5話 ゲーマーとスモーカー
「だとしても遅いわ!」
「いやぁ、色々あってねぇ」
ジャージの女性が怒ってるのに対し、ココアは頭の後ろを掻きながら舌を出してそう言う。
癖なのだろうか。
「彼らは誰なんだ」
「あぁ紹介がまだだったね。髪が長いのが…」
「そんなの後でいいから早く帰ろ」
ジャージを着た女性が話を遮る。
帰るといっても、周囲には移動できるようなものはない。
ないとは思うが、ヘリで来てたとしたら軍人に見つかって撃ち落とされる可能性があるからな。
そう思ってるとジャージの女性の目の前に紫色のモヤを放つ円形の何かが現れる。
2mほどくらいだろうか。
そこそこ大きなそれに、ジャージの女性とおっさんは入っていき、おっさんは俺の方を向いて手招きする。
入れってことなのだろうか。
おそらくさっき説明していた印持者とやらの能力だと思うが、何かを代償にしたようには見えなかった。
スペードの印は常時発動するから、任意で発動してるこれは違う。
クローバーの印は唯一の条件型だが…仮にそうだとして、どんな条件が揃えば発動出来るのだろうか。
考えて立ち止まっているとココアに右手を引っ張られた。
「気にしないで、別に身体に影響あるものじゃないから」
「いや、そういう心配はしてる訳じゃ…ここは?」
円形の何かを潜るとそこは雪積もる森の中ではなく、高級ホテルのフロントみたいな場所だった。
綺麗な装飾をされたシャンデリアに、綺麗な大理石の床。
誰が掃除しているのだろうか、ホコリ一つも見えない。
それに、国に狙われる人の隠れ家にしては豪華すぎる。
「そんじゃあ、わっちは仕事終わったから部屋戻るな」
「あぁ〜ちょっと〜」
「しょうがないさ、アイツは1日に一回でもゲームに触れてないと暴走するからな」
ジャージの女性はそそくさとどっかに行き、ココアはそれを止めようとしたが、おっさんが肩を掴む。
ココアもそうだが、国に追われてる身とは考えられないほど緊張感がないな。
流れに乗って着いてきたが、本当に着いてきてよかったのだろうか。
「しょうがないか。まぁ軽く紹介すると、さっきいなくなった子はフィルナちゃん。そしてこの人がガリルおじさん」
「よろしくな坊主」
ガリルおじさんと呼ばれるおっさんは手を差し出してきたので、俺も手を出して握手する。
近づけば近づくほどタバコ臭いな。
でも、顔立ちを見るとそこそこ若いな…20代後半くらいだろうか。
顔立ちがいいな。
「まぁ俺らの挨拶はこれぐらいにして、君の名前は」
「俺はキリル…キリル・クローバーだ」
ココアが俺の身分証を見て言っていただけなので本当かは分からないが、問題ないはずだ。
…身分証?
「あっ!? 身分証!」
「坊主? いきなりどうした」
「あれ?どうしたの?」
軍人との戦闘で色々あって忘れていたが、身分証を取りに戻るのを忘れていた。