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逆行/巻き戻りの物語@豆狸

昔々あるところに

作者: @豆狸

 あら殿下、昼食ですか?

 私は彼を待っているところですの。

 ご存じでしょう? 今日は騎士科で勝ち抜き戦がありますのよ。

 彼ったら絶対優勝するからお昼休みが遅くなるって。

 そのくせ私の姿を目にしたら、そちらに気を取られてしまうからって、応援に行くことを許してくれないんですの。


 彼が来るまでお話ですか?

 ええ、かまいませんわ。

 あらまあ、私が殿下にお話をするんですの?

 ふふふ、なんだか子どものころのようですわね。

 あのお話をまたして欲しい? わかりましたわ。では──


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 昔々あるところに、ひとりの女の子がいました。

 女の子は、婚約者の王子様を大層愛しておりました。

 王子様のために美しくあろうとし、王子様のために厳しい妃教育に勤しみ、王子様のために人脈を広げて社交に励んでいました。

 あまりにいろいろなことに手を広げてしまった女の子からは、婚約者の王子様と過ごす時間がどんどん減っていきました。

 女の子は頑張り過ぎたのです。


 女の子が王子様と会わないでいる間に、王子様は女の子以外の相手と恋に落ちていました。

 王子様が恋をしたのは、学園で出会った可愛いピンクブロンドの男爵令嬢でした。

 男爵令嬢への想いを真実の愛だと信じた王子様は、学園の卒業パーティで女の子との婚約を破棄しました。

 それだけでなく、王子様は女の子が男爵令嬢を虐めていたと決めつけて、女の子を処刑してしまったのです。

 女の子が王子様の婚約者に選ばれたのは、女の子が光の女神様に愛された一族の娘だからでした。ですので、女の子が処刑された瞬間に、王子様の国は光の女神様の加護を失ってしまいました。


 王子様の国が光の女神様の加護を失うと、ピンクブロンドの男爵令嬢は真の姿を現しました。

 男爵令嬢は世界を滅ぼそうとする闇の神が変身した姿だったのです。

 王子様はずっと婚約者の女の子の愛によって、だれよりも強い光の女神の加護を授かっていたのですけれど、自分自身の浮気心によって加護を打ち消し、闇の神の虜になっていたのです。

 闇の神は女の子を処刑してくれた王子様に感謝して、王子様に不死を与えました。

 王子様は不死だけれど不老ではなく、傷つき痛みを感じる身体で、世界が滅びていくのを見続けたのでした。


 話は変わって、女の子には幼馴染がいました。

 婚約者を愛する女の子をずっと見守っていた男の子です。

 実は男の子は女の子を愛していました。

 愛しているからこそ女の子の気持ちを尊重し、王子様との関係を応援していたのです。

 滅びゆく世界で、男の子は闇の神へと反旗を翻しました。


 世界を救うためではありません。

 女の子の命を奪った闇の神に復讐するためです。

 長い戦いの果てに、男の子……最後は老人となっていた彼は闇の神を打ち砕いたのです。

 滅びかけていた世界は救われ、光の女神は彼を褒め称えました。

 神同士が戦うと世界が崩れてしまうため、世界を滅ぼしたかった闇の神は自身の力を存分に使えましたが、世界を守りたい光の女神は人間に加護を与えて、それぞれの意思に任せるしかなかったのです。


 ──世界を救ってくれた褒美に、貴方の願いを叶えましょう。


 光の女神は彼に言いました。

 滅びかけた世界を修復するついでになら、光の女神は加護を与えるという形でなく、自身の力をそのまま使うことが出来たのです。

 彼が願えばどんなことでも叶えられたでしょう。

 新しい世界すべてを統べる王にも、不老不死の存在にも、神に等しいものにもなれたでしょう。

 彼は光の女神に願いを告げました。それは──


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 これでおしまいですわ、殿下。

 私が幼いころお昼寝したときに見た夢の話なので、つじつまが合っていないところがあるのはご容赦くださいませ。

 男の子が告げた願いはわかりません。

 それを聞く前に目が覚めてしまったのですわ。

 本当の話なのではないか? あらあら、おかしなことをおっしゃいますわね。


 これが本当の話だったとしたら、今私達がいるこの世界はなんなのですか?

 男の子が光の女神に時間を戻して欲しいと願って、闇の神だけがいない元の世界になった?

 ふふ、そうかもしれませんわね。

 夢で見た男の子は私の婚約者に似ていたような気がしますわ。

 女の子と王子様の顔は覚えていないのですけれど。


 ええ、殿下が婚約者を裏切るような方ではないと存じておりますわ。

 この学園には可愛いピンクブロンドの男爵令嬢もいらっしゃいませんし、そもそも殿下にはまだ婚約者もいらっしゃいませんもの。

 幼いころに婚約のお申し出を断った私が言うのも僭越ですが、幼馴染として心配していますの。

 早く素晴らしい真実の愛のお相手を見つけて、この国のためにもお幸せになってくださいましね。

 私? はい、私は幸せですわ。婚約者を愛していますもの。


 婚約者も私を愛してくれていますわ。

 私のためなら世界を滅ぼそうとする闇の神だって倒してみせると言ってくれるほどですのよ。

 大口を叩く男だとお思いになりますでしょう?

 ですが、私はなぜか彼の言葉が信じられるんです。

 そんなにも強く彼が私を愛してくれていることを、ずっとずっと前から知っているような、そんな気がするんですの。


 あら、彼が来ましたわ。

 こんなに遅いということは、言葉通り勝ち抜き戦で優勝したのでしょうね。

 よろしければ殿下も一緒に昼食を……まあ、生徒会室へ行く途中でいらっしゃったのですか。

 もしかして私をひとりにしないよう無理して付き合っていてくださいましたの?

 ふふふ、学園の中なのだから大丈夫ですわ。ですが、気遣ってくださってありがとうございます。


 それでは殿下、さようなら。

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