表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼海のシグルーン  作者: 田柄 満
古代都市編
42/46

第34話 空に海に

「記録によると、移民船は八隻建造されてこの惑星に向けて旅立った」


 アルケーが手元のコンソールを操作すると、空間に船名リストと船の3D映像が浮かび上がる。まるで、巨大なてんとう虫のような形の宇宙船の映像だった。


『惑星セレスティア移民船一覧』


一番船、Laurus Primaラウルス・プリーマセレスティア到着


二番船 Laurus Secundaラウルス・セクンダワープ事故で消失


三番船 Laurus Tertiaラウルス・テルティア海底に沈没


四番船 Laurus Quartaラウルス・クァルタ反乱で航路喪失し行方不明


五番船 Laurus Quintaラウルス・クィンタワープ事故で消失


六番船 Laurus Sextaラウルス・セクスタ重力コア破損漂流


七番船 Laurus Septimaラウルス・セプティマ生命維持装置破損


八番船 Laurus Octavaラウルス・オクターヴァ月の裏側に着陸


「八隻のうちこの惑星に到着したのは三隻で、うち地上に降りたのは、このラウルス・プリーマだけだ」


「八隻もいたのか。移民船は一隻だけだと思い込んでいた……」


 ノーマンは驚きと落胆を滲ませた目を伏せ短くため息をついた。そして、ゆっくりと首を横に振るとアルケーに向き直った。


「マザーオーブはこの地球に降りたラウルス・プリーマの一つと、海底にいる三番船のラウルス・ティルティアの二つがあるという事か?」


 アルケーが肩をすくめると、生徒の間違いを正す教師のような落ち着いた口調で言った。


「この惑星にはな。……月に降りたラウルス・オクターヴァの重力コアもマザーオーブ化している」


「月にまであるのか!?」


 加藤は息を呑み、瞳を大きく見開いたが、すぐに首を捻り質問をした。


「あのさ、疑問なんだけど。月に降りた船に乗っていた連中はどうしたんだ? まだ月にいるのか?」


 カーラが加藤に首を向けると、少し悲しそうな顔をして、昔話をするかのように話しだした。


「ラウルス・オクターヴァの到着は、プリーマ到着の30年後だったの。乗員のほぼ全員はこの地球に降りてきて、この街に住んだのよ……」


 カーラはまるで天井の上にある月を見通すかのように上を見上げた。


「プリーマで来て、苦労して街を作って新しい文化や経済を発展させた人達と、30年後に来た元の地球の人達とはあまり上手くいかなかったの。どうしても馴染まない人たちは月のオクターヴァに戻って、そこに住んだわ。二度と飛び立つ事はない宇宙船にね」


「そいつらはまだ月に住んでいるのか?」


「オクターヴァに還ったのは107名、それから270年近く経った今の人数はわかりません。……月の環境は住むには厳しすぎたのです」


「海底に沈んだティルティアは?」


「海底でティルティアは健在です。ティルティアの乗員も一部の保安要員以外はこの街に住みました。ティルティアが到着したのは、プリーマ到着の5年後で街もまだ新しく、建造途中だった事もあって街に馴染んで暮らしています」


 加藤は母親から童話を聞かされている子供のように、ホッとした顔をした。


「そうか、街に住んでいるんだな」


 ルリが突然大きな声を上げると、パンッと手を叩いた。


「あ! 間違いありませんわ!」


「なんだよ、ルリ。大きな声を出して」


「ラウルス・ティルティアですわよ! わたくしがいたシェルターは!」


 ルリは両手を口元に寄せ、扇のように開いた指先を小刻みに震わせた。頬は興奮で上気し、瞳は宝石のようにきらめいている。


「あれは遥か彼方の宇宙から来た宇宙船でしたのね……確かにその痕跡は幾つもありましたわ。なにより、ここの街の作りが何処かで見た気がしていましたけど、同型船でしたのね」


「君はティルティアにいたのか?」


「海の底のティルティアで……わたくし、一人で一万年を過ごしましたの」

 ルリが掠れた声で口にした瞬間、部屋の空気が凍りついた。


 アルケーが驚きを隠せず愕然とした。

 カーラがこんなアルケーを見るのは初めてだと思うほどだった。


「一万年も……か。なぜルリはティルティアにいたんだ?」


 言い方はぶっきらぼうだが、加藤の目には涙が浮かんでいた。


「ティルティアには意味があるのだよ。あの船は大規模災害時の避難先に指定されている。ここ一帯は活断層の真上だ。いざ地殻が動けば、この都市はひとたまりもない。その時に人々が逃げ込む場所こそ、ティルティアとオクターヴァなのだ」


「つまり」


「この先いつになるかは分からんが、緊急避難が必要な事態が起こると言う事だ。ルリもその時に搬送されたのなら筋が通る」


「緊急避難が必要な事態って、そんな大災害がくるのか? やばいじゃんか!」


 加藤が目を白黒させて、頭を掻きむしった。


「暴走したあいつが必ず破壊に来るわ……」


 唇を強く結んだカーラの瞳には揺るぎない覚悟の影が差していた。


「完全に奇襲された形だったが、暴走カーラにしてもカーラやルリの存在は予期していなかったからな。被害は都市中央部の一部破壊で済んだが、今度来た時はそうは行かないだろうな。最悪、地殻変動もあり得る」


「街の人たちはどうしているんだ?」


「被害のあった地区の住人はシェルターにいるが、無事だった地区の住人はまだ住んでいるよ」


「避難させた方がいいのではないか?」


「この街の人口は約25万人だが、ティルティアとオクターヴァの収容人員はそれぞれ3万人だ。全員避難は出来ない」

 

 全員の顔から血の気が引いた。


「き……9割以上は取り残されるのか?」

「19万人……非情な数字だよ」

「どうするんだ! パニックになるぞ」


「避難については中央の連中の仕事だよ。一研究機関の仕事ではない。それ以上に僕一人の判断ではどうにもならないよ」


「いいえ……今度は絶対私が止めるわ」


 カーラがメンテナンスベットから降りて立ち上がった。体についた傷や損傷はきれいに直っていた。


「解決策はそれしかないだろうな」


 アルケーは微かに眉間に皺をよせて考えていたが、何かを決心したように口を開いた。


「君たちに見せたいものがある。特にルリ、君に見て欲しい」


「わたくしですの?」


「ああ、君にとっては乗り越えなければならない事の一つだ……」


 そういうと、メンテナンスルームのドアを開けた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ