なんか、いらん。ウチは今が幸せなんや」
[より幸せを求めるため、他を圧倒し、淘汰する力を手に入れる機会でしたのに]
「それが余計なんじゃ」
他者を必要としない生き方は、ウチも一度は憧れたことがある。他人がわずらわしく、めんどくさくて。自分一人で生きていくために、貯金をしすぎていたことも。
しかし、この地に降り立ってわかった。
たしかに人は、一人でも生きられる。他人とかかわらなくても。
それだけでは、味気ないんだ。
テネブライの理屈は、他者といるのは「競うことと同意」なのである。
だから、唯一無二を目指す。
ウチはそうじゃない。
他者は、ともに支え合うものだと結論付けた。
それを教えてくれたのは、クゥハたちだ。
弟子、友人、国、種族、そして、お隣さん。
クゥハやカニエがいなかったら、ウチは最強だけを求めて他種族を殺しまくっていただろう。
ウチを変えたのは、間違いなくウチに関わってくれたすべての人たちだ。
「ウチは最強になりたいんやない。幼女になりたいんや」
最強の存在かどうかなんて、自分でわかっていればいい。
ただ、みんなを守れる力さえあれば、いいじゃないか。
[群れたところで、また争いは起きます。我々のように、【個体でありつつ集合体】の理論に、ご理解を]
「交渉決裂や」
ウチが言い放つと、テネブライの気配が今度こそ消えた……。
火山も落ち着きを取り戻したのか、鉛色だった空が晴れ渡る。
すべて、終わったようだ。
「アトキン、無事ですか?」
クゥハが、様子を見に来てくれた。さっきウチにケンカを売ってきた、イキリドラゴンに乗って。
「先生っ!」
「おーいっ、アトキーン!」
カニエやメフティもいる。
「アトキン様!」
ミネルヴァ姫様こと、トルネルも、ドラゴンの背に乗っていた。
「みんな揃って、お迎えに来てくれたん?」
「ノンキですね、あなたは。あれだけ強敵だった竜が相手だったというのに」
「対話で、追っ払らったで」
「そうですか。あなたらしい解決法ですね」
「せやろ?」
ウチはもう、テネブライにはなんの脅威も残っていないと話す。
「それでな。統治権を、ポーレリア王国というか、トルネルに任せようかなって思ってるねん」
「ご冗談を。この地を統べるのは、アトキン様が適任なのでは?」
トルネルが、困惑していた。
「ウチはゴザくらいの領地があったら、それでええねん。ウチを飽きさせへんお隣さんも、頼れる弟子もおるさかい」
「ですが」
「ちゃんとした領主がおらんと、テネブライは争いの種になってしまう」
テネブライの持っていた近未来文明は、ウチがすべて駆逐した。
しかし、作物などの成長促進など、まだテネブライには科学的作用が残っている。
そのせいで、テネブライの科学力を悪用しようとする者が現れるかもしれない。
クゥハの母である、魔王ベルゼビュートだって、おそらく復活するだろう。テネブライの利用価値を狙って。
それまで、ウチはノンキに発明でもしておこうかと。
「トルネル王女、ここは先生のご意見を組み入れたほうがよろしいかと」
「そうですか、カニエさん?」
「こんな甲斐性なしに国を任せたら、テネブライは三日で滅びるでしょう」
「国を守るために、懸命に戦ってくださりそうですが」
「テネブライの総力を結集して、侵略国を自分でぶっ壊しに行っちゃいますよ? 争いの火種を、自分で起こしちゃいますっ」
ちげえねえ。さすが弟子。ウチの行動パターンをよくわかっている。
「なるほど。そうでしたら、ポーレリアが責任を持って統治いたします」
「お願いしますわ。トルネル」
ウチは、トルネルと握手を交わす。
「あなたらしいですね。せっかくもらったおもちゃ箱を、軽々と人に譲ってしまうとは」
「それでええねん。ウチはお気楽幼女生活のほうが、性に合ってるんや」
そう。ウチは年齢こそ一〇〇歳を超えているが、幼女だ。
今が一番、若い。
まだまだ、テネブライの知らない活用法があるかも。
それを調査するのだ。
「ひとまず、クゥハ。テネブライ周辺をもっぺん見て回ろうやないか」
「ついていきますよ。アトキン」
ウチは、お隣さんと領地を見て回ることにした。
(おしまい)




