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蒼海のシグルーン  作者: 田柄 満
古代都市編
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第41話 議会劇場

「アルケー・マーナー! 私は君を糾弾する!」


 ダコメ議員の野太い声が轟くと、議場のざわめきが水を打ったかのように静まり返った。

 取り残された空調の風音だけがしんしんと議場に染み入る中、壇上のアルケーは眉ひとつ動かさずマイクを取ると、淡々と話し始めた。


「私は暴走ルミノイド事件の一週間後に、皆さんのお手元に報告書を提出したはずです。この報告書には被害の規模、暴走ルミノイドの行動解析、ヌシの存在、そしてルミノイドシステムの不備に至るまですべてが記録されています。責任の所在についても明記したはずです。それが政府機関の公式記録となっている以上、改めて私を召集する理由は存在しないはずですがね」


「君は勘違いをしているようだが、暴走ルミノイド事件とは別の話だと思っていただきたい」


 ダコメ議員はニヤリと笑うと戯曲のリチャード三世のように芝居がかった声を張ると問いを投げた。


「……ではまず、ルミノイドとは何のための存在なのか教えて貰おうか?」


 アルケーはやれやれという顔をして答えた。


「そこからですか? ルミノイドシステムは本来ラウルスシティのエネルギー源であるマザーオーブのコントロールを行うために開発されたものです」


「そうだ! ルミノイドシステムはラウルスシティの生命線ともいえる、エネルギーを担う為に開発された重要なものだ!」


 ダコメ議員は一瞬黙り込み、沈痛な面持ちで議場を見渡した。その沈黙に場が息を呑んだ瞬間、彼は突如として机を叩き、体を乗り出して叫んだ。


「諸君! これは一大事だぞ!」


 その声に合わせて数人の議員が慌てて書類をめくり、傍聴席からどよめきが広がった。ダコメはその空気を待っていたかのように、アルケーに指を突きつけた。


「貴殿がその重要なルミノイドを私的利用しているという報告が私の元に来ている! これは、ラウルスシティの生命線を人質に取った悪質な市民への裏切りではないか!」


「そうだ!そうだ!」


 議場のあちらこちらからヤジが上がる。

『芝居にしても演技が臭すぎるな』とアルケーは思ったが、表情に出すことなく応酬した。


「先ほども言いましたが、全ては文書で報告しております。公式資料を無視して感情論を持ち出すことこそ、議会の冒涜では? 議会を騒がせるのがお好きなら、別の理由を探していただきたいものですね」


 ダコメ議員は顔を真っ赤にして、拳を上げると今度は机を思い切り叩いた。バン!という雷が落ちたような音が議場に響き渡り、ダコメの隣に座っていた議員の紙コップがテーブルから落ちてコーヒーがこぼれ散った。


「ここに貴殿がルミノイドを私用に使った証拠がある!」


 ダコメがパチンと指を鳴らすと、議場の空気が一瞬動いた。無数の光の粒が降り注ぐと互いに結合して板のような像を形作り、見る見る間に幾つものホログラムパネルが議員たちの頭上に広がっていった。

 そこにはカーラとルリの人間時代の写真とアルケーの家族情報が投影されていた。

 その隣には、ルミノイドカーラとルリが暴走カーラと戦っている画像が大きく表示され、横には顔部分を拡大した写真が添えられている。

 ダコメ議員はその資料を見ると不気味に笑った。


「この資料を見れば一目瞭然、先の事件で戦闘していた2体のルミノイドはアルケー、君の肉親ではないのかね。いや、元肉親と言うべきか? 近親者をルミノイド化したのはなぜか? エネルギー源の私物化を狙ったのではないか?」


「カーラとルリは今でも私の肉親ですし、ルミノイドの情報もここで大袈裟に出さずとも報告書には記載されていたはずですが」


「しかし、これは記載されていなかったぞ!」


 ダコメが手を上げると、今度は救急車の搬送記録と事故を起こした飛行車のEDR(イベントデータレコーダー)の記録が頭上に映し出される。それはカーラとルリが車の落下事故に巻き込まれた時の記録だった。ご丁寧に監視カメラの動画データーも表示され、事故当時の生々しい様子がループで何度も繰り返し再生されていた。


「これは我々が独自に調査した記録なのだが。貴殿は事故で瀕死の重症を負った妻と妹を病院に搬送せず、自分の管理下である高次物質科学研究機構に搬送させた。そして、二人をルミノイド化させたそうではないか? これは偶然にしては出来すぎではないか」


「失礼だが、それが何故そのような理解に至るのかわかりませんな」


「この飛行車のEDRの記録を見ろ。事故直前の無人飛行車の動きにも不自然な所が見られる。そう、まるで何者かが遠隔操作で事故を引き起こしたような形跡だ」


「私が故意に事故を起こしたとおっしゃっているように聞こえますが?」

 

 アルケーは目を細めてダコメ議員を鋭く睨んだ。もしもカーラがこの様子を見たら「アルケーが他人の前で感情を表に出すなんて! 槍でも降るのかしら」と驚きながら軽口を叩いていただろう。


「私が言っているのではない、データが言っている!」


 ダコメ議員は大げさに両手を広げて頭上のホログラムパネルを仰ぐと、議場をぐるりと見渡して全員に注目するように促した。

 確かにパネルのEDRグラフでは、事故直前の自動運転AIのデータに外部からのノイズが入っている事を示していた。議場がざわめき、傍聴席ではマスコミ各社がパネルのデータを手元の情報端末にダウンロードしていた。気の早い記者は本社のライティングAIに記事を書かせるためのプロンプトを入力し始めていた。


『高次物質科学研究機構のアルケー・マーナー室長追及。 ダコメ議員が議会で糾弾、肉親ルミノイド化の疑惑浮上。 事故データに不自然なノイズ。 市民の動揺と政争激化の懸念を強調して、速報記事にまとめよ。』


 アルケー糾弾を示唆するプロンプトが報道機関のデータベースを駆け抜けていった。


「これだけでは終わらない、まだあるぞ!」


 ダコメ議員はアルケーに向かって不敵な笑みを浮かべるのだった。


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