第66話 幼女と、竜の巣
あれだけ広大だった、暗黒大陸【テネブライ】未踏破エリアも、いよいよ中心部を残すのみとなった。
高山エリアに囲まれた、底なしの大穴である。
しかし、どうも入る気にならない。冒険心や好奇心旺盛なウチでも、ためらわれる。
なにより、その名前が不穏だ。
「【竜の巣】エリアか……大層な名前やで」
他のエリアはバイオーム、つまり環境名ばかりである。
竜の巣だけ、やたらモンスターの呼称が具体的だ。
「竜というからには、敵はドラゴンでしょうか」
「行ってみんとわからんけどな。おそらくドラゴンか、その類やろうな」
ウチらはまず、トンボ型ドローンを飛ばしてみた。
しかし、なんらかのガスが発生しているみたいで、映像はノイズだらけ。まともに見ることができなかった。
自分の足で、調べろってわけね。
渋々、ウチはクゥハを連れて穴へと向かう。
弟子のカニエ、ドワーフのメフティたちには、近くに設置した小屋で待機してもらう。二人はウチら人外と違って、戦闘には耐えられない。
メフティはある程度戦えるが、凶悪なテネブライの魔物には通用しないだろう。
山を超えて、穴の周辺に到着した。
穴の広さで言えば、湖ひとつ分だろうか。
「暑いですね、アトキン。これは、噴火口でしょうか?」
穴を覗き込みながら、クゥハが推理をする。
「いや、ちゃうやろクゥハ」
噴火口なら、火山のてっぺんから伸びているはずだ。
「たしかに。それと、アトキンならわかると思いますが、ここだけ次元から切り離されているのです」
「せやねん。それが侵入を渋ってる理由なんよ」
不自然に、周辺の砂嵐が途切れていた。
テネブライでウチらをさんざん苦しめていた魔素は、ここからは出ていない。とはいえ、どのエリアにも干渉していて、ぶっちゃけ邪魔である。
開拓をするなら、このエリアはぜひともクリアしておきたい。
とはいえ、どう攻略したものか。
「対策は、しておこか」
アジトに戻って、バイオジャケットを作り直す。
「今回は、一人で戦わないんですね?」
ウチは自分以外のバイオジャケットを、三体作っていた。
「いや、これはカニエたちの護身用や」
バイオジャケットを装備したとしても、カニエやメフティの戦闘力は知れている。
ならば遠隔操作するドローンと割り切って、ジャケットには素材だけ取ってもらうことにした。
「あんたは【半永久器官】なんて、あげたところで断るやろ?」
「はい。ワタシは元々、【魔素吸収】がありますからね」
クゥハは最初から、自然界の魔素を取り込める。テネブライの魔素さえ平気だったのも、そのためだ。
むしろ、魔素の濃度が濃いテネブライこそ、彼女にとってホームと言える。
「とはいえ、今回はワタシも戦いに参加させてもらえなさそうですね」
「せや。相手は、一匹やろうからな」
ウチの想像では、相手は一体しかいない気がした。




