第70話 魔王の娘と災害の対決を、見守る幼女
竜を前に、クゥハはヤル気満点だ。
とはいえ、相手は災害と言ってもいいくらいの存在。実体すら掴めない。
「気をつけや、クゥハ。腐っても、ドラゴンを追い払ったくらいなんやから」
「はい。だからこそ、アトキンよりワタシが先に手を出したいんですよ」
いつもウチが最初に戦って、お楽しみを奪ってるからな。
「ふぅん!」
ボヤケた存在に向かって、クゥハが剣を振り下ろす。
スカッ、と、クゥハの剣が空を切った。なんの切断音もしない。攻撃は、果たして効いているのか?
その後、何度もクゥハは剣をブンブンと振り回して、竜を倒そうとする。
しかし、手応えはなさそうだ。
「ダメですね」
クゥハは、攻撃をあきらめた。剣をしまう。
「魔力を乗せて攻撃を試みましたが、こちらをまるで相手にしてくれません。なんというか、天候とか思念とかと、戦っているみたいです」
「せやな。なにと戦ってるんかな、って見えたわ」
昔読んだマンガの中に、「イメージしたカマキリと戦う」というシーンがあった。
クゥハの戦いは、その場面とよく似ている。
「アトキン。一応あなたは、言葉を発しない相手に言語を引き出すすべをお持ちですよね?」
「たしかにな」
ウチはそのおかげで、渓谷エリアの敵と意思疎通ができた。
その技術を使ったら、この敵とも話し合いは可能である。おそらくは。
「とはいえ、どうせ会話の余地はないと思うで」
テネブライの魔物たちは、とにかくナワバリを守っているだけ。
侵入者は、即排除なのだ。
この竜だって、おそらくそうだろう。
ウチは一旦帰り、翻訳の術式を開発する。
「できた~。【翻訳劇薬】ぅ~」
完成品を、ウチは天に掲げた。
「……アトキン。どうしてそんなダミ声で、道具を持つ手を上げているんです?」
「お約束や。ツッコんだらアカン」
冷静になったウチは、クゥハとともに竜の巣へ戻る。
完成したポーションを、竜のいる場所にふりかけた。
「頼むでぇ……」
ウチの祈りが届いたのか、思念のようなものが頭に入り込んでくる。
「きたきた。一応、説明はしてくれるみたいや」
「脳を乗っ取られる危険性は?」
「そんな機能があったら、ファーストコンタクトの時点で問答無用の洗脳開始やろ」
「たしかに」
気を取り直して、名前から聞く。
「ほうほう。テネブライっていうんは、あんたの名前やってんな?」
「では、【竜 テネブライ】の正体は、この大陸そのものだと……」
「せやねんよ」
竜の言い分は、こうである。
テネブライは、世界を喰らい尽くす存在だとわかった。大陸ではあるが、徐々に世界を貪り尽くすつもりだったと。
「アトキンが介入していなかったら、世界が崩壊していたのですね?」
「せやな」
テネブライの魔物が強烈な瘴気を放っていた理由は、外側から人を、内側から竜をせき止めていたから。
まさに、災害。どうにもならない相手だった。
だからこそ、ウチが倒さなければならない。




