第51話 宿業
「なんだ! 今の揺れは!」
ノーマンたちが司令室に駆けつけると、アルケーとハズキがすでにコンソールパネルの前に立っていた。
ゆっくり振り向いたハズキの顔は顔面蒼白で、ノーマン達を見ると掠れた声を発した。
「ラウルスシティが壊滅しました」
壁の大型モニターにラウルスシティの様子が映し出される。
そこには、コンクリートの瓦礫の上を風が吹き抜ける、荒涼とした景色が広がっていた。
ノーマンもカーラも加藤もルリも、そこにいる全員が言葉を失った。初めてラウルスシティに降り立った時のあの豊かな未来都市の面影はどこにもなかった。
「あ、あれは……?」
ノーマンがモニターを指差した先には、慰霊碑だけが寂しげに佇んでいた。
「なぜ、慰霊碑だけが?」
「スルト・カーラだわ……」
カーラが絞り出すように声を発した。ノーマンの位置からもカーラが震えているのがわかった。
「墓標……のつもりか?」
加藤がモニターから目を離さずぽつりと言った。
「……そうね」
カーラは脚の震えが止まらず、その場に膝をついてしまった。
「やってしまった……とうとうやってしまった」
震える手を見つめる。
「私……やっぱり私が……」
ノーマンがカーラの肩に手を添える。しかし、かける言葉が見つからなかった。
「お姉さま……」
ルリがカーラのそばに跪いて手を握った。ルリに微笑みかけたが、その笑みに精彩はなかった。
「都市への攻撃は想定していなかったわけではないが、確率は相当低いはずだった」
アルケーが肩を落とす。
「効率を考えるとここのマザーオーブを先に叩く方が早かったはずだ、なぜ?」
「自分の手で壊滅させたかったのよ」
「?」
「……一人で背負うつもりなのよ、大罪を」
カーラの言葉にハズキが首を捻る。
「罪を背負うために、三百万の都市を壊滅させる? そんな判断がどうして出来るの?」
カーラがよろよろと立ち上がりながら答えた。
「それだけの覚悟があってやったという事です……」
「このモニター!」
加藤がラウルスの森の中の監視カメラを見た。
そこには、ローブを羽織ったスルト・カーラが、夜の暗い森の中を歩いている姿が映っていた。薄暗闇に浮かぶ紅い瞳は以前戦った時のような胡乱さが消え、明確な意思の光が宿っていた。
「歩いてだと?」
アルケーが眉根を寄せた。
「わざわざ、こちらに時間を与えているのか?」
カーラは大きく息を吐いた。
「あれは……やっぱり私だわ」
「どういう意味だ?」
「こちらの手段を正面から受けるつもりなのよ」
「意味がわからん」
「アルケーには分からないかもしれない。罪への贖罪……それとも、業を背負う覚悟というべきかしら」
「業……だって? 罪と分かっていながら、滅ぼそうとしているのか」
「私にはこの記憶がないの。でも、考えている事は何となくわかるわ」
「僕はスルト・カーラはヌシの影響を受けて、マザーオーブに接触しようとしているのだと考えていた。……だが、違った」
アルケーは額に右手を当てるとゆらりと後ろに一歩下がった。
「スルト・カーラ自身の意思でやっているんだな」
「はい、私に記憶はなくても、一万年後の世界で目覚めた時からずっと、罪悪感に苛まされていました……」
カーラはモニターに映るスルト・カーラの顔を見据えた。
「あそこにいる私は明確な自分の意思を持ってやってきます。それだけは分かる」
モニターの向こうでスルト・カーラが顔を上げた、ローブの頭巾を外すとカーラと瓜二つの顔が現れる。ルリに撃たれた右目付近は黒い霧に覆われて見ることが出来ない。
スルト・カーラはモニターを見ると微かに微笑んだように見えた。
瞬間、モニターがブラックアウトして消えた。
小さな高周波音があたりを包むと、その場の全員が固唾を飲んだ。
「ど、どうすんだ。あれは絶対来るぞ!」
加藤が声を上擦らせた。
「計画は変わらない。最初の作戦通り量子エンタングルメント発生機を使う」
「動きが遅い今なら、カーラが足止めをしなくても量子エンタングルメント発生機が使えるんじゃないのか?」
ノーマンが提案した、これならカーラに危険を犯さずにすむ。
「有効打を与えられるかは未知数だが、それでも空を飛んでいる者に照射するよりは確実だ」
「ハズキさん、照射は可能か?」
「座標さえ固定できればいつでも可能……と言いたいけど、試運転もしていないのよ。現時点で可能ではあるけど、保証は出来ないわ」
発生器のコントロールパネルの前に座りながらハズキが緊張した面持ちで答えた。
アルケーは一時考えていたが、スルト・カーラの映る別のモニターを見つめると号令をかけた。
「今より、スルト・カーラの捕獲作戦を行う! 目標は5キロ先を歩くスルト・カーラ。座標の算定と未来予測誤差も入力。起動準備完了と同時に照射だ」
ノーマンと加藤がサブコントロール席に座る。
アルケーはカーラとルリの方を見た、その目に憂色が浮かんでいるのはカーラ達にも分かった。
「もし、失敗したら、再照射までの時間を……」
カーラとルリの顔をゆっくりと交互に見交わした。
「君達に稼いでもらうことになる」
カーラは眉根を寄せると微笑んで頷いた。
「僕が頼み事をする時は、君はいつも困った顔をするな……」
「あなたの頼み事は、いつも無理ばかりでしょ?」
アルケーは視線を落とした。
「でも、君はいつもやりとげてくれた。頼りにしてる」
カーラはふっと笑った。
「いくわ」
そう言って司令室から出て行った。ルリも後からついていく。
カーラを見送るアルケーの後ろで、カウントダウンが始まった。




