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蒼海のシグルーン  作者: 田柄 満
古代都市編
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第32話 地に足つけて

 ユミはチーフとして多忙を極めた。


 投票の結果、ラウルス・プリーマ号は惑星セレスティアに着陸する事に決定されたため。着陸の準備に追われている。


 着陸したら、十年以上続けてきた宇宙船内での生活も一変する。付近の捜索と都市の建設もあるが、それ以上に未知の生命体や物体に出会う可能性もある。


ユミなどはそれを想うとワクワクするのだが、そうは思わない勢力もいるのだ。


ユミはチーフ席で独りごちた。

「セレスティアで新しい冒険や発見をする方が人類のためと思うんだけどな。未知の星に降りるなんて、科学者冥利に尽きるじゃない」


オペレーター席でサトルがコンソールを操作しながら答える。


「彼らの主張は、セレスティアに残る勢力と他星に旅立つ派を分けるのは、単純に確率で考えれば二分するのは悪くない考えの様に思えますけどね」

 コンソールでの入力を終えて、エンターキーを押した。

「ラウルス・プリーマ号は元々セレスティアまでの航海を目標にして設計された船ですよ。それ以上の航海を続けられるとは思いません」


「そこなのよね。重力コアにも耐用年数があるわ。セレスティアに着く前に切り離さないとセレスティアが地球の二の舞になる可能性だってある」


「重力井戸による、惑星の軌道破壊ですね」


「そう、皮肉にも私たちは地球を破壊した技術で星を渡ってきた事は忘れちゃだめだと思うんだ」


「重力コアと付属施設のパージ。準備できました」


「セレスティアへの突入、いつでもできます」


 船長が顔を上げて、セレスティアへの突入命令を出そうとした時、ブリッジのドアが開き、数人の男が入ってきた。


「突入は阻止させてもらう」


 男たちはそれぞれ、銃で武装していた。

 船長が鼻白んだ顔で怒鳴った。


「船内での銃火器の所持は固く禁じられている! 貴様ら、その銃はどこで製造した!」


「データを複製して自作した。備蓄の金属と3Dプリンタでな」


 リーダー格の男が言い放つと同時に、他の男たちがオペレーターたちを制圧し、コンソールに銃口を向けた。


 サトルが立ち上がろうとした瞬間、男のひとりが威嚇射撃を放った。鋭い閃光と音。天井に跳弾が飛び、ユミが思わず身体をかがめた。


「落ち着いて……!」と船長が叫んだ。「何が目的だ。なぜ突入を阻止する?」


「セレスティアに着いてはいけない。あの星は呪われた星だ! あの星に触れたら、きっと人類は終わる……お前らには聞こえないのか?」


「馬鹿な……この航路は投票で決めたんだぞ! 貴様らは民主的合意を踏みにじるつもりか!」


「わからないのか? あの星から出ている負のエネルギーが。あの星に降りたら俺たちは二度と出れなくなるんだぞ!」


 男たちはブリッジの主制御系に装置を取り付け始める。ユミは目を見開いた。EMPジャマーだ。これでは外部からの遠隔操作もできなくなる。


 サトルが苦しげに声を絞った。


「奴らN.O.Aだけじゃなく……重力コアの制御系まで――」さ


「そういうことだ」


 リーダーが不気味に笑った。


「この船はセレスティアから離れる」


 船が加速しだして、軌道が変わった。


「船が衛星軌道から外れる! このままだと宇宙を永遠に彷徨う事になる!」


 ユミが叫んで、コンソールを操作しようとするが、入力が全て拒否された。


「この船のコントロールは我々が握った」


「馬鹿な、何処に行く気だ」


「約束の地だ」

 

「そんなものはない!」


 船長が声を荒げた! その時だ。


 ズズズ……ズズ……ッ


 ブリッジに何かを引きずる様な音が響いた。いや、ブリッジだけではなく、船全体に不気味な音が響く。

 待機室に、居住区に、医療区に、機関区に。


 ズズズ……ズズ……ッ


 機体が軋むような、骨がきしむような、どこか“生き物”めいた音だった


「この音はなんだ?」


「わかりません! 船の外から船内に響いているようですが……」


「馬鹿なここは真空の宇宙だぞ!」


 それでも音は止まらない。壁を叩くように、何かがそこにいる、気配がする。


「違う、これは音じゃないです! 頭の中に直接入ってきている……耳を押さえても何処にいても聞こえてくるわけです!」


ユミが叫ぶ。


 突然、船が大きく揺れた、重力コアの出力変動が起こったのだ。

 

「おい! 軌道が変わったぞ! 何をしている! 何もしていない? そんな事あるか!」


 テロの男がトランシーバーで話している。


「N.O.Aも動いてないし私たちも何もしていないのに船が動くなんて!」


 ユミが震える声で報告した。


「惑星セレスティアに近づいています。このままだと激突します!」


 ラウルス・プリーマ号は砂地獄にはまった一匹の蟻の様に、黒い霧に包まれながら惑星セレスティアへの高度をどんどん下げていった。

 


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